レポ市場(上)
「レポ市場」ってご存じですか?
レポ市場は短期金融市場の中でもウェイトが大きいのですが、マスメディアでの露出は少なく、世間の認知度は低いと思います。
株式市場のように個人で参加することはないため、直接的に関係することはありません。
しかし、ここでやり取りされているお金の貸し借りや、その金利が金融市場において重要なのだそう。
1日の取引量が最大の市場は、ニューヨーク株式市場ではなく、米国のレポ市場だという説もあるほどです。
とくに2008年の世界金融危機や、2019年の短期金融市場の混乱で注目されました。
ここでは私が学んだことを書き留めておきます。
(※注:おもに米国についての話です)
レポ市場は巨大なマーケット
レポ市場とは、短期金融市場の一部であり、金融機関が1年以内でのお金を貸し借りする場です。
米国において、レポ市場で取引される1日の平均残高は、4兆ドル~5兆ドル弱です。
これは貸す側と借りる側の合計額なので、だいたい2.5兆ドルほどがレポ市場から調達されていると考えてください。
フェデラルファンド・ファンド市場(FF市場)と比べて、20倍以上の資金需要を満たしていることを考えれば、非常に大きいことが分かります。
それに、レポ市場ではFF市場とちがって、多種多様な金融機関が参加しています。
準備預金制度の対象となっている金融機関、つまり預金取扱業者以外にも、投資銀行やGSE、MMFなどの主体が、資金調達のために集まっています。
多くの金融機関が利用するが故に、レポ市場の使用料であるレポ金利は、金融政策において重要な誘導目標となっています。
【仕組み】債券をつかってお金を貸借する
では、具体的にレポ市場ではどうやってお金を貸し借りしているのでしょうか。
その特徴は、債券などをつかってお金を融通し合う、という点です。
「レポ取引」とはrepurchase agreementの略で、買い戻し条件付売却取引と訳されます。
とりあえず、金融業界だけの“質屋”だと思ってください。質屋といえば、品物を担保に預け入れて、お金を借りる仕組みのことですが、その担保となるのは債券に限られるイメージです。
レポ取引でお金を借りる人は「あとで少し高めに債券を買い戻しますから、この債券を買ってくれませんか」という取引を持ちかけることになります。
取引が成立すれば、それを買い戻すまでの間、売って得たお金が資金になるというわけです。
債券を買い戻す際は、お金を貸してくれたお礼に、利子をつけます。
反対に、債券を一時的に買って、あとで売り戻す場合は「リバースレポ取引」と言います。
要するに、債券を担保に有利子でお金を借りる方法を指すのですが、有担保なので無担保ローンよりも低金利で資金調達がしやすいのが魅力です。
金利というのはリスクの大きさに応じて、高くなります。最悪、相手が借金を返済してくれなくとも、担保として買いとった債券を売りに出せば、お金を回収できるので低リスクになります。
しかも担保となる債券は、米国債などの信用力のある金融資産であるため、安全性が高いとされています。
また、米国でレポ市場が拡大した背景には、倒産法上の特別な措置もあります。
米国ではチャプター11(米連邦破産法11条)が申請されると、「オートマチック・ステイ(自動停止)」が発動されます。
これは、債務者に対する取立行為等が禁止される、制限には担保権の実行も含まれます。
しかし、レポ取引に関してはオートマチック・ステイが適用範囲外とされたため、たとえ借り手がデフォルトしたとしても、担保権の行使により、貸し手は債権回収の見通しが立ちます。
ここで注意したいのは、上記は欧米での話であり、日本では現金の流れでみると、意味が逆になってしまうということです。
国内でレポ取引というと、「現金担保付きの債券貸借取引」を指すことが多いです。
紛らわしいことに、現金を担保に債券を借りることを「レポ」、債券を担保に現金を借りることを「リバースレポ」と呼んでいます。
つまり、資金調達側からみると、欧米では「レポ」、日本では「リバースレポ」を利用することになります。
本稿では米国の金融システムについて触れたいので、レポ=買い戻し条件付売却取引を指していることに留意してください。
また、債券を担保に資金調達をすることを目的とし、対象の債券が何かはあまり意識されない取引のことを「GC(General Collateral)レポ」といいます。
