ドラクエドッジ
●誰でもたのしめるドッジボール
低学年から高学年までたのしめるドッジボールを紹介します。その名も「ドラクエドッジ」です。
クラスの子どもたちと楽しみながら,試行錯誤を経て,現在のルールを作りました。高学年でもクラスみんなでたのしめるドッジボールとして,「たのしい体育」の定番です。
●オススメポイント
① 大人数でやった方がたのしいドッジボールなので,クラス全員が一カ所でできる。
② ドッジボールが苦手な子でも,力の弱い女の子でも,たのしめる。活躍できる。
③ チームで作戦が立てられる。何回もやりたくなる。
ゆえに,クラス作りに最適。学級開きや,お楽しみ会でよく実施される。
●必要なもの
・6色以上の「色ゼッケン」(ない場合は,ハチマキ等で代用)
・やわらかいボール(ミカサのキッズドッジボールがオススメ)
ゼッケンがない学校は,すぐに体育主任に頼んで買いそろえてもらうことをオススメします。他のボールゲームなどでも,色ゼッケンがあるのとないのでは,チームの団結力やテンションに格段の差が生じます。ゼッケンがない学校は,色ハチマキなどで代用してください。
ボールは,当たってもあまり痛くないボールがよいです。また,ある程度捕りやすいものがよいです(普通のドッジ用ボールでは硬すぎて,ソフトバレーボールでは柔らかすぎです。ミカサのキッズドッジボール(スマイルシリーズ)がオススメです。
●基本ルール
「王様ドッジボール」と同様です。チームの中で王様を1人決め,その王様がアウトになったら,そのチームが負けとなります。それ以外の人は,敵の投げたボールに当たったらアウトになり,外野に出ます。外野の人が中の人を当てたら,内野に生き返ることができます。
●ドラクエドッジのルール
その「王様ドッジボール」のルールに,特殊な能力をもつ職業を設定するのが「ドラクエドッジ」です。
誰でもどれかの職業に必ずなることができ,それぞれの能力を生かした攻撃や守備を,チームで考えて戦うことをたのしみます。その職業を表す色のゼッケンをつけることで役割を区別します。
王様
何の能力もない。しかし,この人が当てられるまでチームは負けない。
どうやってこの王様を守り抜けるかが勝敗を左右する。
戦士
ボールが当たってもアウトにならない。
もちろん,相手の戦士が投げたボールも跳ね返すことができる。
(例外:勇者に当てられた時と魔法使いの球に触れた時はアウトになる)
勇者
普通のドッジボールのルールで,戦士をアウトにできる。
戦士をアウトにした回数,自分が当たってもアウトにならない。
僧侶
敵をアウトにすると,仲間を1人生き返らせることができる。
ゆえに,外野の僧侶が内野を当てると,自分と仲間1人が同時に生き返る。
誰を生き返らせるかは,敵を当てた僧侶が選べる。
魔法使い
球に呪文がかかり,バウンドしても転がしても,触った敵をアウトにで きる能力がある。戦士もアウトにできるので,よけるしかない。
ボールに触るには,スライムで当たってバラバラになることで,魔力 を解除するよりほかない
スライム
1人でいると何の効果もないが,スライム同士で肩を組むとキングス ライムになれる。キングスライムは,当てられると5秒間バラバラに ならなければならないが,アウトにはならない。バラバラになったと きが倒すチャンス。合体していれば無敵。
上記までの職業が基本職です。慣れるまで基本職でたのしみます。
下記の職業は,慣れてからオプションでつけます。
子どもが考えた能力を採用しながら,クラスのルールで楽しめます。
ゴースト
ラインを出て逃げられる。
また,敵の外野に入っていってボールをとって,味方内野にパスすることができる。
ただし,敵の内野に入ることはできない。
当てられたらふつうにアウトになり,自陣外野にしかいられなくなる。
ばくだん岩
相手チームのボールを自陣のコートでキャッチしたときに,「メガンテ」の呪文をとなえることができる。
「メガンテ」をとなえると,自分がアウトになる代わりに,相手チームの内野を,強制的に10秒間だけ「王様」のみにできる。
10カウントは,審判がする。王様を倒す絶好のチャンスになる。
メタルスライム
3回当てないとアウトにできない。
しかし,アウトになると,敵の外野が全員生き返ってしまう。
