毎日、メガネ屋 2022.01.03~新春!"眼鏡市場"の本を読んでみた~
例年よりも少し長めに年末年始の休暇を頂いており、年始から本屋を眺めていました。そこで「スゴイぞ! 眼鏡市場 ~メガネトップ業界売上NO.1の秘密」なるメガネ業界売上NO.1の「眼鏡市場」社長の富澤昌宏さんが書かれた本が目に入りました。この手の同業者の著書で面白かったり、為になった試しがないので手に取ってみるも一度はスルー。しかし、長めの休暇で心に余裕があったのか買ってみることにしました。
上場廃止後の動向が見えづらかった
2013年に「眼鏡市場」さんは上場廃止しています。廃止後の売上とか店舗数とか計画とか、IRで見るような情報がなかなか掴みづらい状況にありました。この本では2020年現在で966店あり、売上も900億円くらいありそうです。2021年6月には1000店を達成しているとのこと。
上場しているメガネ小売の「JINS」さんや「パリミキ」さんの売上が500~600億円ですから、非上場ながら圧倒的NO.1となるわけですね。株式上場は資金調達などのメリットはありますが、経営戦略などが色々と露呈してしまう事が多くてデメリットも同じように多くあるように思います。上場廃止の頃に「パリミキ」さんを抜いてNO.1になったわけですから、ミステリアスな部分が多く私自身はとても気になっていたわけです。この本を買った最大の理由がコレですね。
2009年に富澤昌宏さんが28歳で社長になり2013年に上場廃止するわけで、これは経営戦略的にも大きな転換期であったにも関わらず、上場廃止の件は本著で1ページしか触れられていない点に少し闇を感じたり。
「弐萬圓堂」がビジネスのヒントになった
お客様がレンズ代の追加オプション料金が不明瞭だったので、2006年にワンプライスにされたとのことでした。その前に似た形態の「弐萬圓堂」の攻勢により、事業変革を推進したとありました。JINSさんやZOFFさんは2001年に出店していたので、こういったプライス形態としては後発だったと記憶しています。
また2001年はJINSさんよりもZOFFさんの方が半年早く出店されていました。その前の1998~99年頃には「東大門市場」という韓国発のプライスショップがニュースを賑わしていたので、こういったプライスショップの着想は韓国激安均一メガネが発祥だったと思います。
80年代の後半から90年代は、メガネのディスカウンターチェーン店による”チラシおとり商法”が横行していました。「チラシでは7000円と書いてあるのに、実際には40000円もした」など、メガネチェーン店への不信感が高まっていた時代です。そういったビジネスへのカウンターカルチャーだったような気がします。
私は1999年にメガネ業界に入りましたが、同じようにレンズオプショの不明瞭さを感じました。そこで私はウェブサイトにレンズ価格をすべて明記したところ、それだけでお客様が遠方よりご来店されました。1999年当時、個人のメガネ店でホームページを持っているところも少なく、ましてレンズ価格を明記しているサイトは1つもありませんでした。そのくらい、レンズ価格はブラックボックスだったのです。
いずれにせよ眼鏡市場さんは、それより先行していた企業がありながらもメガネ業界売上NO.1を獲得されたわけです。
ホントにSPAは利益還元になっているか?
本著でも触れられていましたが、自社生産工場による原価率の低下による価格抑制が挙げられていました。私も自社工場を経営しているのでよく分かるのですが、実は自社生産工場を持っているからと言って価格を抑制できる幅は非常に狭いと考えています。工場の設備投資・維持費・人件費・品質管理費などを足していくと、仕入れたほうが安いと思います。
しかし、製品開発においての点で有利になることは間違いありません。自社で開発できる環境があると”強み”になることは確かです。私はこのために工場設立へ投資したと言っても過言ではなく、難しいデザインを生産依頼すると十中八九の確率で断られるのです。世界中のメガネデザイナーの多くは、工場との折衝の難しさからデザインをかなり弱めています。それをやりたくないから私は工場を設立しました。
眼鏡市場さんも、業績を大きく伸ばした要因に製品開発を挙げられていました。この製品開発は自社工場が主体となって開発したとのことで、屋台骨になっていることは間違いなさそうです。
一部の商品ではユニクロさんのように、海外などの外部に生産委託をされていると書かれていました。ただ発注数量が大きくなると、発注側が強くなります。眼鏡市場さんも、これまでかなり下請け工場に無理を言っていたことは事実で、他の大手メガネ小売店や生産工場を持たないメガネブランドは工場から買い入れる単価を叩いてきました。
レンズの仕入れも種類を絞っていると書かれており、最近の高機能レンズは基本的にこの価格ですから使用できません。まぁそれで充分であると言えばそうなのですが、「お値段以上であるか?」と聞かれたお値段通りかなと言った印象を持っている同業者は多いと思います。ただ、JINSさんやZOFFさんのような超格安店に比べれば、測定やフィッティングもキチンとやってくれるので、その安心感は計り知れません。
今後、起こりそうな事
現在、日本のメガネ作りの製造単価が上がり始めています。原材料費の世界的な高騰も背景にあるのですが、海外から「高くても良いから作ってくれ」というフェーズに変わりつつあります。恐らく今年くらいからグローバルな日本製メガネは値上げが相次ぐと思います。これは不況が長い日本のマーケットでは売れなくなるのですが、グローバル化しインターネットで繋がった世界で、日本だけ随分と安い金額で売り続けることが難しくなってしまいました。
眼鏡市場さんは本著で国内生産が多いような事が書かれていました。それが本当であるならば、現状は海外マーケットの内外価格差による影響が主だった要因なので、国内マーケット専業の眼鏡市場さんはそれほど値上げの心配はないと思います。海外展開も台湾以外ほとんどやっていないようですから、割と値上げや海外リスクは少ないのかな?と思います。グローバルに展開する企業にとって、コロナ後のインフレは喫緊の課題になっています。昨今の中国の電力問題・輸送費高騰・原材料高を鑑みると、中国製が主力であるJINSさんは値上げしか手が無いかな?と思ったりしています。
デフレの象徴であったメガネの価格破壊も、ひと時より安くありません。この20年はそんなトレンドだったのですが、少し潮目が変わるような気がしています。私はメガネの価格を一律にするアイディアは浮かびませんでした。やっぱり新しいプロダクトが好きだったので、新製品をテストして良かったらお客様へご紹介したいと考えていました。今でもその気持は変わりませんが、店舗として大きくスケールすることは出来ませんでした。それはそれで良かったのですが、私達のような零細メガネ店も時流に合わせて変化していかなくてなりません。
中島正貴 1978.04.10生 神奈川県在住
有限会社スクランブル 代表取締役
note.「有限会社スクランブルがやっていること」