〜ミシャ体制のコンサドーレを振り返る〜選手別雑感③(ボランチ編)
MF 宮澤 裕樹(2008〜)
言わずと知れたコンサドーレのバンディエラである宮澤は、2016シーズンから主将を務め、ミシャ就任後も中盤でチームの心臓として活躍。主戦場はボランチですが、リベロで起用された時期もあり、チーム状況に応じて柔軟に活躍してきました。
最大の持ち味は状況をよく読んでゲームを組み立てる能力でしょう。スピードやフィジカルに長けた選手ではありませんが、試合展開に応じて長短のパスを使い分け、ゲームをコントロールします。ボランチでもリベロでもその能力によってチームに落ち着きをもたらし、ミシャ就任当初は深井とのダブルボランチが鉄板となっていました。
2020シーズンにオールコートマンツーマン導入後は、広い範囲をカバーしなければならない戦術に加えて、年齢によるパフォーマンスの低下も重なり、チームでの序列を徐々に落としていく形となりました。アジリティ不足により対面の相手に振り切られてしまうシーンが目立ち、昨季はルーキーイヤーを除くとキャリア最小の21試合の出場にとどまりました。特に大﨑の加入後は途中出場でゲームを締めるクローザーの役割が増えていました。フル稼働が難しくなっていますので、今後も同様の起用法が増えてくるでしょう。
MF 深井 一希(2013~)
トップ昇格後は度重なる大怪我に見舞われていましたが、ミシャの就任後は膝のコンディションを最優先にされたことで、負傷離脱を減らすことに成功。2018、2019シーズンはシーズンを通してボランチの主力として活躍しました。特に2019シーズンルヴァン杯決勝での劇的同点ゴールは多くのサポーターの記憶に刻まれているでしょう。
ミシャ就任当初は中盤でボールを刈り取れる数少ないボランチであったことから重宝され、前述のルヴァン杯決勝以降はセットプレーでのターゲットとして攻撃面でも活躍を見せました。宮澤同様にゲームコントロールにも長け、好不調の波が少ないことも起用しやすさの一つであったと思います。
深井もオールコートマンツーマン戦術導入の影響を大きく受けた選手であり、膝への負担が大きくなったことから、負傷離脱が増えていくことになります。2022シーズン秋には自身4度目となる靭帯断裂、2023シーズンの復帰後も再び膝の負傷により長期離脱を強いられ、昨季9月に再度復帰も原因不明の膝痛に悩まされていたとのことです。今後も膝の状況と向き合いながらのプレーが続きますが、まだまだ健在ぶりを見せてほしいところです。
MF 荒野 拓馬(2010~)
2017シーズンのJ1復帰以降はボランチ起用が主となっていましたが、ミシャ体制でもその起用法は変わらず、持ち味の運動量を活かして攻守両面で活躍。2020シーズンのオールコートマンツーマン導入当初は戦術のキーマンとして欠かせない存在となっていました。福森や深井など戦術変更により苦しんだ選手も多いですが、荒野は戦術変更にハマった選手と言えるでしょう。
オールコートマンツーマンは、最終ラインや中盤の選手が広いエリアをカバーしなければならないという特徴があり、チームトップクラスの運動量を持つことから、外すことのできない選手でした。2020シーズンはボランチに加えて、FWのポジションも務めてキャリアハイの5ゴールをマーク。チームMVP級の活躍を見せました。同年11月に足首の大怪我を負って以降はパフォーマンスを取り戻すのに時間がかかりましたが、2023シーズンは高嶺の移籍や深井の離脱もあり、ボランチの不動のレギュラーとなりました。
昨季からは宮澤の後を継いで主将となりましたが、試合の悔しさからキャプテンマークを投げつけたり、相手選手を挑発したりとピッチ上での振る舞いとチーム成績も相まってサポーターから批判の的となりました。また、6月に負傷で離脱後に大﨑の加入でチームが安定したこともあり、後半戦は控えに回ることが増えていきました。今季もボランチに高嶺が復帰したこともあり、スタメンは確約されていない状態です。
MF 兵藤 慎剛(2017~2018)