賢者
1人の僧侶が,3回以上敵を当てると,賢者になれる。
賢者は,僧侶と魔法使いの両方の能力をもつ。
魔物使い
敵のスライムやメタルスライムなど,モンスター職の子を当てると, 自分のチームの仲間にできる。
キングスライムでも,当てると,当てたスライムだけを仲間にできる。
●イメージ動画
●評価と感想
小学校2年生で3時間やったあとの感想と評価です。(週1時間・体育館)
この時は,基本職+メタルスライムでやりました。
⑤とてもたのしかった 29人
④たのしかった 5人
③たのしくもつまらなくもない 3人
②つまらなかった 0人
①とてもつまらなかった 0人
・王さまをまもることができて楽しかったです。あと、たとえばスライムがかたまると、キングスライムになって、あたってもバラバラになるだけだし、すぐにアウトにならないのがよかったです。 あと、まほうつかいは、まほうのボールがなげられるのがいいです。いつもは男の子がボール をとっちゃうので、ボールがなげられるのがいいです。(うえだみゆき⑤)
・せつめいをきいたとき、はやくやりたいと思いました。ふつうのドッジボールよりドラクエドッジボ ールのほうが楽しかったです。わたしは(まほうつかい)と(せんし)と(メタルスライム)と(ふつうのスライム)をやったことがあります。一ばん楽しかったのはまほうつかいです。スライムはみんなでかたまるのが楽しかったです。(あかぬまさえ⑤)
・今日は、せんしのときまもっていたら、とれてよかった。せんしはまもるのが楽しい。まほうつか いは、まほうつかいのボールをとれるからたのしい。(なかがわりな⑤)
・ドラクエドッジはいろいろなキャラクターがあってたのしいです。ぼくはゆうしゃがすきです。ふつうではあてられないせんしをあてられるからです。(さとうりゅうじ⑤)
・ドラクエのせかいをそのままさいげんできるドッジボールで、すごくたのしいです。せんしで前 に出てじゃまするのがたのしい。(おかべたくま⑤)
・今日のドラクエドッジはいっぱいボールをとれたから今までで一ばんたのしかった。この前は、 かずきくんをあてられたからよかった(解説:かずきくんはドッジボールがすごく上手な子で,いつも王様をやる子)。やくわりがかわって、いろいろなやくをたいけんできるからたのしい。(ふじたせいだい⑤)
・今日たのしかったのは、そうりょがたのしかった。今日は一回あたっちゃったけど、がいやであてて、2人いきかえったのがたのしかった。(なりたあい⑤)
・はくりょくがおもしろい。なんて言うか、口では言えない楽しさがおもしろい。せんしで王さまをま もるところが一ばんおもしろい。(よこたこうたろう⑤)
・いろいろなやくわりがあって、ふつうのドッジボールよりたのしかったです。またぜひやってください。スライムがかたまって、キングスライムでいるのがたのしかったです。だれにあてられても、バラバラになればはねかえせるので、たのしかったです。(あずきざわはな⑤)
・スライムがたのしい。スライムでゆうしゃのボールをとれたのがたのしかった。あと、まほうつかいは、じゅもんがかかっていて、だれもさわれないからたのしい。(いわたげんとく④)
・まほうつかいとそうりょにいっぱいなれてよかった。いっぱいなげられるから、ふつうのドッジボ ールよりドラクエドッジボールのほうがいい。(たなかみおん③)
●授業をするときのポイント
① クラスを半分に分けて,ドッジボールをすることを説明します。ぼくのクラスでは,男女の人数が均等になるようにくじ引きで半分にします。クラス全体でゲームできるので,教師が審判できたり,実況で盛り上げたり,説明できたりするところが,このゲームのいいところです。
② 次に,役割と色と人数を書いたカードを見せて説明します。
これがあると後がラクです。役割になれる人数制限もここで説明します。ちなみに,30人のクラスだったら,15人の2チームです。1チーム15人だったら,下の表のような割合で,なれる職業の「人数制限」をします。
人数は,30人以上でもできます。割合的にはこのような感じで増やしていくとバランスがいいでしょう。
