中野区長を提訴しました - 中野区平和の森公園再整備工事に関するもう一つの住民訴訟
東京都中野区の平和の森公園に埋設された大量の発泡スチロールが広域避難場所の不燃化義務違反であるとして、2019年8月23日付で住民訴訟を提起しました。口頭弁論が東京地方裁判所で11月8日にありますので、どなたでも傍聴にお出でください。
・事件番号 令和元年(行ウ)第432号
・期日 2019年11月8日(金)13:50
・場所 東京地方裁判所 803号法廷(8階)
発泡スチロールが埋設された、平和の森公園第2工区の工事の経緯や関連する資料は、こちらにまとめられているもの(by 中野非公式 さん)をご参照ください。
[写真は10月11日に友人撮影。元草地広場北東角にいまだに野積みされている発泡スチロール]
訴状
訴状はこの note の最後にあります。追完(誤りなどを後日訂正し完全にすること)をしてますので、"請求の趣旨" はこうなります:
被告(中野区の執行機関)は中野区長酒井直人(個人)に対し、1億213万円の損害賠償を請求せよ
金額1億213万円は、中野区が情報公開した「実施設計報告書」に書いてあった発泡スチロールの見積価格の合計です。裁判所には『酒井直人が公金1億213万円を違法行為に支出して区に損害を与えたので、損害分の1億213万円を区に支払うよう、区は酒井直人に損害賠償を請求せよ』という判決を出してくださいと請求しているわけです。
この裁判は、地方自治法(242条の2第1項4号)におけるいわゆる「住民訴訟第4号請求」というものです。住民訴訟全般にいえるのですが、行政が悪事を働いても住民が簡単には訴えることができないようにしてあるのかとさえ思える、非常に使い勝手が悪い法律(2002年9月改正)になっています。そういうわけで、裁判所に判決として請求している内容がかなり分かり難い、間接的なものになるのは避けられません。
しかし、これしか住民には手がないのですよね。
訴状を読んでもらうとわかると思いますが、これは「客観訴訟」と言われるものです。1億213万円は訴えた人(原告)が自分によこせと言っているわけではなく、違法行為へ出費したため区の財政に損失を与えたから元に戻せという主張です。区は原告と争うのではなく、原告が淡々と提示する事実や真実と闘うことになります。
総務委員会での報告
区長を被告とする訴えが提起されると、住民訴訟に限らず、それがどういう訴訟であっても中野区議会総務委員会で報告され、会議録に永久に記録されます。
本訴訟に関しても、2019年10月8日、中野区議会総務委員会で法務担当課長から報告がなされました。
報告では、訴状を法務担当が彼なりにかいつまんで一生懸命説明していました。また、傍聴人は見ることができませんでしたが、訴状の詳しい内容の書かれた資料が委員には前日(10月7日)の総務委員会が始まる前までに配布されていました(10月15日、区議会ウェブページに資料がアップされました。この note の最後に貼ってあります)。
この報告に対し、質問や意見を述べた総務委員はひとりも居ませんでした。
(参考:中野区議会総務委員会のメンバーは、内川、大内(自)、白井、小林ぜんいち(公)、山本、酒井たくや(立)、浦野(共)、内野(都F)、立石(無所属))
以下では、この訴訟について、いままでの経過と(理解を助けるため)法律的予備知識を書いておきます。また、訴訟の今後の経過も順次、この note のアカウントで書いていきます(ツイッター @orangkucing でもお知らせします)。
住民訴訟とは
地方自治制度は、主権者である市民(citizen)が首長と地方議会議員を直接選挙で選び、市民が間接的に行政に参加する制度(二元代表制)になっています。首長と議会は協力するとともに牽制しあって、独断専行を避け、民主主義を実現することになっています。
中野区では、前区長田中大輔の独裁が嫌われ、2018年6月に酒井直人区長が誕生しました。さらに、議会の構成に関しても2019年4月の選挙で自公の議席を減らすことに成功しています。
ところが、行政の独断専行はちっとも止まりませんでした。
さて、こういう時のためにあるのが、地方自治法に用意された直接請求です。直接請求には、議員や首長などの解職請求(リコール)や住民投票がありますが、今回は、住民監査請求と(住民監査請求の結果に不服な場合に提起できる)住民訴訟を行なっているところです。直接請求は、地方自治法の定める民主主義的な制度で、市民が行政に直接ものを言う制度です。首長、議会の二元代表制とは別の道であり、住民が執行機関と直接やりとりをすることになります。
まずは住民監査請求
