藤原ちからの欧州滞在記2024 Day 48
木曜日。Stamsund Teaterfestivalの会場はほぼどれも港周辺にあって、わたしたちのホステルから歩いても最大20分足らず。まだ現実感のないままおそらくは素晴らしいと言ってよい景色を見つつ会場に向かう。朝10時からはダンスのドラマトゥルクについてのトークで、ひとまずお名前は書かないけど登壇者はドラマトゥルク、ダンサー、演劇作家という3人編成。わたしの体力がまだ30%くらいまでしか回復してないせいもあるけど、最初の30分くらいは言葉がうまく入ってこない。途中で演劇作家が、「私たち(演劇)はクリエーションで必ずしもスタジオに籠もるわけじゃない」とやや痺れを切らせた感じ(?)でドラマトゥルクの人に対して言ってからのしばらくのやりとりが面白かった。しかしそれもすぐ下火に。またQ&Aでちょっと盛り上がる。どうも、話がズレてしまう時に、えっとあなたのそれはどういう意味ですか、と聞き返して擦り合わせてくれればいいところを、ズレたまま独り言のように話を進めてしまうから、何の話をしているのか迷子になってしまうのではないだろうか(あくまでわたしの英語力を脇に置いて言えば……でも英語ネイティブの人なんてここにほとんどいないのだから、言葉についてもっと丁寧に考えたらいいのにといつもこういう場では思う。みんなわかったフリしてるだけやん……)。Q&Aの最後に濱田陽平さんがした質問は、クリエイションにおいて自分の役割を何と名乗ってクレジットするか、というもので、陽平さんが必ずしもコレオグラファー(振付家)という肩書きにこだわっていないこと、むしろそこに違和感を感じているらしいことが、垣間見えた気がする。
15時からは、ベルリンを拠点にしているMiya Yoshidaさんの、原子力発電についてのレクチャー。初対面で、開始前になんとなく目が合ったので、こんにちは、あ、いちおう日本語も話せます、と言ったら、私も日本語も話せます、と返してくださった。終わってからしばらく実里さんと3人で日本語でお話。沖縄の写真家と出会った時に「ブレ」の大切さに気づいた、という話が特に印象に残る。明日にはスタムスンを発ってしまうそうだけど、いつかまたゆっくりお話を伺えたらいいな……。というか、いつか自分はベルリンに行かなければならないとは思うのだけれども、いったいそれはいつになるんだろうか……。
いったん宿で仮眠して、20時半からMoya Michael/KVS/WIELSによる『It's like a finger pointing the way to the moon』。ダンサー、音楽家、映像のコラボレーション。南アフリカでよく耳にしたclick(吸着音)が序盤で使われて、おおっとなる。ダンサーのMoyaはヨハネスブルク出身なのだった。作品内容は植民地主義を基盤としたミュージアムによる収奪について扱っていて、しかし舞台上の映像に「素材」として登場する部族と、彼女自身のルーツやアイデンティティとのあいだにどの程度の深い繋がりがあるのかは気になった。当事者しか問題を語ってはいけない、とはわたしは考えないけど、当事者であるかどうか、またどういった関係性であるかは、倫理的な問題にどうしても繋がってしまう。そういったことをもはや無視できない時代になっている。ただ、そのようなアイデンティティ・ポリティクスだけに収斂させることのできない豊かさが舞台上にあったのも事実で(砂時計とか歌とか映像の映し方とか)、わたしはこの作品を好きだと感じた。陽平さんはもうはるか何年も前にMoyaの家で年越しをしたことがあるらしく、終演後の挨拶で、大きくなったわね!と驚かれていた。