執事との出会い(1)
38歳までに人生を変えたい、
と、
自分探しをやめられない一人の主婦。
彼女は不遇な家庭環境に生まれ、
自分の価値を感じられず、
《いてもいなくてもいいのなら、いないほうがいい人間》
という自分自身へのレッテルが、
物心ついた時にはべったりと貼り付いていた。
彼女はとてもピュアだった。
純粋でバカ正直で、嘘をつけない、
そして自分の居場所をどこにも感じられず、
愛を探し続けていた。
内なる情熱を秘めながらも、自分のやりたいこともわからない。
でも、自分にしかできない何かがあるはずだ、と一筋の光を求めて、もがく日々。
幸い、彼女は理解ある夫に出会い、
自分の家庭を持つことができた。
それでも、
いつもよそ者のような感覚がぬぐえず、
孤独感がふとした時に忍び込む。
そして、38歳を迎えた時、
彼女は原因不明の病気に襲われる。
そんな彼女に容赦なく、四六時中、
『この役立ず』
『でくの坊』
『お前はそんなこともできないのか』
とうに限界を超えている彼女の脳内で
自分をさげすむ罵詈雑言が浴びせられ続けた。
ついに、
心も身体も麻痺してしまい、動けなくなる。
『人に迷惑をかけるために生きているのか』
『これまできたことさえ出来なくなった』
『この若さで、
動かない身体に押し込められて、みじめだ』
『これまでの
自由でのびやかな身体を取り戻したい』
動かない寝たきりの身体を言葉でいじめたおし、呪う日々。
ただ、普通の幸せがほしかっただけ。
当たり前のことを当たり前に出来て、
自分の大切な人と笑い合える人生を送りたかっただけ。
ささやかな幸せを手に入れたかっただけ。
一瞬でもいいから、
自分のことを好きだ、と思いたかっただけ。
その願いさえも虚しく、
ついに彼女は寝たきりになり、
パートもやめ、家事やお友達とのお茶も困難になり、
当たり前に出来た日常のことさえも叶わない絶望の中。
ある日、
彼女の目の前に一人の紳士が現れた。