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システムエンジニアと学び

今回はわたしが生業にしている "システムエンジニア" というお仕事についての話をしたいと思います。

はじめに

わたしは Twitter が好きで、主に情報収集ツールとして活用させてもらっています。Twitter を利用しているユーザーの総数は世界で1億5千万人ほどほど、日本国内で4千5百万ユーザーほどと言われており、そこそこ賑わっている SNS です。ITエンジニア界隈の人間は Twitter 利用ユーザーが多く、大変賑わっている印象があり、さまざまな情報が日々飛び交っています。

SIer vs Web系

そんな Twitter を見ていると、1ヶ月周期くらいで「SIer vs Web系」のバトル(?)がよく見受けられます。わたしが見る限り、戦っているわけではなく一方的な(くだらない)攻撃的発言が非常に多いように思いますが、そこのところは脇に置いておきます。そもそも論で、個人的にはこの SIer と Web系という2者は2項対立の立場にないと考えています。主戦場が違うということです。主戦場が違うのだから、SIer vs Web系という議論をいくらしようとムダというのが持論です。

わたしは SIer という業界に長く身をおいており、Web系の仕事をしたことがあるわけではありませんが、Web系はその名の通り "Webサービスを運営・提供するIT企業" のことと認識していますし、この認識は間違ってないと思います。すなわちその主戦場はあくまで ”Web(インターネット上の World Wide Web) " なわけです。

一方、SIer の主戦場はエンタープライズ IT です。企業を維持する・成長させるために必要な仕組みを IT というツールを使い、仕組みを提供することによって企業の成長をサポートすることがコア業務となります。たしかに場合によっては Webサービスを構築・運営することもありますが、それは SIer が手掛けるエンタープライズ IT のひとつの側面でしかありません。従業員アカウントを管理する仕組み、コミュニケーションを円滑にする仕組み、グローバルなネットワークを構築する仕組み、複雑な会計処理を寸分違わず行う仕組み、…などなど、エンタープライズ IT の守備範囲は途方もなく広いものなわけです。

だから SIer と Web系ではフィールドが全く違います。2項対立の図式が成立するわけがないのです。そんな一部分しかフィールドが重複していない業界同士でいがみ合っているのを見ると、「この人たちは本当に暇なんだろうなぁ」とどこか感心する気持ちすら湧いてきてしまいます。

ということで、SIer vs Web系という図式について議論したところで不毛なのでこの話はここまでにするとして、じゃあよく "クソ" と揶揄される SIer という職業はいかなるものなのかを今回は掘り下げてみたいと思います。

SIerは企業体、SEは人

SIer というのは働く人そのものを指す言葉ではなく、企業体を表す言葉です。システムインテグレーション(SI)を行う業者ということで SI に -er をつけた造語であるとされています。じゃあ SIer で働いている人のことをなんというかというと、これがシステムエンジニア(通称、SE)です。

SEと呼ばれる職種

この "SE" という言葉はかなりやっかいで、SE に当てはまる職種は本当に多種多様です。SIer のような IT 技術の提供を生業としている業界の人間はもちろん SE ですし、情報システム部門で働いている人間も SE に含まれます。さらに、IT コンサルと呼ばれる人間も広義には SE に含まれます。

また、その専門性からエンジニアであったり、システムアーキテクトであったり、プロジェクトマネージャーであったりとさまざまな呼称をもっており、ひとくちに "SE" と言っても仕事内容は千差万別です。もっと大きなところでは「業務システム系」なのか「インフラ系」なのかという分類もあります。たとえば、合コン相手に "SE" がいたとしても、いざ話をしてみると仕事内容が違いすぎて盛り上がらなかった、なんてこともしばしばです。

情報処理技術者試験からみるSEの本質

どうしてこんなことが起き得るかといえば、SE職の守備範囲の広さにその原因があると考えています。

みなさんは情報処理技術者試験というのをご存知でしょうか。独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が年2回開催している IT業界で働くすべての人を対象とした国家試験のことです。

情報システムを構築・運用する「技術者」から情報システムを利用する「エンドユーザ(利用者)」まで、ITに関係するすべての人に活用いただける試験として実施しています。特定の製品やソフトウェアに関する試験ではなく、情報技術の背景として知るべき原理や基礎となる知識・技能について、幅広く総合的に評価しています。(IPA - 情報処理技術者試験とは

