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悪いところ潰しから、良いところ繋ぎへ 〜“ポジティヴヘルス”と“医療的ケア児”に出会って〜


超高齢社会、世間は病気や足腰の不具合を持つ人であふれている。そして多様性の時代、障害や生きづらさを抱えたまま、地域で暮らす人も増えている。そこに災害が頻発する我が国では、どのように未来の暮らしを描いたらよいのだろうか。

そんな社会は、病気や障害や不具合の割合ばかりが増えていく、不健康で不幸な社会なのだろうか。


病気を駆逐し、障害を取り除ききったあとに、健康的で幸せな暮らしがある。人間におこる心身の課題を、医療アプローチがなんでも解決できると思い込んでいた時代には、そんなふうに考えていたかもしれない。
しかし医療が発達した社会でも、人は歳を取るし、必ず亡くなる。

「病気や障害を持っていることは不健康で、不幸」。この公式は誠意をもって丁寧に否定していきたい。

日本は、人生経験が豊富な人がたくさんいて、つながりがいっぱいある、変化に伴走できる専門家もいる。そんな社会になっていくし、そんな社会における、健康で幸福な状態をイメージしていきたい。


在宅医療で出会う患者は、通院困難なレベルの疾患や障害を持っている。しかし、その患者の中に、思わず「健康的だなぁ」と感じてしまう場面はしばしばあるし、「今、私は幸せなんです」と話す者もいる。


オランダで生まれた「ポジティヴヘルス」という考え方では、WHOが健康を「状態」として定義したのに対して、「健康とは、社会的身体的感情的問題に直面したときに適応し、本人主導で管理する能力」とした。「状態」ではなく「能力」、すなわち「止まった評価」ではなく「動いているベクトル」とも言える。

WHOの定義では“健康”とは呼べないが「健康的」な人たちに出会い続けていた私たちには納得のいく考え方であり、ポジティヴヘルスについての現地視察や研修を通して、超高齢・多様化の時代に求められる考え方だと確信している。


さらに、私が在宅医療を通して出会った、生まれつきの障害を持ちながら社会で暮らす、弱さの中に大きな強さを感じる医療的ケア児の存在は、医療者としてこれからの社会にどのようなスタンスで佇み、伴走することができるのかについて考えるきっかけを私に与えている。

社会を医療化していくのではなく、医療が社会化する時代を思い描きたい。


本noteは、
2024年8月23日、第28回日本看護管理学会学術集会
テーマ『看護のルネサンス ~より自由に、より人間らしく、看護を描き出す~』
シンポジウム 4「今一度考える:社会をよりよくするために、医療者ができること」 に登壇しました。その抄録の一部です。

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