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第7話 何でも開けるの恐怖症

7. 現在形(3) 一般動詞の文

(5月10日 パンドラ宅①)

教室の西側に藁葺き屋根の離れ家がある。
縄文時代の竪穴住居を思わせる外観とは裏腹に、そこは俺の愛車のガレージとなっている。
黄色のデ・トマソ・パンテーラ。――
最近はめったに乗ることがないが、こいつとはもう20年の付き合いだ。
多少ガタはきているものの、歴とした「夢のスーパーカー」である。
天気もいいし、今日はパンドラ宅を訪問するだけに、「パン」つながりでこいつに乗って出かけることにしよう。
「パン」つながりと言えば、ギリシア神話にパンという半人半獣(=上半身は人間、下半身はヤギ)の牧神が登場する。彼はよく森で昼寝をしていたが、これを邪魔されると突然大音響を発して人や家畜を恐怖に落とし入れた。パニック(panic)という言葉はここから来ている。
早めの夕食を済ませたあと、俺は慎重に愛車をガレージから出した。
教室を出てすぐの私道は100メートルほどのなだらかな坂になっている。
坂を下りるとすぐに県道に出るのだが、――やはり黄色のボディは目立つのか――道行く人々とすれ違うたびに、俺は彼らの驚嘆と羨ましげな視線をひしひしと感じていた。
ハンドルを握りながら、始終俺は優越感に浸っていた。

「ども! 家庭教師のタムラです」
(あ、先生。いらっしゃーい。2階に上がってー!)
2階からパンドラの声がした。
俺はゆっくりと階段を上っていった。
「はい、どうも。いらっしゃいました」
(……)
「……」
(……)
「おいっ、早くドアを開けておくれ」
(どうしよう)
「『どうしよう』って、お前まだ『何でも開けるの恐怖症』治らないの?」
(う、うん)
パンドラは、火と鍛冶の神ヘパイストスによって泥から作られた人類初の女性である。が、好奇心から、開けてはいけない箱を開けてしまい、それまで幸せだったこの世の中に、悲しみや苦しみ、病気、嫉み、恨み、憎しみなど、ありとあらゆる不幸をもたらしてしまった。
責任を感じたパンドラは、それ以来「何でも開けるの恐怖症」という難病を患っていたのだ。
「んで、勝手に開けるよわ」
(うん、いいよー)
俺は静かにドアを開けた。
「はい、こんにちは」
「こんにちは。ゴメンね、先生。ドア、開けられなくて」
「うん、いいよ。病気なんだから仕方がない、って、おいっ! お前、何、アイス食ってんだ?」
「ヘヘ、両手がふさがってて」
「てか、置けよ!」
「だって、早く食べないと融けちゃうもん。先生も食べる?」
「いらんっ」
――こいつは本当に病気なのか?

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『現在形(3) 一般動詞の文』ね。ところで、一般動詞、って何だっけ?」
「be動詞以外の動詞」
「おぉ、よく覚えてた。be動詞は、日本語の『です』にあたる動詞だったけど、それ以外、つまり『~する』にあたる動詞を一般動詞、って言ったよ。例えば、play(<スポーツなどを>する)とか、like(好む)とか、study(勉強する)とか、use(使う)とか、……ま、挙げたら切りがないよね。んで、チョイと英文を作ってみっか。『私は/テニスを/します』を英語にすると」
「I tennis(×)」
「まてまてまてまて、英語の語順は『だれが/どうする/なにを』だぞ。よって、『私は/します/テニスを』の順に英語に直さなきゃ」
「あ、そっか。てことは、I play tennis. だ」
「そのとーし! んで、『あなたは/テニスを/します』だったら?」
「You play tennis.」
「そだ。じゃあ、『私たちは/テニスを/します』だったら?」
「We play tennis.」
「そ。んで、『彼は/テニスを/します』だったら?」
「He play tennis(×)」
「……、じゃないんだなぁ」
「え? なんで?」
「うん。てなわけで、<アテナの黙示録7>を見てみましょ。