受けたことがある、または勉強したことがある人はよくご存知だと思いますが、この試験の試験範囲は半端じゃなく広いです。情報処理技術者試験は下記3つの分野に大別されます。

・ストラテジ系:企業活動や経営管理に関する事項
・マネジメント系:システム開発、プロジェクトマネジメントのプロセスに関する事項
・テクノロジ系:情報技術や概念に関する事項

単に「テクノロジが好き」というだけでは決して合格することができない試験であることがお分かり頂けるかと思います。SE になると、多くの会社では新入社員に基本情報処理技術者試験に合格することをミッションとして与えます。これはなぜでしょうか。

SEの広大な守備範囲とソリューションビジネス

答えは、真に SE として大成するためには、情報処理技術者試験で問われるような幅広い知識を身につけ、さまざまな業務・ポジションを経験し、常に成長し続けることが必須だからです。

現代の SE には単に "テクノロジを提供する" という従来の人材ではなく、"顧客があるべき姿から課題・ゴールを設定しソリューションを提供する" 人材が求められています。もちろん、ソリューションビジネス事態は従来から重要視されていましたが、近年とくに重要視されていると感じています。この "あるべき姿から課題・ゴールを設定" するというのがミソで、これには顧客の経営スタイルに寄り添う必要があります。"顧客の経営スタイルに寄り添う" ためには、IT から経営まで幅広い知識と経験をもった SE が必要となるわけです。

日本企業が抱える課題

さて、なぜ SIer がソリューションビジネスを重要視しているかもう少し深堀りしてみましょう。わたしは、ソリューションを提供できなければ IT 投資が進まないからだと見ています。これは持論ですが、日本の多くの企業が抱えている課題として、以下の3つがあげられます。

① SaaS のような簡単に利用可能なシステム、サービスが巷に溢れている一方で、過去に構築したシステムが足かせとなり抜け出せなくなっていること
② IT リテラシーが著しく低いこと
③ "あるべき姿" を描ける人材が圧倒的に不足していること

わたしはまだ30歳手前なので古いシステムたちがどのようにして出来上がったのか詳しくは知りませんが、きっとレガシーなシステムが生まれた当時は画期的なものだったのだと信じています(最初から必要とされないシステムだったとしたら悲しすぎます…)。

しかし、そんなシステムに依存しすぎてしまった結果、「そのシステムがなければ業務ができない」という強い固定観念に囚われてしまっている人が多いのではないでしょうか。もしくは、「変えなければいけないことは分かっているが、なんだかんだ業務は回っているし巨額の投資をしてまで "道具" を変える合理的な理由がない」というケースも多いでしょう。そんな状況が足かせとなり、IT への投資が進まない、これがいまの日本企業の現状だと考えます。

また2点目、日本は IT 教育に完全に失敗しています。IT は与えられるツールに成り下がっており、自ら使いこなす人間は極少数しかいないということです。IT に従事している人の中にすら、IT をツールとして使いこなせない人がかなりの数います。悠長に "プログラミング教育をどうするか" とか言ってる場合じゃなく、日本のビジネスを前にすすめるために早急に IT リテラシーの向上が必要です。IT リテラシーが低いからこそ、新たなシステムへの変化を恐れ、IT 投資が進まない一因となってしまっていると考えます。

最後に3点目、ほとんどの企業が抱えている問題と思いますが "あるべき姿" を描ける人間が圧倒的に不足していること、これは紛れもない事実です。原因は詳しくはわかりません。年功序列に染まりきった結果、頑張る必要性を感じない社員が増えたせいかもしれませんし、自由主義が進みすぎた結果、個人プレーが横行し、会社として進むべき方向が全社員で共有できていないからかもしれません。とにかく、企業はビジネスを前に進めねばならないのに、企業内に自社の ”あるべき姿” を描くことができる人材が不足しているためにビジネスが停滞してしまっている状況が散見されます。

SEは究極のゼネラリスト

現代において、ビジネスを前に進めるためには IT が不可欠です。なぜなら世界はソフトウェア化しており、ソフトウェアな世界で溺れないためにはデータを活用し、テクノロジを駆使してビジネスを変えていかねばならないからです。多くの経営者はこれを理解しているはずです。SIer としての真価が発揮されるのはまさに今で、社内で描けない ”あるべき姿” を IT に強いかつ外部の立場から経営に働きかけて IT 投資を促す、これが現代の SE に求められているスキルです。

