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歴史映画『Kenau(ケナウ)』(2014 オランダ・ハンガリー・ベルギー) ~史実の「ハールレム攻囲戦」を舞台にした、戦う女性目線の八十年戦争
Dutch FilmWorksによる公式動画
KLMの機内でたまたま観た、ハールレム攻囲戦を扱ったオランダ映画。2014/3/6公開。日本語にはなっていないため、英語字幕の海外製を取り寄せるしかなさそう。原作本は2冊(ケナウ本人とその庶子カテライネそれぞれをモデルにしたもの)出ています。2014年の旅行時にあちこちのミュージアムショップで置いていたので、ちょうどプロモーション中だったのかと思います。
映画 “Kenau” (2014)
出演: Monic Hendrickx, Barry Atsma, Sallie Harmsen ほか
監督: Maarten Treurniet
言語: 蘭語
字幕: 英語
製作: オランダ、ベルギー、ハンガリー
公開: 2014/3/6
DVD: 2014/7/25発売
時間: 110 分
ヨーロッパ製のDVDは日本とリージョンコードは同じですが、テレビシステムの違いでテレビでは観ることができません(PCでは可能なことが多いです)。
内容
ハールレム駅前のケナウとリッペルダの像 (2013) In Wikimedia Commons
1573年のハールレム攻囲戦を舞台にした映画です。撮影国はハンガリーとか。八十年戦争で活躍した女性では最も有名といえる、ケナウ・ハッセラールを主人公にしています。
史実人物はケナウのほか、ハールレム市長リッペルダと敵司令官ドン・ファドリケ。ドン・ファドリケの父親であるアルバ公も、バカ息子を叱責するちょい役で一瞬登場します。オランイェ公ウィレムは役は無く名前だけ。援軍を送ると言い続けて結局送ってこない、ってだけの存在です。その他、ケナウやリッペルダの子供らや街の有力者などを含め、史実人物かどうかよくわかりません。
1573年といえば未だ反乱も初期の時点で、ハールレムも旧教側です。反乱の指導者オランイェ公もまだ改宗前(ハールレム開城後に改宗)。市長のリッペルダ一家は新教徒で、このように宗派が混ざっているという要素も含め、この街を攻めようとしているスペイン軍への対応について、市参事たちの意見は真っ二つに割れることになります。
ケナウには2人の娘がいます。長女のカテライネは亡き夫との子ではないようです(どうやらリッペルダの子?ちょうどその辺のくだりを見逃してしまった)。次女のゲルトライデは、恋人のペーテル(リッペルダの息子)の影響で新教に改宗したいといい始めました。ある日、そんなペーテルとゲルトライデを含む新教徒の若者たちがスペイン側に捕まり、火刑にされることになります。火をかけられて泣き叫ぶゲルトライデをピストルで撃って楽に死なせたのは姉のカテライネです。「刑を止めさせて助けることができたはず」と主張する母ケナウと、「奴らは新教徒を許すことなんて絶対にあり得ない」とする娘カテライネとの間に、ここで最初の溝が生まれます。
同じ頃、街の有力者ダイフは街を裏切って、スペイン軍司令官ドン・ファドリケに街の地図や妻のマグダレーナを与えて自らの保身を図っていました。それが発覚してダイフ自身は街の人々から処刑され、街自体も最終的に籠城を決意することになります。街にはリッペルダの雇った傭兵たちが守備のために入り込み、その中の一人ドミニクとカテライネは恋仲となりますが、「街が陥ちたら真っ先に殺されるのは傭兵で、娘は絶対に幸せになれない」としてケナウは許そうとしません。自分は庶子だから愛されていないと誤解しているカテライネとの溝はますます深まります。
ケナウが女性たちのリーダーのようになったのは、当初より自ら先頭に立って、というわけではないイメージで描かれています。最初の襲撃に際し、突撃してくるスペイン兵たちに対して、たまたま手近にあった剣で戦ったのが「男以上に戦う女が居る」と街の内外で話題になったため、といった感じでしょうか。スペイン軍が砲を持ち出し街に犠牲者が出はじめるようになると、夫を失った女性たちもケナウのもとに集まって、城壁上からいろいろなものを浴びせ掛けて撃退したり、敵の火薬庫を爆破したり、スペインの食料運搬隊を集団で襲って物資を奪ったり…と、女性だけでできる抵抗運動を始めます。
が、ハールレムの城壁はまだ近代要塞ではなく中世そのままの壁タイプ。スペイン軍の戦術もあってないようなもので、攻囲戦そのもののシーンは17世紀が舞台の作品に比べると正直ツマラナイです。 一瞬だけ傭兵を指揮しているリッペルダの図はカッコよかったですが。
ハールレム攻囲戦は7ヶ月にも及ぶので、街では寒さや飢餓にも苦しんだはずなのですが、あまりそのような地味な部分はクローズアップされていません。ケナウの家が使用人をたくさん抱える材木・造船商なので、比較的裕福だからかもしれません。
どちらかというと、ケナウとカテライネ母娘の確執を軸に、その他ドン・ファドリケの愛人たちなど女性たちの関係性の目線で描かれた人間模様が筋の多くを占めます。ドン・ファドリケに対し、文字どおり身体を張った女性マグダレーナは、やはり史実のレイデン攻囲戦の際の女性マグダレーナ・モンスをモデルにしたものと思われます。ケナウとリッペルダが意味深に話すシーンも幾度となくあります。
最終的に、リッペルダが信じ続けたオランイェ公の援軍は別の攻囲都市アルクマールへ向かい、ハールレムは見捨てられたかたちになります。街の陥落、それぞれの史実人物の顛末は史実どおりです。そんなラストは若干呆気ないですが、下手にいろいろ引っ張るよりもいいのかもしれません。
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