― 「ところかまわずナスかじり」第百八十六話 警棒の先にあるもの ―

 世の中の進歩の度合いは加速度を増している、と言えるだろう。
 例えば、自動運転なんてまだまだ先の話、と言っていたら、いつの間にかもうすぐ目の前に迫っている。
 科学の進歩、とくにAIの進歩が世界に及ぼす影響は計り知れない。
 そこで本日は、警棒の未来について考察していきたい。

 警棒というのは、警察官や警備員が腰にさしている、あの伸縮性のある棒のことですね。
 これは当然、武器を持った犯人や不審者の取り押さえに使われる武器なんですが、未来に於いてはこれにAIを装着させることが当然考えられるわけです。
 AI付き警棒とはいかなるものか?

 これは当然、顔認証機能によって、相手の正体が知れる。住所、氏名、年齢、犯罪歴どころか、その病歴から肉体的な弱みや精神的な弱みまで知れてしまう。そこまで分かってしまうとどうなるかというと、警棒が相手の肉体的な弱点を突きながら、音声で精神的に追い込むわけですね。

 精神的な追い込み。それはもう、AIですから容赦ない。
 『DNA判定の結果、あなたが両親だと思っていた人物たちは赤の他人でした』
 とか、
 『3年以内にあなたの殺される確率は96%です』
 とか、
 『あなたが去年付き合っていた相手がこういうことを言ってます・・・「あいつさぁ、ほんとマジキモくてさぁ~。だって、臭いんだもん。全部。口臭なんてさぁ、もう、ドブ!え?いやいやいや、ヤッてない、ヤッてない!あんなのとヤレるわけないじゃん!まだ野生動物の方がいい!でもさぁ、あいつ、何ていったと思う?『ヤラないと別れるぞ』だって!しかも、泣きながら!ウケるっしょ?もう、動物以下!キャハハハハハ!」』
 などの情報が巨大な音量で、辺りに聞こえるように放送され、同時にその情報全てが、現在の彼の血走った姿とともにライブで世界中にネット配信されながら、5年前に骨折した左足首を執拗に攻撃され続けるのである・・・

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