天才は渦潮を見ない 「日本画に挑んだ精鋭たち」
CMでよくきくエビスビールの発車メロディが流れるのは、山手線の恵比寿駅。
恵比寿駅を最寄りとする美術館に向かう。
道は上り坂で、街路樹に群がる蝉の鳴き声が夏の暑さを殊更に強調する。
山種美術館へ
山種美術館は1階を受付、地下1階を展示室とする構成で、
私のペースでは1時間ほどで見て回ることができた。
特別展は「日本画に挑んだ精鋭たち」というタイトルで、
日本画を時代の流れに沿って並べることで、その革新or保守の歴史を知ることができた。
ぱっと見るだけでも心に沁みてくるものがあるのは、日本の伝統がなせるものなのだろうか。
黄緑の一色が美しいだけでも惹かれる。
鳴門の絵が気になる
一つ気になったのは、川端龍子の屏風絵「鳴門」だ。
渦潮を題材にした絵で、力強い群青が揉みあうようにして流れを作っている迫力が、こちらに圧力を与えてくる。
でも、そこらじゅうに渦があって明らかに多い。
本当に渦潮を見ていたのかと疑って解説を読めば、実物を見ずに聞いた話だけで描いてしまったらしい。
大型の屏風に書かれた作品であるからかなり時間をかけたことだろう、
そんなものを作るに当たって自分でリサーチしないんだ…へぇ。という感じだ。
自然の描写をするなら実物をみてリアリティを追求とか、自然の力強さを感じてそれを作品にするとかを想像していたが、天才にかかればきいた話でも想像力をふくらませて傑作をつくれてしまうらしい。
もしの話だが、龍子が本物の渦潮を見てから書いた絵があれば見比べてみたら楽しいだろうと妄想した。