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第25話 真夏の昼の夢

25. 疑問詞(2) how を使った疑問文

(8月10日 ソン太宅③)

東北三大祭りの1つに数えられる「仙台七夕」も幕を閉じ、七夕一色で賑わっていた街中も、ようやく落ち着きを見せてきた。
とはいえ、夏の暑さはまだまだ続くようで、この日の気温は、昼前だというのに、すでに30度まで上がっていた。
交差点で信号待ちをする人々も、こぞってビル陰や木陰を選び、無風の日向でじっと信号が青になるのを待つ人は誰もいなかった。――
駅裏にあるこの交差点は、横断歩道を渡るとすぐに、踏切に差しかかる。
コンビニを始め、専門学校やスーパー、喫茶店、焼肉屋、ラーメン屋、レンタルビデオ屋、美容室などが点々と建ち並ぶ、古い町並みではあるが、近年はオフィスビルやマンションもできたせいで人通りはすこぶる多い。
そんな交差点から少し離れた本屋からソン太が出てきたが、手ぶらで出てきたところを見ると、おそらく立ち読みか何かの帰りだろう。
相変わらず、靴は片方しか履いていない。
「暑いなぁ」
冷房の効いた屋内から出てきたために、ギラギラと光る太陽が目に入ると余計に暑さを感じる。
だが、この暑さの中、明らかにこの情景に不釣り合いな1人の老婆が、踏切の方へよたよたと歩いていた。
彼女は全身を黒いマントで覆い隠し、手にはコンビニの白いビニル袋をぶら下げていた。
カンカンカンカン
遮断桿がゆっくりと降りてくる。
カンカンカンカン
遠くから電車が近付いてくるのを眺めていたソン太だったが、何気なく踏切に目を移した瞬間、彼ははっとする。
あろうことか、踏切内で黒マントの老婆が1人でうろたえているのだ。
(危ない!)と、声にならない言葉を発し、ソン太は無我夢中で老婆のもとへと走っていった。
カンカンカンカン
「お婆さん!」
遮断桿をくぐり抜けると、ソン太はすぐに老婆の手を引いたが、当の老婆は泡を食うばかりで、逃げようとしない。
カンカンカンカン
「お婆さん、早く!」
電車が迫ってくる。
カンカンカンカン
「早くったら!」
老婆以上に取り乱したソン太は彼女を無理やり背負い、線路から脱出しようとする。
が、この老婆、その華奢な体に似合わず、岩壁のように重い。
カンカンカンカン
(だめだ、動けない、……どうしよう)
なすすべがないソン太。
が、電車は容赦なく2人に迫る。
パァーーーッ
(もう、だめだ)
ドーンッ
カンカンカンカン
カンカンカンカン
電車は、踏切を通り過ぎていくと、あっという間に見えなくなった。――
遮断桿が上がると、辺りは時間が止まったかのようにしんとしていた。
そんな空気の中、どこかで蝉が1匹鳴き出した。
釣られて、どこにいるのか、あちこちで蝉が鳴き出した。
人々は汗を拭きながら何事もなかったかのように歩いている。――
「イテテテ」
気付くとソン太は、線路脇の草むらに転がっていた。
「大丈夫か?」
「う、うん、……あっ、ヘラクレス」
「お前、何やってたんだよ。轢かれるところだったぞ」
間一髪でヘラクレスに突き飛ばされたソン太は、傷だらけになりながらも、数分前の出来事を思い起こしていた。
「あれ? お婆さんは?」
「お婆さん?」
「うん、黒マントの」
「お前、1人だったぞ、……夢でも見てたんじゃね?」
「まさかぁ」
すると、ソン太は手にコンビニの白い袋を握りしめていることに気がついた。
「これだ、これ。これ、お婆さんが持ってた袋だ」
「何だか、わかんないけどさぁ」と、首をかしげるヘラクレス。
ソン太はそおっと、袋の中を覗き込んだ。
見ると、そこには1枚の紙切れが入っていた。――
勇敢な少年よ
時には試練を
時には幸運を授けよう
それが私の役目
ヘラ
「ヘラ、……」と、ソン太は呟いた。
老婆は結婚の女神ヘラの化身だった。
ヘラは、両親と離れて暮らしているソン太を以前から寵愛しており、彼の母親代わりとしていつも彼を遠くから見守っていた。
「え? ヘラ?」と、ヘラクレスが顔をしかめる。「俺、苦手なんだよなぁ、……彼女」
最高神ゼウスの正妻であるヘラは、彼とその愛人アルクメネの子ヘラクレスをひどく嫌っていた。
ヘラクレスには罪はないが、事ある度に毛嫌いされるのだから、ヘラクレスが彼女を敬遠するのも無理はない。
「でも、ヘラクレスって『ヘラの栄光』っていう意味なんだろ」
「うん、……そうらしいけどね。ま、どうでもいいや」と、ヘラクレスは他人事のように言った。「じゃあ、俺、行くよ」
道行く人が何人か踏切を渡っていったが、2人に気を止める者はいなかった。
「うん」と、ヘラクレスを見上げるソン太。「……、なんか、借りを作っちゃったな」
「はあ? 何言ってんのお前、……友達だろ」
「え?」
「じゃあな、……またな」
と、ヘラクレスは両手で草を払いながら、踏切を渡っていく。
一方で、ソン太は草むらに座ったまま滴る汗も気にせずに、しばらくの間、彼の大きな背中を目で追っていた。――