それとは別に、空売りや損失回避のために、特定の債券を調達することを目的としたものが「SC(Special Collateral)レポ」です。
【利点】なぜ、ふつうに債券を売却して現金を確保しないのか
レポ取引は、あくまで債券を売るためではなく、短期間にキャッシュを確保するために利用されます。金融商品を市場で手放すことなく、短期的にドルを手当てできるのです。
そして先述のとおり、レポ取引は有担保のために低金利で資金調達することができます。
借入コストが低下すれば、利回りが向上します。
さらに重要なのが、レポ取引で現金を調達すると、「買い持ち(ロング・ポジション)」で、レバレッジ効果が期待できるということです。
レバレッジをかけるので、元手の何倍ものお金を動かして、利益を出すことが狙えます。
たとえば図1をみてください。
自己資金が100ドルある投資会社はまず、債券を購入し(①)、それを担保に商業銀行とレポ取引をしたとします(②)。
投資銀行はそこで得た資金で債券を再び買い、それを担保にまた資金を借ります(③④)。
このようにレポ取引を繰り返した結果、200分ドルの債務と、100ドル分の債券が残りました(⑤)。
さて、債券価格が予想通り、2%上がったとして、ポジションを解消していきます。
図2のとおり、まず手持ちの債券の一部を売って102ドルを確保し、銀行に1%の利子をつけて返します(①②)。
100ドル分の債務解消と同時に、債券が手元に戻るので、その売却益でまた100ドル分の債務を解消(③④)。
最後に自己資金で買った債券を売ります(⑤)。
最終的に、レバレッジをかけて自己資金100ドルの3倍を運用し、4ドルが手に入ったので、自己資金比4%を儲けられたことになります。
対して、レバレッジをかけない場合は、自己資金分にしか投資できなかったため、自己資金の2%しか得られません。
このように、債券購入→レポ取引→債券購入を繰り返して、レバレッジを膨らませることができます。
ちなみに日本で言う「レポ」、現金を担保に債券を借りる側からすると、何が嬉しいのでしょうか。
それは「空売り(ショート・ポジション)」ができるからです。
他所から借りてきた債券を先に売ってしまい、あとでそれを買い戻して返却すれば、売却時と買戻した時の価格差が儲けになります。
【安全策】ヘアカットによるリスク・コントロール
では、レバレッジはどこまで掛けられるでしょうか。理論上では、担保として差し出す証券のヘアカット率によって決まります。
ヘアカット(イニシャル・マージン)とは、資産価値が将来的に下落するリスクに応じて、レポ取引のスタート時における売買価格が、市場価格よりも割引きされるという意味です。
また、担保の資産価値は継続的に再評価(値洗い)されるため、資金を借りている間に、資産価値が下がってしまうと、不足分として追証(マージンコール)されます。
このような措置を講じることで、取引のエンド時までに担保の時価が下がり、かつ資金調達側がデフォルトに陥った場合、 貸付側が担保を買い戻されても、全額回収できないという事態に備えられます。
レバレッジの限度についての話に戻りますが、レポ取引ごとに担保価値からヘアカット率が引かれて、その金額しか借り入れることができないので、机上では担保価値が0になるまでレポ取引を繰り返せます。
ただし、実際にはレバレッジの規制がありますし、投資する側のリスク許容度もあるので、ヘアカットの限度まで運用額が膨らむということはないでしょう。
【要約】
レポ市場は短期金融市場のなかでも、とくに規模が大きい。米国では、平均2.5兆ドルもの資金が、レポ市場から調達されている。
毎日、様々な金融機関にお金を流している、金融経済の心臓部。
レポ取引では債券を担保に、お金を借りられる。
日本でレポ取引というと、「現担レポ」を指すことがあるので注意。
信用度の高い債券でやり取りされるため、低金利におさえられるのが魅力。
レポ取引によるロング・ポジションでレバレッジをかけられる。
ヘアカットやマージン・コールといった安全措置が講じられている。
主要参考文献
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