〜ミシャ体制のコンサドーレを振り返る〜選手別雑感①(GK、右CB編)
2018シーズンから2024シーズンまでJリーグ屈指の名将とされるミシャ監督のもとでJ1を戦った北海道コンサドーレ札幌。
今回はミシャ体制で所属した選手たちの私個人の雑感を紹介します。
第1弾はGK・右CBです。
※リーグ戦での出場機会がなかった選手は除きます。
GK ク・ソンユン(2015〜2020、2023)
抜群の反射神経や198cmの長身を活かしたセービングとハイボール処理は抜群の安定感を見せ、2018シーズンや2019シーズンはチームの多くのピンチを救ってきました。一方で足元の技術には不安定さがあり、前線のジェイや都倉など高さのある選手を目がけてフィードする傾向が強かった印象です。
2020シーズンのコロナによる中断期間に兵役のため母国である韓国へ帰国し、兵役を終えた2023シーズンにチームに復帰しましたが、不在の間に菅野が不動の地位を築いていたため、セカンドキーパーという位置付けになりました。菅野が負傷時には先発起用されましたが、試合感の問題もあるのか前回在籍時のようなセービングの安定感は見られず、フィードでの課題も露呈し、正GK奪取には至りませんでした。
オールコートマンツーマンによりキーパーの守備範囲が広がったことや、ジェイようなターゲットになれる選手が前線にいなかったことでプレーに迷いがあったのかもしれません。戦術やスカッドの変更の影響を大きく受けてしまった1人でしょう。
GK 菅野 孝憲(2018〜)
2018シーズンに当時J2の京都から加入しましたが、加入時はここまで長くチームに所属することになるとは思いませんでした。
加入後の2年間はソンユンの控えという立ち位置でしたが、カップ戦では先発出場し、2019シーズンのルヴァン杯準優勝に大きく貢献しました。ソンユンのようなサイズはありませんが、反射神経やポジショニングに優れており、ベテランらしい安定感のあるプレーが光りました。
2020シーズンのソンユン退団後に正GKとなり、セービングはもちろんのこと足元の技術もミシャの指導のもとで大きく向上し、不動の地位を築くことになりました。大ベテランの域に差し掛かり、故障が増えてきたのは気がかりですが、2024シーズンは35試合に出場。彼がチームを救って勝点をもたらした試合はここ数年非常に多くなってきている印象です。
GK 中野 小次郎(2020〜2022、2024~)
身長200cmという恵まれた体格を持ち、正確なフィードも兼ね備える高いポテンシャルを評価され、大学在学中の2020シーズンにリーグ戦デビューを飾り、新たな正GKとして期待されました。
2021シーズンは第5節浦和戦で先発出場し、クリーンシートを達成しましたが、続く第6節神戸戦で3点リードを逆転されてしまい、再び菅野にポジションを譲りました。以降は、本人も自信を失ってしまった印象が強く、2022シーズンには菅野の離脱もあり、6試合に出場しましたが、最終節の清水戦までチームの勝利に繋げられず、大量失点の戦犯としてサポーターから厳しい声も挙がりました。
金沢へのレンタル移籍を経験し、復帰した昨季はキャリア初のリーグ戦出場無しとなりましたが、ルヴァン杯の長野戦では好セーブを連発し、勝利に貢献するなど自信を取り戻しつつあるようです。ポテンシャルは間違いないですし、まだ25歳とキーパーとしては若いので新体制での大化けに期待しましょう。
GK 大谷 幸輝(2021~2023)
加入当初から菅野の控えという立ち位置であり、ベンチ入りの座を中野と激しく争いました。北九州や新潟で正GKを務めていた時期もあり、浦和でミシャの指導を受けていたこともありました。
中野や菅野に比べると足元の技術に課題を抱えており、従来のオーソドックスなキーパーという印象です。2021年のルヴァン杯鹿島戦や2023年の天皇杯柏戦ではビルドアップのミスから失点に絡むシーンもありました。
セービングでは安定感のあるプレーも見せており、2023シーズン夏にソンユンの移籍と菅野の離脱が重なった際は、チームを助けるなど、控えキーパーとしては十分な実力かと思いますが、キーパーにも足元の技術が求められるミシャ体制では定位置奪取は難しいなと感じました。菅野の壁が厚すぎるのもありますが。
