[新譜レビュー] ネオ・サーフという新ジャンルの追求:UEBO "Couples" (EP)
UEBOさんの新EP『Couples』が2023年5月24日にリリースされました。昨年12月にリリースされたEP『Half & Half』に次ぐもので、本EPでは「ネオ・サーフ」という新ジャンルの追求がさらに進められた、非常に満足度の高い作品に仕上がっています。
「ネオ・サーフ」とは、UEBOさんが自分の音楽を表現する時に使っている造語であり、独自に提唱されているジャンルです。過去のインタビューで語られているところによれば、UEBOさんはネオ・サーフという言葉に一意的な定義を与えていないようで、サーフミュージックとアコースティックギターをベースとしつつ、その時々でUEBOさんが「アツい」と感じるサウンドとミックスさせたジャンルということです。
とは言え、今回のEP『Couples』と前EP『Half & Half』では、サーフミュージックと打ち込み系の音楽、ダンスミュージックをミックスさせた曲が主流をなしており、この方向性が今のUEBOさんにとって最もアツいのだと思います。具体的に言えば、前EPの「Circle」と「Knock Knock」、本EPの「Hallelujah」と「群像」がそれに該当します。これら楽曲に共通するのは、macicoのホリタコウキさんが作曲・編曲に大きく関わっている点です。ホリタさんはmacicoのギタリスト兼トラックメーカーであり、ハウスやダンスミュージックなど、様々なジャンルの音楽を独自にミックスさせ、macicoのチルで、踊れる楽曲を数多く作られてきた方です。
個人的に、UEBOさんとホリタさんの組み合わせは非常に相性抜群であると思っています。というのも、UEBOさんの書かれる歌詞には、一通りの人生を経験してきたからこその諦念のような感情がしばしば表現され、それでもなお、地に足をつけて日々前向きに生きていこうというメッセージが込められていることが多いのですが、そのような歌詞をそのまま暗めな楽曲に落とし込んでしまうと、より暗くなってしまうところですが、ホリタさんの明るくポップでダンサブルな楽曲と組み合わせることにより、光と影、あるいは、陰と陽の絶妙なバランスがとられているように思えるからです。
もちろん、これまでのUEBOさんの作品もとてもかっこよく、『Half & Half』収録の「Your Story」と「めんどくさいや」には、Awesome City Clubのモリシーさんを編曲に迎えています。UEBOさんとモリシーさんのタッグの始まりは2021年11月にリリースされた人気曲「Stand」にまでさかのぼることが出来ますが、今回の2曲もポップスをベースに、エモーショナルな作品へとアレンジされています。『Half & Half』ではホリタさんとモリシーさんのアレンジは異なる方向性ではありますが、2種類の味のピザを1枚で楽しむような、まさに「Half & Half」な仕上がりになっています。
今回のEPのタイトル「Couples」には、UEBOさんが様々なアーティストさんと「一対」、「一組」になり、楽曲を作っていることが表現されています。その意味では、前EP『Half & Half』とのつながっていると言えます。一方、『Couples』では、前作よりもフィーチャリング相手の音楽性を尊重し、さらに引き出そうとしている印象で、とくに「Hollow」と「Inner Flight」の2曲にはmaco maretsさん、lo-key designさんが得意とする都会的でメロウでクールなサウンドとなっています。それでいてUEBOさんらしさもしっかり感じることが出来、とても素晴らしいと感じました。
以下では1曲ずつ、聴いた印象を述べていきたいと思います。
1 Hallelujah (feat. gb)
作詞:UEBO, gb 作曲:UEBO, gb, horita
EPの1曲目をかざるにふさわしい、ネオ・サーフらしさ、UEBOさんらしさがとてもよく出ている曲です。ハッピーで、チルな楽曲が印象的な曲ですが、なんと言ってもこの曲は歌詞がとても素敵で、多くの人が共感できると思います。日々なかなかうまくいかないことが多い中、UEBOさんとgbさんが、「まぁ、大変だよね。でもなんとかなるっしょ」と暗くならず、そっと優しく励ましてくれるているような曲です。曲のテーマとしては、2曲目の「群像」や前EPの「Circle」とも重なるところが大きいですね。