③ チームで,「王様」と「勇者」を誰にするのかだけ決めるように伝えます。全部決めるようにすると,それだけで時間が終わってしまうので,気をつけてください。子どもたちが王様と勇者を決めている間に,チームごとにその数の色ゼッケンと説明のカードを床に並べておきます。
④ 決まったチームから,やりたい職業ゼッケンを着て準備します。他の職業は,ある程度,自由に早い者勝ちにして大丈夫です。
その代わり,ゲームをはじめる前にやりたい職業になれなかった子を,チーム内で確認しておき,次は,その子たちが優先的になりたい職業にチェンジできることを,チームで了承してあげておくとよいと思います。「自分のなりたい職業になれなかった人~」と聞いて手をあげてもらい,「次の作戦タイムでは,いま手をあげた子たちを優先的に決めさせてあげてね」と伝えておくのです。
⑤ ゲームをやっているときも「魔法使いのボールだぞ~!さわるなー!」とか,「戦士がじゃまだー!!強よすぎー!」とか,「わぁ!僧侶が当てた!みんなストーップ!誰を生き返らせる?」とか,子どもたちが役割を覚えるまで,担任が実況してあげると,わかりやすいです。
また,キングスライムが当たった時は「はい!バラバラになってー!!…1…,2…,3…,4…,5…!!」と数えてあげると,きちんとバラバラになれるし,その間に当てられないか…というハラハラ感を演出することができます。
⑥ 王様が当たったら終了です。コートの広さによりますが,多くの場合,10分ぐらいで1試合終わります。1時間あれば3試合ぐらいでき,勝敗が決められるでしょう。
決着がつかない場合は時間で切り,コート内にいた人数で勝敗を決めます。(また,5分勝負にすると飽きなくてよい,という実施報告もあります。)
⑦ 試合が終わる度に,作戦タイムをとります。ゼッケンは,試合が終わる度に,一度全員脱いで床に置くとよいです。(「トレードだと,子どもの中には遠慮してしまう子がいて,うまくいかないことがある」という実施報告をいただきました。)
役職を変更したら,次に,どうしたら王様を守れるか,作戦を立てたりします。「キングスライムと戦士で壁を作ろう!」とか,「魔法使いを外野に出して,外からの無敵攻撃にしよう!」とか。
おもしろい作戦が出てきたら,ほめてあげるといいと思います。ただし,スライムで王をまるく囲むのは反則です。そういう作戦が出てきた時には,「賢いけど,キングスライムは壁でなければいけないルールがあるんです。ごめんね」と伝えて下さい。
「ドラクエドッジ」の魅力
低学年から高学年までたのしめる「ドラクエドッジ」。子どもたちの姿から伝わってくる,このドッジボールの魅力を解説します。
●作戦・陣形を考えるたのしさ
ドラクエドッジでは,チームで考える「陣形」が,勝敗を左右します。何度かやっていると,王様を守るための方法を,自分たちで考えていきます。賢い作戦を立ててきたら,それをほめてあげるのです。すると,次々と新しい作戦を試すようになります。そして,自分たちにあった攻守を編み出していきます。そこが,おもしろいのです。
☆守備☆
守備の要は何といっても〈戦士〉と〈キングスライム〉です。例を見ながら解説していきます。Aチームが作っているのはオーソドックスな守備です。〈王様〉を中心に,前方を〈キングスライム〉でガードしつつ,さらに前方を2人の〈戦士〉がガードするスタイルです。
前方にいるこの〈戦士〉2人は,相手が投げた瞬間をガードする「当たり屋」です。相手の〈勇者〉や〈魔法使い〉がボールを持っているの時のみ,少し下がって守備をします。
〈王様〉の裏についている〈戦士〉は,裏の外野にパスが回った時に一時的に〈王様〉を守るのが仕事です。〈キングスライム〉は無敵ですが,動きが遅いので,すばやいパスに対応できません。そこで,王様が,盾となるスライムの裏に移動します。その時間を,この戦士がガードするというわけです。
Bチームは,前方を〈戦士〉が,後方を〈キングスライム〉が守る陣形です。これも基本的な形の1つです。Bチームのように,内野に〈魔法使い〉を1人置いておくと,相手の〈魔法使い〉がバウンドさせたボールや,転がしたボールを取れるのでよいです。また,内野の〈魔法使い〉が,ボールを取る技術が高い子であった場合,相手チームの「魔法使い戦法」(後述)の重要な守備戦力になります。
☆攻撃☆