GK 高木 駿(2023~)
ソンユンの移籍と菅野の負傷離脱が重なる非常事態により、2023シーズン夏に急遽大分から獲得しました。加入後即スタメン起用され、菅野の復帰後も正GKを務めました。
セービングは菅野と比較すると若干劣る印象ですが、足元の技術が非常に高く、グラウンダーの縦パスやミドルパスの正確さはコンサドーレの歴代キーパーの中でもトップクラスだと思います。相手のプレス回避の上手さもミシャがスタメン起用した大きな要因だと思います。
2024シーズンも、おそらくミシャは高木を正GKとして考えていたと思いますが、開幕直前にアキレス腱の大怪我を負い、公式戦の出場はできませんでした。新体制ではどちらが先発起用されるのか注目です。
GK 児玉 潤(2024~)
菅野と高木が負傷離脱したことに伴い、昨年3月にJ3のYS横浜から急遽獲得しました。身長は175cmとキーパーとしては小柄ですが、精度の高い左足のキックを武器としたビルドアップが持ち味の現代型のキーパーです。
菅野が怪我から復帰したタイミングで選手登録されたこともあり、シーズンを通してセカンドキーパーとしてベンチ入りを続けました。リーグ戦では第31節の町田戦で菅野の負傷交代により、試合終盤に途中出場し、敵地での勝点獲得に貢献。最終節の柏戦では菅野の出場停止により初先発を飾り、見事無失点での勝利に貢献しました。
菅野や高木と比較するとセービングやハイボール処理の面で劣っている状況ですが、まだ27歳とキーパーとしては若く、更なる成長も見込めます。菅野や高木の牙城を崩す時も新シーズンの間に訪れるかもしれません。
DF 進藤 亮佑(2015~2020)
2015シーズンのトップ昇格後、なかなか出場機会に恵まれていませんでしたが、ミシャ就任後、攻撃センスを買われて、右CBの定位置を確保し、2018シーズンはリーグ戦フル出場を達成。2019シーズンも出場停止の1試合を除く33試合に先発出場し、日本代表にも選出されるなど、大きく評価を高めました。
守備での1対1が特別強い訳ではありませんが、身体を投げ出してのシュートブロックなど、気持ちのこもったディフェンスを見せました。特に評価されたのは最終ラインからの攻撃参加で相手の隙を見つけてエリア内に侵入するとストライカーのような得点能力を見せ、2019シーズンにはリーグ戦6ゴールをマークしました。そのプレーぶりはかつてミシャが広島を率いていた際に頭角を現した元日本代表DF槙野智章を彷彿とさせていました。
しかし、2020シーズンにオールコートマンツーマンの戦術が導入されると1対1で振り切られてしまうシーンが目立ち、対面の相手を意識することで、持ち味の攻撃参加も影を潜めてしまいました。怪我での離脱もあり、シーズン後半はこの年加入した田中駿汰にポジションを奪われ、シーズン終了後にC大阪に移籍することになりました。持ち味が失われたという意味では戦術変更の影響を真っ先に受けてしまった選手だと思います。
DF 田中 駿汰(2020~2023)
大学在学中に日本代表デビューを果たし、2020シーズンに鳴り物入りで加入しました。ボランチと最終ラインの両方を高いレベルでこなすことができ、加入当初はミシャも適正ポジションを探っていました。
2020シーズン後半から進藤の負傷離脱もあり、右CBで定位置を確保。ポジショニングやビルドアップなど派手さはないものの、ミスの少ないプレーぶりが目立ちました。相手からハイプレスを受けた際も慌てることなく剝がしていき、敵陣では精度の高いラストパスも見せるなど、進藤とはまったく違うプレースタイルで活躍。2023シーズンまでの4年間全てで30試合以上に出場するなど、稼働率の高さも光りました。
2024シーズンに高額な移籍金を残してC大阪に移籍しましたが、正直海外志向も強い中でよく4年間もコンサドーレにいてくれたなという印象です。攻守両面において非常にクオリティが高い選手であり、総合力でいえばコンサドーレの歴代所属選手の中でもトップクラスではないかと思います。
DF 柳 貴博(2021~2022)