「ども! 家庭教師のタムラです」
「いらっしゃい、先生」と、ケイロンが出てきた。「2階におりましたんで」
「はい、では、行ってきます」

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『疑問詞(2) how を使った疑問文』ね。早速、<アテナの黙示録25>を見てみましょ。

<アテナの黙示録25> 疑問詞(2) how を使った疑問文
【1】how の用法
|★ how は「どうやって」の意味で、手段を訪ねる疑問文をつくる。
||例)How do you go to school?(あなたはどうやって学校に行きますか)
||||―I go there by bike./By bike.(私は自転車でそこに行きます)
||||※<by +乗り物>で「(乗り物)で」の意味になる。

いがぁ。【1】から。まぁ、<アテナの黙示録24>でもやったけど、how は『どうやって』の意味で、手段を訪ねる疑問文をつくるよ。例えば、『あなたはどうやって学校に行きますか』だったら?」
「How do you go to school?」
「そのとーし! じゃあ、『自転車で行きます』って答えてみっか」
「By bike.」
「そ。ちなみに、By bike の前には何が省略されてるの?」
「I go to school」
「そ。By bike. で十分通じるんだけどね、……今は英文法の時間、ってことで、何が省略されてるのかを常に確認しておきましょ。to school(学校に)は繰返しを避けるために there(そこに)でもいいね。ここまで、いい?」
「はい」
「おしっ。んで、次、【2】を見てちょ。

【2】how +形容詞/副詞
|★<how +形容詞/副詞>で「どれくらい~」の意味になる。
||個数をたずねるとき…How many ~s ?, 値段をたずねるとき…How much ~?, 期間をたずねるとき…How long ~?, 回数をたずねるとき…How often ~?/How many times ~?, 距離をたずねるとき…How far ~?, 身長をたずねるとき…How tall ~?, 年齢をたずねるとき…How old ~?, …
||例1)How many books do you have?(あなたは何冊の本を持っていますか)
|||||―I have twenty books.(私は20冊の本を持っています)
|||||※How many のうしろは、必ず名詞の複数形がくる。
||例2)How much is this pen?(このペンはいくらですか)
|||||―It’s eighty yen.(80円です)
||例3)How long did you stay in Tokyo?(あなたはどれくらいの間東京にいましたか)
|||||―I stayed there for five days.(私はそこに5日間いました)
||例4)How often did you go to America?(あなたは何回アメリカに行きましたか)
|||||―I went there three times.(私はそこに3回行きました)
||例5)How far is it from here to the station?(ここから駅までどれくらいの距離ですか)
|||||―It’s two miles.(2マイルです)
||例6)How tall is your brother?(あなたの兄弟はどれくらいの背丈ですか)
|||||―He is 1 meter 80 centimeters.(彼は1m80cmです)
||例7)How old are you?(あなたは何歳ですか)
|||||―I’m fifteen years old.(私は15歳です)