話はだいぶ長くなってしまいましたが、だからこそ情報処理技術者試験では経営に関わるような内容も問われますし、大きなプロジェクトを推進するためのマネジメント能力も問われます。そして、IT リテラシを持った人材として大成するためにテクノロジの能力も問われます。現代の SE に求められる ”あるべき姿” を描く人材となるには、幅広い知識を身につけ、さまざまな業務・ポジションを経験し、常に成長し続けるという "究極のゼネラリスト" となる必要があることがお分かり頂けたかと思います。実際、SE の中でつよつよな人たちというのは、起業していないのが不思議なくらいのスキルを持っています。

プロと職人

少し話は変わりますが、SE として働いていると「プロ」と「職人」の分岐点が訪れます。賛否両論分かれるので先に言っておきますが、わたしはどちらも必要な人材だと思います。

まず、SIer に入ってくる新入社員は技術系の大学を卒業していたからと言って「素人」です。ある意味、文系や情報系以外の理系出身の皆さんは安心してください。「素人」と断言できるのは、先に述べたとおり SE はビジネスに係るあらゆる方面に精通したゼネラリストである、もしくは特定の分野で右に出るものは居ないレベルの知識と経験をもつ人材であることが要求されるからです。いくら学生時代に学んだテクニカルスキルが秀でていても、SIer で必要とされるテクニカルスキルとは乖離していることがほとんどです。そういった点で新卒入社の社員というのは素人です。

SIer に入って3年~6年位の年次でようやく「一人前」となります。さまざまな経験を重ねることで仕事のパターンを覚え、過去に経験した仕事の延長線であれば臨機応変に対応できる、そんな人材となることができます。

この後に、大きな分岐点が待ち構えています。

1つ目の選択肢は「プロ」です。究極のゼネラリストとして、顧客の ”あるべき姿” を描き、顧客のビジネスも自社のビジネスも前に進めることができる人材です。

もうひとつは「職人」です。"究極のゼネラリスト" とは対極に位置する人材です。マネジメント系の能力かもしれませんし、ストラテジ系の能力かもしれませんし、テクノロジ系の能力かもしれません。とにかくどこかの領域で誰にも負けない際立った能力をもつ人材です。ある種会社の強みを決める1要素ともなり得るので、わたしは会社を維持する上で絶対に必要なポジションだと考えています。

SEにとっての学びの必要性

もし、あなたが SIer に属している SE なのだとしたら、将来的に「プロ」と「職人」の分岐点が必ず訪れます。どちらも努力なしには決して至ることができない局地です。これが、SE は生涯学び続けなければならないと言われる所以です。

たとえば、職人であれば特定の分野での深い知見が必要となるので、学び続ける必要があることは言わずもがなでしょう。また、プロについても顧客の "あるべき姿" を見つけ、ゴールと課題を設定するには、業界トレンドや技術的な裏付け、それを説明する能力、過去の経験に基づいた考え、豊富な人脈などさまざまな要素が必要となります。これは一朝一夕で身につくものではなく、継続して学び続けなくては決して手に入れる事ができない能力です。

サラリーマン人生を、ルーチンワークをひたすらこなす「一人前」として過ごすか、自分を磨き上げて「プロ」「職人」になるかはあなた自身が決めることです。が、わたしとしてはせっかく人生の大半を仕事に捧げているのですから「プロ」「職人」を目指して学び続けてほしいと思います。そして、”あるべき姿” を描ける人材が増える未来を夢見ています。

学びとモチベーション

最後に学びとモチベーションについてお話しておきましょう。

「学び」とはなんぞや、ということについてはそのうちまたポエムを書こうと思いますが、学び続けるというのはそう簡単なことではありません。人間は弱い生き物ですから、やる気がみなぎるのは一瞬、継続するには強いモチベーションが必要となります。

ですが、このモチベーションを維持するのが非常に厄介です。「行動心理学 モチベーション」などのキーワードで Google 検索をかけていただければ分かると思いますが、世界中の専門家たちがモチベーションに関する研究を日夜行っていますが、万人に効く特効薬は残念ながら発見されていません。

特効薬がないとは言え、わたしなりの Tips はいくらかお教えすることはできます。この後にいくつかピックアップしようと思いますので、もしよろしければコーヒー代のカンパをお願いします。

ココまで読んでくださり、ありがとうございました。今回書いた話は、ある種正解のない話だと思っていますので、ご意見・ご感想あれば Twitter までご連絡ください。ぜひ、ディスカッションしましょう。

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