ネット将棋のソフト指しについて——あるいは、相手との約束破りについて
▼ソフト指しについての結論
基本的には、単純にルール違反だと考えています。ルール違反という点では二歩と全く同じ。
では、ソフト指し特有のまずい理由は何かというと、「事前に約束したルールをこっそり破っているのがまずい」ということになると思います。
逆に言うと、ルールに組み込まれていればソフト指しをやってもかまいません。これは、AI同士を戦わせる将棋戦や、将棋ウォーズの棋神システムのことです。
前者はAIを使用することを前提にして、プレイヤーはあらかじめ同意していますし、後者はゲームにそのようなシステムが含まれることを受け入れることがプレイする条件になっているからです。
しかし、ルールに組み込まれていないソフト指しを行うのは、事前にした相手との約束を破る行為で、やらないと約束した二歩をするのと同じです。
▼ソフト指し特有の問題点
ネット将棋でのソフト指しの問題点は、二歩と違っておこなったかどうかがわからないことです。自己申告によるしかありません。したがって、二歩と違ってその場でソフト指しを強制的に取り締まることができません。
ですから、事前に将棋のルールを守るという約束をしている。
ソフト指し自体は、別におぞましい行為ではありません(ちょうど、人肉食や人間の生皮で服を作るみたいにおぞましく感じるというのではなく)。バレずにソフト指しをできてしまう(バレないルール違反ができてしまう)ことが問題なんです。
野良でプレイする場合は割り切るしかないでしょう。ネット将棋は、そのような不正を取り締まる方法のない、自分の運と相手の良心に任せるしかないゲームである、と割り切る。ちょうど、刑法以外の法律はあるけれども、刑法も司法機関もない国で観光するようなものです。そういう国では、犯罪に遭っても、自分で身を守るしかないし、犯罪の補償もしてくれない。仮に犯罪者が判明しても、「⚫︎⚫︎をしてはならない」という法律の文言があるだけで犯罪者を罰する規定(刑法)がないので、犯罪者は罰せられない。
ただ、ネットの棋戦などで、お互いに事前に大会規約に同意している場合は話が変わってきます。大会でソフト指しをするということは、自分以外の人たちの意思を無視することになる。大会主催者と大会に出場した人たち全員に対して、どういう約束をしたかわかった上でその約束を——約束の相手を無視したということです。この場合、ソフト指しした人は、大会の関係者全員を人として扱わなかった、物と同じに扱ったわけです。
大会でソフト指しをする人は、大会の対局前に相手に、「ソフト指しをしてもいいですか?」と訊いたりはしません。断られるとわかっているからです。わかっていてやる。ソフト指しを行う人は、こっそり行うのであって、相手に同意を求めません。眠っている相手をレイプすると同じように行う。同意なくこっそり行う。それは、相手を人ではなく物として、欲求をみたす手段として使う行為です。
▼わたしがソフト指ししない理由
わたしが相手との約束を守る理由は、ネットの付き合いで一度でも確信的に約束を破れば二度と信用されなくなると思うからです。相手の人格を尊重することではじめて自分の人格が確保されていると思うからです。
逆にいうと、確信的に約束を破った人を、わたしは信用なくていいと思っています(*1)。人格のない何かとして扱ってもいいな、と。というのは、その人については、一回約束を破ったことで信用する理由がなくなるからです。そのほかの約束についても二度と信用できません。そう思って、わたしは、そういう人たちを信用しないことにしています。こちらの人格を認めないなら、こちらも相手の人格を認めません(*2)。
▼ソフト指しを行う人について
以上をまとめると、ソフト指し自体はニュートラルな行為だが、対局でソフト指しをしないという約束を破るのがまずい行為である、ということになります。
また、あらかじめ約束されたルールを守らない人についていうなら、その人の言うことはゲーム以外のことも含めすべてについて、何が本当で何が嘘かわかりません。刹那的な欲求から嘘をついたり、適当な発言や行動をする可能性が高いんじゃないかと疑います。平気で他人に迷惑をかける。隙があれば、約束を破って自分の利益確保をしようとする。そういう人に思えます。