攻撃の要は〈勇者〉です。勇者は,基本的にドッジボールの上手な子がやると得するようになっています。もちろん,そういう子がやらなくてもいいのですが,チームのことを考えると,そうするのが得になるように設定されています。
戦士と対等に戦えるので,スリリングです。もちろん,勇者のボールを戦士がとればセーフです。無敵の戦士も,勇者がボールを持った時,フツーのドッジボールのルールになるのです。勇者は,戦士を倒すと命がひとつ増えます(子どもたちには「1機(いつき)増える」と言った方が伝わります)。それゆえ勇者は,戦士と王様を狙う,最強のハンターなのです。
攻撃の要は,勇者だけではありません。攻撃において最強の能力を持つのは,何といっても〈魔法使い〉です。力の弱い人でも活躍できるので,女の子の人気職です。もちろん男の子がなってもかまわないのですが,適材適所,男は体を張って戦士をした方がカッコイイ!みたいな雰囲気が出ると,女の子に譲る雰囲気が出ます。
Aチームは,外野に魔法使いをすべて集めた,超攻撃型戦術「魔法使い戦法」を使っています。これは,内野の勇者と外野の魔法使いで四方を囲み,相手の守備をとことん弱らせる戦術です。自陣の内野に魔法使いがいなくなるので,相手の魔法使いの攻撃は絶対に捕れないという諸刃的な要素もありますが,攻撃は最大の防御ともいうべき,思い切った作戦です。
この時,相手チームで活躍するのはキングスライムです。魔法使いのボールが当たったとしても,バラバラになるだけなので,守備として大活躍します。しかし,バラバラになっている5秒間に,跳ね返ったボールを捕った相手が攻撃し,スライムを減らしていく「キングスライム撲滅作戦」という攻撃をしかけることもできます。
これ以外にも,わざと自分のチームの魔法使いにボールを当て,跳ね返ったボールを相手の内野に転がし,うっかり捕ってしまった人をアウトにする「隠れ呪文作戦」とか,逃げ足の速い人を王様にし,守備陣形をとらずに変則的な攻撃をする,「ノンスタイル作戦」など,ユニークな作戦がいろいろ出てくるのも,このドラクエドッジの魅力といえるでしょう。
●ドラクエドッジの組織論
しかし,ドラクエドッジの魅力というのは,それだけではないようです。「自分の役割で活躍できるから」とか,「チーム戦術がおもしろいから」などを超越したたのしさが秘められている感じがします。なぜなら,全くボールをさわっていなかった子や,「活躍できていないなぁ」と僕が思っていた子も,なぜか「たのしかった!」と評価してくれるからです。
どうやら,子どもたちは「ドッジボールをたのしむ」というより「その役割になること自体をたのしんでいる」ようなのです。
スライムが好きな子は,ずっとスライムになって合体することをたのしんでいるし,僧侶になって,当てられた子をやさしくなぐさめる子もいれば,戦士になって最前線に立ちふさがる子,呪文を唱えながらボールを投げる魔法使いの子がいたりするのです。
そこで,少し慣れてきたら,チームの人数制限を完全に取っ払ってしまったほうが,たのしむことができます。王様は1人にした方がよいですが,それ以外は,自分のやりたい職業になってもいいことにするのです。
すると,魔法使いが多いチームになったりとか,戦士やスライムばっかりのチームになったりもするかもしれません。「それでもいい」という約束にすれば,自分のなりたい職業になることができ,勝っても負けてもたのしめるというわけです。その人らしくチームに貢献することができ,チームのカラーも出るので,そういう意味でよりたのしむこともできるでしょう。
やりたい人が,やりたいようにやってたのしむことができると,とても意欲的な集団になります。それはドッジボールに限らず,どんなことをするときにも当てはまる法則です。いろいろなことに応用できそうな広がりを感じるのですが,どうでしょう?
どの学年でも楽しめるので,ぜひやってみてください^^
おわり
出典:月刊『たのしい授業』2010年6月号(仮説社)
https://www.fujisan.co.jp/product/1567/b/343243/
『ぜったい盛り上がる! ゲーム&体育』(仮説社)
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