―「ところかまわずナスかじり」第五十四話 ワニ ―

 ワニと聞くとみんな、あのワニを想像しがちですが、私のここで言う‟ワニ”は、そこら辺にいる普通の‟ワニ”なんかではなくてですね、‟超”が付くほどの‟ワニ”のことです。よろしいですか?

 さて、ここで私の言及しておるワニですが、・・・しゃべります。ワニに言葉を教えたのは、実は私でござます。そこに至るまでの苦労はここでは言及致しますまい。それはあなた方の知らなくていいことであるし、知ってもしょうがないことでありましょう。ただ、これだけは言わせてください。その道に精通するために通らなければならないのは、茨の道だった、ということを。

 この写真をご覧ください。ほら、ここ。そうです、ここ。笑顔のワニの両頬。そうです。エクボです。かわいいでしょ?実はこのエクボも私の発明したモノの一つでございまして。『必要は発明の母』と申しますね?この言葉こそこのエクボの発明に至る物語をずばりと言い表しておりまして。このエクボと話術。もうこれだけそろっていたら当然優勝は間違いはなかったのですが、私はさらに、それにもう一つ付け加えたのです。ふふっ。なんだと思われますか?当てたらすごいですよ。
 え?『ダンス』?
 あ・・・。
 ま、まぁ、ここまでヒントを出したら当然察せますよね。いや、発想することと実行することは別モノですからね。まぁ、私も最初はダンスなんてとてもムリだろう、と思ったのですがね。ここに・・・、ああ、これだ、これだ。この写真をご覧ください。どうです?きちんとステップを踏んでますでしょ?このステップを踏んだすぐ後に三回転ひねりをするんです。もう、その会場におられたお客様のみならず、この業界の通であるはずの審査員の皆さんですら目をムいておられましてね。すごいでしょ?

 さて、実はそのワニの皮でできているのですよ、この財布。一万五千円。どうです?


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