2017シーズンのJ1復帰時に補強の目玉として横浜FMから加入し、中盤の主力としてJ1残留に大きく貢献しましたが、ミシャ体制では若手選手を積極的に起用する方針であったこともあり、控えに回ることになりました。
横浜FMで長らく2列目の主力を務めていたこともあり、攻撃センスは非常に高く、中盤や高い位置でボールを落ち着かせられる選手ですが、ミシャ体制初年度はシャドーのチャナティップや三好がその役割を担い、中盤では宮澤と深井のダブルボランチがハマったことで出場機会を失いました。当時ベテランの域に差し掛かっていたこともあり、夏場以降は出場機会の減少からコンディションを落としていった印象でした。
2019シーズンは三好の退団の可能性が当初から高かったので、もう1年残留させる方が良いのではないかと思いましたが、出場機会を求めて仙台へ移籍することになりました。仙台移籍後も主力の座を掴むことはできず、相模原でのプレーを経て、2021シーズン終了後に現役引退となりました。結果的にミシャ体制の若返りの影響を大きく受けた選手となってしまいました。
MF 稲本 潤一(2015~2018)
2016シーズンの大怪我から復帰した2017シーズン後半は、J1でもまだまだやれるということを示すパフォーマンスでしたが、兵藤同様に若手選手積極起用の影響でベンチ入りの機会すら与えられませんでした。
ルヴァン杯では、本職ではないリベロで起用され、アピールに失敗したことも出場機会を得られなかった理由の一つだと思います。元々中盤でのボール奪取と正確なロングパスが売りの選手ですので、リベロだと持ち味が発揮されにくかったのは、本人にとって痛かった点でしょう。
2018シーズン限りで退団となり、相模原や南葛FCでのプレーを経て昨季限りで現役引退となりました。3度のワールドカップ出場歴を持ち、欧州のトップリーグでも活躍した日本サッカー界のレジェンドです。今後、何かしらの形でコンサドーレに関わってくれる時を期待しましょう。
MF 駒井 善成(2018~2024)
2018シーズンの加入初年度は右ウイングバックの主力を務め、切れ味鋭いドリブル突破を武器に4位躍進の原動力となりました。2019シーズンに膝の大怪我により3試合の出場に留まって以降は、ボランチやシャドーといった中央のポジションを主戦場にしました。ミシャは浦和時代から駒井の適正を中盤センターであると認識していたようで、ルーカスや金子の加入でサイドの選手層が厚くなったこともコンバートの理由の一つでしょう。
荒野とともに、オールコートマンツーマン戦術によって持ち味が発揮された選手で、豊富な運動量と鋭い読みからのセカンドボール回収で欠かせない存在となりました。ファウルや中盤でのミスの少なさも特徴的であり、ミシャにとってコンサドーレで最も信頼できた選手と言えるでしょう。シャドーではシュートやラストパスの精度に課題がありましたが、昨季はチームトップタイの6ゴールを挙げるなど目に見える数字も残しました。
チームにとって絶対的な選手の一人でしたが、J2降格決定後に契約満了による退団が決定しました。ミシャのもとで長くプレーしていた選手ですし、年俸も高額であったことも影響しているかと思います。今季は四方田監督率いる横浜FCへ移籍することが決定。同い年の福森とともにJ1残留を目指すチームでの働きに注目しましょう。
MF 高嶺 朋樹(2019~2022、2025~)
コンサドーレユース出身で筑波大学を経由して2020シーズンに復帰。中盤でのボール奪取とプレス回避、正確な左足のロングパスを武器にルーキーイヤーから欠かせない戦力となりました。
主戦場はボランチですが、加入1年目は福森の不調により、左CBで起用されたこともありました。2021シーズンからは深井や荒野のコンディションが安定しなかったことや、宮澤のリベロ起用もあってボランチの定位置を確保しました。守備時は中盤にポジションを取りますが、ビルドアップの際には、最終ラインに下りて組み立てに参加する役割を担い、福森に依存していた傾向にあったコンサドーレのビルドアップに新たなアクセントを加えました。