いがぁ。how には『どうやって』の他に『どれくらい』っていう意味もあるよ。この場合はうしろに形容詞/副詞がきて、いろんな意味を表すんだけど、ま、例文を見ていきましょ。はい、例1)。『あなたは何冊の本を持っていますか』みたいに『個数』をたずねるときは、How many ~? を使うよ。で、ここで注意しなきゃなんないのは、many(多くの)のうしろなんだから、うしろには必ず名詞の複数形がくる、ってことね。よって、『あなたは何冊の本を持っていますか』を英語で言うと?」
「How many books do you have?」
「そのとーし! これ、よくねぇ、How many do you have books?(×)ってやっちゃう人がいるんだけど、……ダメね。many と books(many +名詞の複数形)は離されないんで、もう、many books で1つの単語だと思って使ってちょうだい。OK?」
「はい」
「答えるときは当然、『個数』を答えるよ。はい、『20冊持っています』だったら?」
「I have twenty books.」
「そ。まぁ、会話では、Twenty. って答えるのが普通なんだけど」
「英文法の時間ですから」と、ソン太。
「そ。よく、わかっちょる」
「ははは」
――ここで、「なんで使いもしないことを覚えなきゃなんないの?」とお思いの方は、どうぞ、どうぞ、その辺の楽しい英会話スクールにでも入会して下さい。
「はい、次、例2)。『このペンはいくらですか』みたいに『値段』をたずねるときは、How much ~? を使うよ。そうすっと?」
「How much is this pen?」
「そ。じゃあ、『80円です』って答えるときは?」
「It’s eighty yen.」
「てことだ。はい、次、例3)。『あなたはどれくらいの間東京にいましたか』みたいに『期間』をたずねるときは、How long ~? を使うよ。そうすっと?」
「How long did you stay in Tokyo?」
「そ。はい、『私はそこに5日間いました』」
「I stayed there for five days.」
「そ。これも、前半を省略して、For five days. って答えるのが普通なんだけど、その場合は前置詞の for(~の間)を忘れずに。はい、次、例4)。『あなたは何回アメリカに行きましたか』みたいに『回数』をたずねるときは、How often ~? を使うよ。そうすっと?」
「How often did you go to America?」
「そ。はい、『私はそこに3回行きました』」
「I went there three times.」
「うん。『3回』は three times ね。『2回』だったら?」
「two times」
「うん、そうとも言う。ただ、twice(2回)っていう単語があるんで、覚えときましょ。ついでに『1回』は once ね」
「『4回』は?」
「『4回』以上は全部 times を使って、four times(4回), five times(5回), …って感じだね。OK?」
「はい」
「あと、How often ~? は、How many times ~? で書き換えられるんで、入試対策で覚えときましょ。はい、次、例5)。『ここから駅までどれくらいの距離ですか』みたいに『距離』をたずねるときは、How far ~? を使うよ。そうすっと?」
「How far is it from here to the station? ……あれっ? どっかで出てきたな」
「そだね。 it の特別用法、ってやつね。<アテナの黙示録22>だな。『距離』を表すときは it を主語にするんだった」
「訳さない it か」
「そ。よって、『2マイルです』って答えるときは?」
「It’s two miles.」
「そ。んで、次、例6)。『あなたの兄弟はどれくらいの背丈ですか』みたいに『身長』をたずねるときは、How tall ~? を使うよ。よって?」
「How tall is your brother?」
「そ。『彼は1m80cmです』だったら?」
「He is 1 meter 80 centimeters.」
「てことねん。はい、ラスト、例7)。『あなたは何歳ですか』みたいに『年齢』をたずねるときは、How old ~? を使うよ。そうすっと?」
「How old are you ?」
「そ。はい、『私は15歳です』」
「I’m fifteen years old.」
「そだ。years old は省略も可ね。以上、ここまで、どっか、質問ある?」
「特になしです」
「ん。まぁ、このほかにも how を使った疑問文っていうのは、いっぱいあるんだけどね、取り敢えず、よく試験に出るもの、ってことで。ほんじゃあ、とっとと、<スピンクスの謎25>をやっちゃうぞ。