歌の部分で印象的なのは、gbさんの「やらなきゃなって事ばっか/後回しにしちゃってさ、また・・・」と歌うパートから、UEBOさんの「分かる!時間だけが過ぎてさ/自己嫌悪に拍車がかかるよ」と掛け合う部分が、本当に仲の良い友達と話しているような感覚で、とくに素敵でした。
個人的に、UEBOさんとgbさんは互いにかなり親和性の高いアーティストであると思います。gbさんは以前のインタビューでも、音楽を通じてハッピーを世界に増やしたいとおっしゃられており、音楽に対しての姿勢は、UEBOさんとかなり通ずるところがあるのはないでしょうか。また、年齢や音楽的なキャリアも比較的近いであろうこともあり(gbさんがソロプロジェクトを始められたのは比較的最近ではありますが)、生き方や考え方も近しいと思います。だからこそ、「Hallelujah」という曲は、両者の創作範囲の境目がわからないほど、統一感のある作品になっているのだと思います。
折しもgbさんの新譜「GO」が4月26日にリリースされました。「GO」のメッセージは「Hallelujah」とも重なる部分があるので、是非あわせて聴いてみてください。ちなみに、gbさんは今、沖縄でのフェスの出演権をかけたコンペティションに参加されているので、以下の動画をみてGoodボタンを押して、一緒に応援しましょう(6月18日まで)。
2 群像 (feat. YAMORI)
作詞:UEBO, YAMORI 作曲:UEBO, YAMORI, 堀田コウキ(horita)
本EPの中で、僕の最推しの楽曲です。今回の収録曲の中では一番早い1月18日にリリースされました。その後、3月に開催された『in the moment』というダンス・コンテストのタイアップ・ソングにも選ばれています。そのために、非常にダンサブルでポップで楽しい仕上がりになっていて、曲を聴くだけでテンションが上がる曲となっています。コンテストのYouTubeチャンネルには、YOHさん、まいこさん、ionaさんという3人の個性的なダンサーさんが、「群像」に合わせて踊るMVがアップされています。これもまた観ているだけでハッピーになれる、素晴らしい作品です。
ただ、明るい曲調とは裏腹に、歌詞を聴いていると、かなり侘しさや諦念を感じるものとなっています。年をとるにつれて、なにも成し遂げることが出来ない自分にあせったり、いらだったりし、自己嫌悪に陥ってしまうことは誰しもあることでしょう。かつてはドラマの主人公の華々しさに憧れ、気づくとそういった憧れを持っていたことも忘れてしまっているかもしれません。この「群像」という曲では、自分をドラマの主人公に投影させて夢を見るというよりは、諦めや醒めた感情にしっかり向き合い、自分たち一人一人を群像劇のキャストとして見つめ直し、それぞれの「群像劇を生きよう」とUEBOさんは伝えようとしており、その言葉によって多くの人が励まされると思います。
このように、歌詞的には一貫して侘しさが描かれているのですが、それを暗い曲にしてしまってはただ悲しいだけなので、ネオ・サーフの提唱者の面目躍如たるポップでノリの良いトラック、そして、「笑いとばしてよ、僕のこの無力さも/しゃーなし全部背負い投げ」といったユーモラスな言葉を選択することで、暗さと明るさの絶妙なバランスを取られています。ここでもやはり、horitaさんのアレンジが効果的であると思います。
曲の展開も非常に素敵です。たとえば、歌い方的にも歌詞的にも少しダウナー気味のYAMORIさんのパートにおいて、夜中の寂しさ・孤独が表現されているかと思えば、それに続くUEBOさんのパートでは、それでもまた朝が来て、今日も頑張っていこうという姿勢が歌われ、そこからラスサビの盛り上がりにつながっていく展開が本当に素晴らしく、とても大好きな部分です。また、ビートボクサーとしても知られるYAMORIさんが、歌い方や歌詞という点で、いつもと違う一面を本曲では見せており、印象的です。