2022シーズンのプレーぶりから日本代表や海外移籍も狙える素材として期待されましたが、2023シーズンより柏へ完全移籍し、サポーターに衝撃を与えました。本人は左CB起用やビルドアップの際に最終ラインへ下りるスタイルに危機感を覚えていたようですので、ミシャと合わなかったという表現が自然なのかもしれません。柏でも主力として活躍し、昨年夏にベルギー1部のコルトレイクへ移籍。ベルギーでも主力として活躍していましたが、J2降格となった古巣コンサドーレの力になりたいと今季から完全移籍で加入し、異例の電撃復帰となりました。J2では圧倒的なクオリティを示せる選手だと思いますので、再びチームを牽引してくれることを期待しましょう。
MF 馬場 晴也(2023〜)
2023シーズンに東京Vから約1億円もの移籍金を投じて獲得しました。登録はDFですが、加入初年度からボランチとしての起用が多くなっていました。攻めの縦パスの質が高く、低い位置からの持ち上がりもできるという攻撃的な特性を多く持っている印象です。
2023シーズン後半にボランチの定位置を確保しましたが、昨季は田中駿汰の移籍と後釜として獲得した髙尾の負傷離脱もあって前半戦は右CBでプレーしました。しかし、右CBでの起用時では攻撃面で持ち味が発揮しにくく、不用意なスライディングで相手に入れ替わられたり、1対1での弱さといった弱点が目立ってしまいました。髙尾の復帰後は再びボランチ起用となり、特に大﨑とのダブルボランチの際は、バランスを取ってくれる選手が隣にいることで持ち味発揮されやすかったと思います。
世代別代表での実績もあり、まだ23歳と若いことから移籍金が高額とはいえ、J2降格によりJ1クラブが獲得に動くことが予想されました。実際に具体的なオファーもあったようですが、コンサドーレに残留することになりました。今季も髙尾の離脱がなければ、ボランチで起用されると思いますし、よりチームを引っ張るプレーに期待したいところです。
MF 田中 克幸(2024〜)
明治大学から昨季新加入したレフティー。左足のキック精度が高く、長短のパスやミドルシュート、プレースキックは一級品です。その持ち味はミシャからも高く評価されており、開幕戦からいきなりリーグデビューを飾りました。
天皇杯の山形戦での2ゴールや第26節福岡戦でのリーグ戦初ゴールなどその左足が猛威振るったシーンはありましたが、ボランチで起用するには運動量や守備面での不安があることでなかなか起用が難しい選手だという印象です。適正としては守備タスクを減らしたインサイドハーフやシャドーなのかと思います。ミシャも起用のしにくさを感じていたのか途中投入を躊躇うシーンがシーズンを通して多くありました。
今季より新監督に就任した岩政監督は2トップの一角としての起用も考えてるようです。高嶺の復帰でボランチは激戦区となっていますので、トップ下やFWで攻撃センスを活かすという起用法なのでしょう。守備タスクを減らし、フィジカル面の強化ができれば、今季の大きなサプライズのとなる可能性を秘めているでしょう。
MF 大﨑 玲央(2024〜)
昨季後半戦の巻き返しはこの男の加入から始まったと言っても大袈裟ではないでしょう。6月に練習生から正式契約を勝ち取り、7月からはボランチの定位置を確保。横パスが多く、攻撃の停滞していたチームに縦パスの意識を植え付けるとともに、ピッチ上の指揮官としてチームを牽引しました。
プレースタイルは宮澤に近く、ゲームコントロールやパスセンスに長けた選手ですが、神戸ではCBを務めていたこともあり、1対1や空中戦でも強さを発揮します。昨季も劣勢時はCBの一角として岡村の隣に入り、守備を引き締めることもありました。大﨑が攻守両面でチームに足りなかったものをもたらしたことで後半戦の巻き返しに繋げました。
今季は岡村の町田移籍や高嶺の復帰に伴い、リベロでの起用が見込まれます。リベロは神戸時代にも務めていたポジションですので、大きな心配は不要でしょう。今季も昨季同様ピッチ上の指揮官としてチームを牽引するプレーに期待しましょう。