現実で「これは独り言なんだが」をきいたけど、なんか違った

 先日、資格試験を受けるために大学のキャンパスを訪れた。久々に大学の門をくぐると、広々とした空間に学びと自由の風が感じられて、大学という空間の良さを改めて感じた。
 門から続く通路の雑踏を抜けて試験教室に入ると、参考書を広げている人がたくさんいる。教室に満ちる独特な緊張感に懐かしさを覚えた。

 着席の時間になると試験監督のおじさんが声を張って受験上の注意を読み上げはじめる。途中まで読んでいたのだが、突然トーンを落として言った。
 「これは独り言になりますが、電卓にフタがついているタイプの方はフタを外しておいていただけると試験監督が確認しやすくて助かります。」
 そこまで言ったのち、おじさんは再び大声に戻って試験の注意事項を読み上げていった。

 現実で「これは独り言だが、」をきくことがあるのかと、とても驚いた。
 初めて聞いたセリフにその時は興奮したのだが、しかしながら、改めて考えてみるとアニメでよくある「これは独り言だが、」と全く違うタイプのものであると気づいてがっかりした。以下はその理由だ。

 まず、アニメでよくみられる「これは独り言だが、」はライバルだったり友好的でないはずの人物が主人公に有用な情報を与えてくれる際の決まり文句である。しかしながらその試験監督はライバルではないし、セリフは受験者である我々を利する内容ではなく、あくまで監督者のためになることをお願いしている言葉であったのだ。
 また、語尾もおかしい。アニメの場合は昔話を語るようなパターンを始めとして、あくまで独り言として成立するような発言をしている。一方で試験監督の言葉は最後が完全に「助かります。」になっており、完全にこちらに語り掛けてしまっている。
 独り言として成立させるためには、本来であれば語尾は「確認しやすくて助かると思っている」とか「確認しやすくなると思うんだけどなぁ」になるべきだ。しかし、それでは対社会人の発言としては不適切になってしまう。その結果として、語尾に違和感があるものの他の選択肢が無いために先の発言になったのだと思われる。

 結局として、現実世界で「これは独り言だが、」の構文を聞けたと思ったが、アニメでよくきくセリフとは似て非なるものだった。
 いつか本当の「これは独り言だが、」を聞ける日を楽しみに生きていくしかない。