このように大好きなところばかりの「群像」は、UEBOさんの曲の中で、今では一番のお気に入り曲となっており、天気がいい日でも雨の日でも、テンションが上がらない日でも、とりあえず「群像」を聴いて、「今日もまぁ頑張っていくか〜!」といつも自分を高めています。
3 Interlude
作曲:YUUKI KANAYA
ネオ・サーフ全開の1・2曲目から、都会的なサウンドに変わる3・4曲目をつなぐ間奏曲(=Interlude)が挿入されています。本EPのフィーチャリングゲストは、UEBOさんとの音楽的なコラボ相手としては初めてのアーティストさんばかりであったかと思います(UEBOさんとプライベートの交流はあったかとは思いますが)。一方、「Interlude」は、UEBOバンドには欠かせないギタリスト兼マニピュレーターのYUUKI KANAYAさんが製作しています。UEBOバンドではいつもパワフルに、時にユニークかつチャーミングに演奏している姿が印象的で、本曲も、お二人が部屋で冗談を言い合い、楽しく会話しながら作ったような、遊び心あふれる作品となっています。
4 Hollow (feat. maco marets)
作詞:UEBO, maco marets 作曲:UEBO, maco marets, YUUKI KANAYA
幕間後の2曲は、都会的なサウンドが前面に押し出されているクールなサウンドで、前半の2曲とは印象もかなり異なります。トラックは「Interlude」に引き続きYUUKI KANAYAさんが担当されており、これほど振れ幅のあるトラックを作れるのかと驚くばかりです。「Hollow」はカップルの相手目線での恋愛を描いた曲です。自分や相手に正直になれず、強がってしまい、恋人同士がすれ違ってしまう様子が描かれ、タイトルにつけられた「Hollow」という単語の持つ「からっぽ」、「うわべだけ」といったニュアンスがうまく表現されています。
UEBOさんは大人の色気がある低音が素晴らしい歌声ですが、客演のmaco maretsさんも同様の魅力を持っています(また、ラッパーでもあるmaco maretsさんのフロウはいつも心地よく、本曲でもそれは健在です)。そのような歌声を持つお二人が歌うことで、この曲からは大人の恋愛の雰囲気がより強まっている印象を受けます。
5 Inner Flight (feat. lo-key design)
作詞:UEBO, salto 作曲:UEBO, salto, rikuto
もともとlo-key designさんの大ファンだったので、最初、2組がコラボすると聞いたときは一気にテンションが上がりました。同時に、ローキーさんの音楽は、UEBOさんの音楽性とは少し距離があるのではないかとも思っていたので、どういったコラボになるかとワクワクとドキドキが入り交じった感情でリリースを待っていました。実際にできあがった作品を聴くと、それはすぐに杞憂であるとわかりました。イントロからいきなりUEBOさんのとてもかっこいいエレキギターが鳴り響き、その後は、ローキーのトラックメーカー・rikutoさんのセンスがいつも通り爆発したサウンドが続き、一気に心をつかまれました。
そして、saltoさんのクールできれいな歌声が、UEBOさんの大人っぽい落ち着きのある歌声と互いに補完するように、美しいハーモニーを生み出しています。とくに、2番のAメロのsaltoさんのパートは、saltoさんのテクニカルな歌唱を存分に味わうことが出来、とてもお気に入りの部分です。
タイトルの「Inner Flight」という言葉はそれほど一般的な単語ではないようですが、歌詞中にある「小宇宙」という言葉は、宇宙(=大宇宙)という言葉と対比的に使われ、人間内部の無限の広がりを示唆するときに使われる言葉であるそうです。そのため、本曲では、人間という小宇宙の内部を旅行すること、つまりは周りの人のことを気にしてばかりいるのではなく、自分自身を見つめ直し、そこに広がる無限の可能性に思いを巡らしてみようといったメッセージが込められているのかと思われます。また、以前のUEBOさんのインスタライブで、UEBOさんの所属するIN THE FLIGHT社からも取ってきているとおっしゃっていたと記憶しています(ちなみに、UEBOさんのインスタライブは毎週木曜日にやっていて、リスナーからのリクエストに応えて弾き語りをされていて、毎回とても楽しいので、そちらも必見です)。