<アテナの黙示録7> 現在形(3) 一般動詞の文
【1】主語と一般動詞
|★日本語の「~する」にあたる動詞を一般動詞という。
|★主語が I(私は)/you(あなたは)/複数のとき、一般動詞の現在形は動詞の原形をそのまま使う。
||①主語が I のとき
|||例)I play tennis.(私はテニスをします)
||②主語が you のとき
|||例)You play tennis.(あなたはテニスをします)
||③複数主語のとき
|||例)We play tennis.(私たちはテニスをします)
|★3人称単数主語のときだけ、一般動詞の現在形は動詞の原形に s をつけた形になる。
||例)He plays tennis.(彼はテニスをします)
|※動詞の原形=動詞の語尾に、-s/-ed/-ing などをつけないもとの形。be動詞の原形は be で、is/am/are は be の現在形。

いがぁ。まずは【1】から。と、そ・の・ま・え・に。以前、述語動詞っていうのは主語の種類によって形が変わる、っていう話をしたの、覚えてる?」
「うん、何となく」
「例えば、今までずっとやってきたbe動詞の現在形であれば、主語の種類によって原形の be を is/am/are と使い分けたわけだ」
「うん」
「で、一般動詞の場合、主語が I/you/複数のときは動詞の原形をそのまま使うんだけど、主語が3人称単数のときだけ、動詞の原形に s をつけた形を使うのね」
「フムフム」
「てことは、さっきの『彼は/テニスを/します』の『彼は』は3人称単数主語なんだから」
「He plays tennis. だ」
「そのとーし! 原形の play に s をつけた形を使うってことね。『彼女は/このペンを/使います』だったら?」
「『使う』って、何だっけ?」
「use」
「てことは、She uses this pen.」
「そのとーし! ところで、なんで use に s をつけたの?」
「主語が she で3人称単数だから」
「そ! 完璧よん」
「わーい! パンドラって、やればできる子だよね」
「う、うん、……まぁ」
――自分で言うか。
「アー、先生、『やってもできない』って言いたいんじゃない?」
「そんなことないよ、……やらないからできないんだろ」
「アー、ひどーい」
「いやいやいやいや、『やればできる』も『やらないからできない』も同じだろーが!」
「あ、そう? アハハハハ」
――疲れる。
「で、この s のつけ方なんだけど、……【2】ね。

【2】3人称単数現在の s のつけ方
|★ s のつけ方は、動詞の語尾によって決まる。
||① -ch/-sh/-s/-x/-o で終わる動詞 → es をつける。
|||例)watch(見る)→ watches, go(行く)→ goes
||②<子音字+ y>で終わる動詞 → y を i に変えて es をつける。
|||例)study(勉強する)→ studies, carry(運ぶ)→ carries
|||※子音字=母音字(=a/i/u/e/o)以外の文字。
||③ have(持っている)→ has にする。
||④①~③以外 → そのまま s をつける。
|||例)play(<スポーツなどを>する)→ plays, use(使う)→ uses

ま、①、②のルールに当てはまる動詞なんて、そんなに数はないんで、……ルールも大事なんだけど、出てくるたんびに1個1個覚えていった方が早いね。③の have は要注意だよ。間違っても haves(×)な~んてやらないように、……そんな単語はないからね。OK?」
「オッケー!」
「おしっ。んで、ちゃっちゃと<スピンクスの謎7>をやっちゃいましょ。

<スピンクスの謎7> 現在形(3) 一般動詞の文
次の英文の(  )内から適切な方を選びなさい。
(1) She (like, likes) basketball very much.
(2) They (use, uses) this room on Monday.
(3) My father (have, has) a nice pen.
(4) The students (study, studies) English every night.
(5) Tom and I (go, goes) to school together.