<スピンクスの謎25> 疑問詞(2) how を使った疑問文
次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(1) How (many, much, often, far) pens do you have?
||―I have ten.
(2) How (many, much, often, long) are you going to study English?
||―For an hour.
(3) How (many, much, tall, far) is it from here to your house?
||―It’s about four kilometers.
(4) How (many, much, old, far) was this notebook?
||―It was 120 yen.
次の2つの英文がほぼ同じ意味になるように(  )内に適語を入れなさい。
(5) How often did you come to this park? ―I came here twice.
||=How many ( ) did you come to this park? ―I came here twice.

はい、(1)から、答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(1) How (many, much, often, far) pens do you have?
||―I have ten.

「How many pens do you have? ―I have ten.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「『10本』って答えてるから」
「そ。『個数』をたずねるときは、How many ~? だった。ま、あるいは、(  )のうしろの pens(=名詞の複数形)に着目してもいいね。はい、文全体の意味は?」
「あなたは何本のペンを持っていますか。―私は10本持っています」
「おしっ。はい、次、(2)、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(2) How (many, much, often, long) are you going to study English?
||―For an hour.

「How long are you going to study English? ―For an hour.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「『1時間』って答えてるから」
「そ。『期間』をたずねるときは、How long ~? だった。はい、文全体の意味」
「あなたはどれくらいの間英語を勉強するつもりですか。―1時間です」
「おしっ。まぁ、受験生たるもの、1時間と言わず、もうチョット、頑張ってほしいところだけどね」
「ははは」
「はい、次、(3)、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(3) How (many, much, tall, far) is it from here to your house?
||―It’s about four kilometers.

「How far is it from here to your house? ―It’s about four kilometers.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「about って?」
「『約』とか『およそ』」
「じゃあ、『約4km』って答えてるから」
「そ。『距離』をたずねるときは、How far ~? だった。はい、文全体の意味」
「ここからあなたの家までどれくらいの距離ですか。―約4kmです」
「おしっ。はい、次、(4)、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(4) How (many, much, old, far) was this notebook?
||―It was 120 yen.

「How much was this notebook? ―It was 120 yen.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「『120円』って答えてるから」
「うん。『値段』をたずねるときは、How much ~? だった。はい、文全体の意味」
「このノートはいくらでしたか。―120円でした」
「おしっ。はい、ラスト、(5)、……答え入れて読みぃ」

次の2つの英文がほぼ同じ意味になるように(  )内に適語を入れなさい。
(5) How often did you come to this park? ―I came here twice.
||=How many ( ) did you come to this park? ―I came here twice.

「How often did you come to this park? ―I came here twice. =How many times did you come to this park? ―I came here twice.」
「そのとーし! How often ~? =How many times ~? だった。はい、文全体の意味」
「あなたはこの公園に何回来ましたか。―私はここに2回来ました」
「おしっ、完璧! はい、通してどっか、質問ある?」
「特になしです」
「おしっ。んで、本日終了。お疲れさ~ん」

勉強道具を片付けながら、ふと、思い出したかのように、
「先生って、……友達、います?」と、ソン太が言う。
「そりゃあ、いるさ。何だ、お前、……いないのか?」
「ん? いるよ、……大事な友達が」
と、満ち足りた笑顔を見せるソン太だった。

<オイディプスの答え25> 疑問詞(2) how を使った疑問文
(1) many
(2) long
(3) far
(4) much
(5) times

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