首長が不誠実で、地方議会も政局に夢中、誰も一市民の問題を取り上げてくれない。平和の森公園の元草地広場に埋設された大量の発泡スチロールは、まさにそういうケースです。前節で書いたように、二元代表制とは別の道で、行政の悪事を止めたり責任を取らせる手段として、住民監査請求(とそれに引き続く住民訴訟)がありますのでそれを使うわけですね。
今回の住民訴訟も、その前段階として住民監査請求を出しています(住民監査請求の要旨はこの note の最後にあります)。
中野区の住民監査請求は4名の監査委員(2名は識者枠: 髙橋信一、下田政廣、2名は議員枠: 太田(森)隆之、小林善一)がまず協議し、監査するかどうかを決め、監査する場合には60日以内に棄却あるいは認容という結果を出し、監査の請求人に通告します。
監査委員は「平和の森公園の工事契約 2017年10月13日から1年が経過しており、時効が成立している」という理由で「監査しない」と通知してきました。
そして住民訴訟へ
時効は成立していないというのもこちらの主張に含まれていたのですが、監査委員には認められませんでした。
住民監査請求に不服のある場合、住民訴訟を提起することができます。棄却あるいは認容という結果が出なくても、「監査しない」あるいは60日以内に結果が出てこない場合も含めて、とにかく住民訴訟が起こせます。
2019年8月22日に監査委員から「監査しない」という配達記録郵便が届いたのをうけて、翌8月23日、東京地裁に訴状を提出しました。ちなみにこの住民訴訟は弁護士に依頼していませんので、いまのところ費用としては印紙代1万3000円しかかかっていません。
参考資料
(参考資料が表示されないことがあるようです。その場合はリロードしてください)
【豆知識】中野区を訴えた住民訴訟として、近年では
・ 勤福の森住民訴訟(原告: 内野区議(都F)の父)
・ 平和の森住民訴訟(原告: 平和の森を守る会)
があります。どちらもいわゆる「住民訴訟第3号請求(怠る事実)」です。本件のような第4号請求(損害賠償)はひょっとして中野区では例がないのかもしれません。
建設委員会での報告
(この節は、2019年12月20日に中野区議会会議録が公開されたので追記)
わたし自身が傍聴した10月8日の総務委員会だけでなく、その前日10月7日の建設委員会でも「区長を被告とする訴訟の提起について」という報告があったことを後で知りました。報告者は細野公園緑地課長。委員たちへの配布資料は総務委員会と同一のものです。
(参考:中野区議会建設委員会のメンバーは、髙橋かずちか、加藤(自)、日野、久保(公)、間、杉山(立)、来住(共)、竹村(N国)、小宮山(無所属))
会議録の該当部分へは上の参考資料の表中で 10/7 の項のリンクを叩くと飛べます。総務委員会とは異なり、建設委員会では報告に対する質疑応答がけっこうありましたね。
とりわけ興味深いのは、質疑応答の間に休憩が入っていることです。中野区議会の各委員会では、会議録に残せない話をする際、休憩にするという手法が濫用されています。
この節を加筆している時点(2019年12月20日 19:00ごろ)で確認できる会議録では、休憩のきっかけとなった不規則発言 (「休憩にしたらしゃべれることは……」と呼ぶ者あり) が削除されています。しかし、同日 18時すぎにはその不規則発言が確かに会議録にありました(上のスクショの緑色線)。
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建設委員会会議録から公開後に削除された不規則発言に関する追記(2019/12/21):
件の不規則発言が削除されていない(おそらくドラフト版)会議録が、中野区議会のウェブサーバー上にいまだに存在していることが判明しました。「委員会」→建設委員会→第3回定例会→「区長を被告とする訴訟の提起について」の右の「会議録」で到達できます。これが削除されると残念なので、インターネットアーカイブにも保存してあります。
件の不規則発言が削除されているほうの(正式の)会議録は、中野区議会の「会議録検索」→令和元年+建設委員会などで絞り込み検索→「令和元年10月07日中野区議会建設委員会(第3回定例会)」で到達できます。これも念のためインターネットアーカイブに保存しました。
(ご参考:下は、旧版「削除されていない」と新版「削除されている」を左と右にそれぞれ貼った会議録の新旧対照表です。Text Compare! (https://text-compare.com/about/) を用いて作成しました。)
平和の森公園発泡スチロール訴訟(あるいは中野区立中学校教科書選定調査委員会の体験記)に関するお問い合わせは heiwanomori@mewpro.cc へどうぞ