6 めんどくさいや (BAGDAD CAFE THE trench town remix)
作詞:UEBO 作曲:Nitzscheefu, UEBO
前EP『Half & Half』収録曲「めんどくさいや」のレゲエリミックスであり、本EPにおいてある種のボーナストラック的な位置づけになっています。「なぜレゲエなのだろうか?」と一瞬思いましたが、5月28日に大阪で「MEETS THE REGGAE 2023」というフェスが開催され、UEBOさんがそれに出演されたことをきっかけで、そのフェスの主催者であるレゲエバンド・BAGDAD CAFÉ THE trench townのアレンジを受けることになり、本作のリリースに至ったのでしょう。
原曲は、ピアノやアコースティックギターの音が前面に出されていることもあり、ライブで聴くときはいつも感傷的な気分にひたることが出来る曲となっていましたが、今回のアレンジでは、重く捉えすぎない、肩の荷を下ろすかのようなゆったりとした曲になっています。その意味では、1曲目の「Hallelujah」とも通じる部分もあり、EPをリピートして1曲目に戻ったときにもスムーズなつながりを感じることが出来ます。
EPリリースパーティー(6月3日@下北沢、6月24日@大阪)
以上がUEBOさんの新EP『Couples』のレビューですが、実は明日土曜日(6月3日)にそのリリースパーティーが下北沢ADRIFTで開催されます。
2部構成で、第1部がアコースティック編成です。ゲストアクトとして、FIVE NEW OLDのHIROSHIさんと、UEBOバンドでもよくサポートをされるQnelさん(高橋健介さんのソロプロジェクト)も出演されます(正確に言うと、第1部は近日発売予定のアコースティックEP『Identity』のプレリスニングパーティーという位置づけです)。第2部はバンド編成になっており、ゲストアクトとしてgbさん、lo-key designさん、maco maretsさんが出演され、本EPのコラボ曲を一緒に歌われます。本当に一生に一度あるかないかの豪華で貴重なライブになると思います。このような2部構成になっているところにも、前EPと本EPのコンセプトとのつながりを見出すことが出来ますね。
この記事では、本EPの音源としての素晴らしさを書いてきましたが、UEBOさんの真骨頂はなんと言ってもライブパフォーマンスが最高に上手く、とても楽しいところです。私がUEBOさんの曲を最初に知ったのは1年半ほど前であったかと思いますが、正直に白状すると、そのときはそれほどちゃんと追っていませんでした。しかし、昨春名古屋で開催されたサカエスプリングというサーキットフェスで、初めてライブを目の当たりにし、その圧巻のパフォーマンスによって一気にファンになりました。ぜひ一人でも多くの方に、UEBOさんの迫力のライブを体験して欲しいと思っています。もしまだ予定が空いているなら本当にまずは観に行って欲しいと思いますし、6月24日には大阪でもリリパがあり、それ以外にも色々なところで頻繁にライブをされているので、未見の方には是非一度ライブを体験して欲しいと強く思います。
ライブには多くの見所がありますが、まずは何といっても、その場で自分が感じたまま、好きなように楽しむことが一番だと思います。今は声出しに関する規制も緩和されていますので、シンガロングしたい場合は、「群像」の「Na, na, na...」と「Hallelujah」の「la la la la la...」は是非おさえておきたいところです。あとは、「Inner Flight」のイントロ・アウトロや「Knock Knock」の終盤のギターソロは、ギタリストとしてのUEBOさんのかっこよさが最高に発揮されるところですので要チェックだと思います。もちろん、UEBOバンドのメンバーである、YUUKI KANAYAさん(ギター、マニピュレーター)、高橋健介さん(ギター)、西原浩さん(ベース)、神林祥太さん(ドラム)、NEMNEさん(コーラス)もそれぞれ素晴らしいミュージシャンの方ばかりですので、その演奏にも注目です。
この記事を読んでくださった方と、明日、一緒にライブを盛り上げられるのを楽しみにしております!