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「サーカスから来た執達吏」を読んで

 面白かった。時代は大正時代、サーカス出身の借金取り(執達吏)の少女と借金の担保として執達吏に預けられた少女の二人が、借金返済のために、ある華族の財宝探しをする物語

 大量の財宝が数時間で消失する不可解な現象、その際に起きた殺人事件、財宝の場所を示す暗号といった謎を解いていく物語ではあるが、結局のところ、借金の担保として預けられた女の子の成長の物語であった。
 
 借金取りの女の子は、家族はいない、字が読めないが頭が良く行動力もありマイペース、良くも悪くも非常識という性格。一方、担保となった女の子は、家族に守られ不自由のなく育ち、物事を深く考えずに生きてきた。こんな二人で、財宝探しと奇妙な事件の解決と財宝を狙う権力者と対峙していく物語。

 ある女優の家で給仕の手伝いをして身を潜めていた二人のうち一人が、あるイベントに給仕係として潜りこむことになる。その適役として担保の女の子が選ばれるのだが、その時の描写が好きである。
 サーカス出身の少女は、両手と頭にお盆を乗せて効率的にお茶を運ぶのが普段のスタイルであり、ついついアクロバティックなことをしてしまうので、潜り込むのには向いていない。

 そのほか、担保の女の子は、小説家になりたいと思っていたが、文章を他人に読んで評価してもらったことはなかった。なし崩し的に、対峙する権力者を疑心暗鬼にさせる手紙を書くはめになる。これが初めて、他人から評価される状況になるというのも面白かった。

 少女二人のかけあいも良く。面白い活劇と感じた。単純に、財宝はどうなったのか?借金はどうなるのか?も気になりながら、ご都合主義な部分も少し感じましたが、普通に楽しめて面白い読む価値のある本でした。単純に面白い小説を読みたい方にお薦めです。

タイトル:サーカスから来た執達吏 作者:夕木 春央 出版社:講談社
10/20読了