はい、(1)から、答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適切な方を選びなさい。
(1) She (like, likes) basketball very much.

「She likes basketball very much.」
「そだ。どして、likes にしたの?」
「主語が she で3人称単数だから」
「そのとーし! こういう選択問題では、答えを出すための理由が必要だからね。ちなみに意味は?」
「彼女はバスケットボールがとても好きです」
「おしっ。はい、次、(2)」

次の英文の(  )内から適切な方を選びなさい。
(2) They (use, uses) this room on Monday.

「They use this room on Monday.」
「そだ。どして、use にしたの?」
「主語が they だから」
「そのとーし! they は『彼らは』っていう意味の複数主語だからね。複数主語であれば動詞の原形をそのまま使う。いでしょ。ちなみに意味は?」
「彼らは月曜日にこの部屋を使います」
「おしっ。はい、次、(3)」

次の英文の(  )内から適切な方を選びなさい。
(3) My father (have, has) a nice pen.

「My father has a nice pen.」
「そだ。どして、has にしたの?」
「主語が my father で3人称単数だから」
「そのとーし! ところで、なんで、my father が3人称単数主語だ、ってわかった?」
「え、だって、『お父さん』って普通1人じゃん」
「まてまてまてまて、日本語訳に頼って単数か複数かを決めるのはチョイと危険だぞ」
「そう?」
「うん。だって『私のペン』だったらどうよ。1本? 2本?」
「ん? あ、そっか」
「よって、主語が名詞の場合は、単数形(=複数を表す s がついていない)か、複数形(=複数を表す s がついている)かで判断しましょ。そうすっと、今の father は、複数を表す s がついていないから単数、……ま、この場合は『お父さん』だから、I, you 以外で1人を表す主語、つまり3人称単数主語だ、ってわかるね」
「なるほど、……深~い!」
「不快? ゴメ~ン、そんなつもりじゃなかったんだけどさぁ」
「『深い』だってば、……もう」
と、あきれながらも笑ってくれるパンドラだった。
――ちょっとした冗談にもすぐに反応してくれる女の子は、やはり可愛い、……ナンチャッテ。いかん、またオヤジ化が進んだ。
「ちなみに意味は?」
「私の父は素敵なペンを持っています」
「おしっ。はい、次、(4)」

次の英文の(  )内から適切な方を選びなさい。
(4) The students (study, studies) English every night.

「The students study English every night.」
「そだ。どして、study にしたの?」
「主語が the students で複数だから」
「そのとーし! ところで、なんで、the students が複数主語だ、ってわかった?」
「student に s がついてるから」
「そのとーし! ね。student(s) を『学生』って訳しても、1人なのか、複数なのかの判断はできないけど、英語では students って student に s がついていれば、これは間違いなく複数だ、ってわかるでしょ」
「うんうん、たしかに」
「ちなみに意味は?」
「その学生たちは毎晩英語を勉強します」
「おしっ。んで、ラスト、(5)」

次の英文の(  )内から適切な方を選びなさい。
(5) Tom and I (go, goes) to school together.

「Tom and I go to school together.」
「そだ。どして、go にしたの?」
「主語が Tom and I で複数だから」
「そのとーし! 『トム』と『私』で2人だもんね。いでしょ。ちなみに意味は?」
「トムと私は一緒に学校に行きます」
「おしっ。んで、通して今日のところ、どっか質問ある?」
「なーい!」
「んで、本日終了! おつかれさ~ん」

帰り道、事件は起こった。
長年乗っていれば、後輪のパンクくらい、すぐに気が付く。
「形あるもの、いつかは壊れる」だ。
そう思いながら、俺は一人とぼとぼと黄色い自転車を押して帰るのだった。
――明日、朝一番で村上サイクルに行ってこよっと。

<オイディプスの答え7> 現在形(3) 一般動詞の文
(1) likes
(2) use
(3) has
(4) study
(5) go

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