2020シーズンに仙台でサイドバックの主力として活躍し、進藤のC大阪移籍もあって田中駿汰の競争相手として加入しました。運動量とスピードが武器で長い距離をスプリントできるのが持ち味です。
2021シーズンが途中出場が主となり、右CBやウイングバックでの起用が多くなっていました。ただ、右CBで起用すると、田中駿汰程ビルドアップでの器用さはなく、ウイングバックだと金子やルーカスのような仕掛けができる訳でもないので、チーム戦術上なかなか先発では使いにくかったのではないかと思います。
2022シーズンも序列は変わらなかったことから、同年3月下旬に福岡へレンタル移籍。福岡在籍中に酒気帯び運転のトラブルを起こして契約解除となったことから、僅か1年ちょっとの在籍に終わりました。同じタイミングでコンサドーレに加入した岡村、青木が2年目から地位を確立したことを考えるともう少しコンサドーレでのプレーが見てみたかったなと思います。
DF 西 大伍(2006~2009、2022~2023)
かつてコンサドーレで4シーズン活躍し、鹿島移籍後はコンサドーレのアカデミー出身選手として初めて日本代表に選出された西が2022シーズンに復帰したことは多くの古参サポーターにとって夢のような話だったのではないでしょうか。
鹿島や神戸では右サイドバックで不動の地位を築いていましたので、ウイングバックでの起用も予想されましたが、ミシャは右CBやボランチ、シャドーなど複数のポジションで起用しました。前所属の浦和でも酒井宏樹の加入まではスタメン起用されていましたので、コンサドーレでも期待値は高かったですが、1対1での激しさが求められ、広いエリアをカバーしなければならないミシャ式では序列が低く、1年半の在籍でリーグ戦僅か15試合の出場に留まりました。
足元の技術が高く、カップ戦で先発出場した際にはその高いクオリティを発揮していましたが、ミシャのスタイルと合わなかったなという印象で、加入前に比べると出場機会の減少とともにコンディションを落としていたのも感じました。別の戦術を志向する監督のもとで復帰できていれば、再び輝きを放てていたと思いますので、勿体なかったなと感じます。
DF 西野 奨太(2021~)
2021シーズンのホーム最終戦となった柏戦で途中出場からリーグ戦デビューを飾り、荒野が持っていたクラブの最年少出場記録を更新。クラブからの期待値が相当高いことの表れだったと思います。
2022シーズンはリーグ戦での出場機会はありませんでしたが、2023シーズンは5試合に途中出場。守備で振り切られるシーンも少なく、ビルドアップでも落ち着いたプレーを見せ、ポテンシャルの高さを感じさせました。J1の舞台でスタメン起用するのはなかなか難しいので、下部カテゴリーで試合経験を積み、フィジカル面も向上させると大化けしそうだなと感じていました。
2024シーズンは夏にJ3讃岐へレンタル移籍し、右CBで定位置を確保。13試合に出場し、讃岐サポーターからの信頼も勝ち取りました。対人守備の更なる向上と攻撃参加した際のプレーの幅を広げることができれば、定位置確保も近くなってくると思います。
DF 髙尾 瑠(2024~)
個人的に田中駿汰が移籍したら誰を後釜にするかというのはかなり難しい問題だというのは数年前から感じておりましたが、昨季後半戦の活躍ぶりはその課題を払拭させてくれるものでした。
G大阪時代は右サイドバックとセンターバックの両方で起用されていたので、両方の役割が求められるコンサドーレの右CBとしては最適な人材だったと思います。サイドでスピードのある選手との対峙が多くなるポジションですが、髙尾はスピードと1対1の強さの両方を兼ね備えており、怪我による出遅れからコンディションを取り戻した昨季後半戦は抜群の安定感を見せました。
攻撃面でも進藤や田中駿汰と比べて試合展開によっては自重することもありますが、攻めあがった際のクロスやラストパスの精度は非常に高く、昨季はスパチョークに次いでチーム2位の4アシストを記録しました。替えの利かない選手になっていますので、J2降格となりながらもチームに残せたのは大きな補強と言えると思います。