キャラ語り|【バベル号ガイドブック】胸のつかえが取れるまで
“生きている”キャラクターたち
(ネタバレあり)
ユニークな世界観の推理アドベンチャー『バベル号ガイドブック』。トロコンまで遊び尽くしてしまうぐらい面白いゲームでした。(そんなに種類はないですが)
ここからネタバレ全開で進めようと思うので、まだ遊んでいない方や興味がある方はご注意をば。
後編にあたる今回は、そのテーマとキャラ語り。特にメインキャラクターは一人ひとり語りたいと思います。
死後の世界 − 転生だって楽じゃない
バベル号にやってきた人は持ち物を半強制的に奪われ、「記憶抽出機」とやらに記憶を奪われ、言われるがままに徹底した監視下の中、もはや自分が誰なのか分からなくなった状態で、最後は大砲のようなものによって打ち出されます。
いや実のところ、バベル号は死後の世界であり、恐ろしい人格破壊のプロセスも次の生への転生の準備なわけです。
ところどころワケの分からない言葉を発する耳の尖った人々はバベル号の従業員であり、彼らに悪意はありません。ただただ単純にバベル号のクルーとしてお仕事をしているだけだったのです。
死者の魂の行き着く先は天国でも地獄でもなく、フグ?のプップグに運ばれてあの世であるバベル号にたどり着きます。そこから大半の魂は輪廻転生の旅路へ。死生観がとってもアジアですね。
バベル号を彷徨うのは”旧大陸“に向かっていた貨客船ローズクイーン号の海難事故でなくなった人々の魂、ってことがわかるのですがそれだけでもとても辛い。
バベル号側といえば、てんとう虫の船で運んであげたり、ゲームで遊ばせてみたり、ナキスギカーニバルとよばれる催し物に参加してもらったりとあの手この手で少しでも慰めようとしてきていることがだんだんと見えて来るのでこれまた辛い…。
コレクション − 胃もたれしちゃうホロ苦さ
ゲーム内に散らばるコレクションアイテムを集めると裏設定などがわかるのは珍しくないですが、こんなにヘビィな設定が開示されるなんて聞いてないですよ…。
物語の登場人物4人に対してそれぞれ、バックストーリーが語られるわけですが、みんな波乱万丈過ぎて心が痛い。その上、天寿を全うせず死者の世界、バベル号にやってきているので輪をかけて辛い。
「記憶ランナー」などというへっぽこネームの生き物?をヘアドライヤーのような吸引器「記憶コレクター」で捕まえるというシュールさとは裏腹に、かなり大事な記憶が再生されるので温度差がすごい。最後にまとめて読んでビターな味わいにしんみりしてしまいました。
この作品、全体的にこういった物悲しい悲惨な雰囲気はあるのですが、なんとなくトボけた少し抜けているところもあってそれを和らげてくれます。一人ひとりの登場人物がこの旅路を奇妙で楽しい世界へと感じさせてくれます。
パティオ − 嵐を呼ぶ女
まずはこの人から語らないとだめでしょう。
物語中盤から嵐に紛れてやってくる美少女エースパイロットです。自称するだけはあって、イラストレーションも大概カワイく描かれてます。
ピンクのジャケットにブロンドの長髪をバンダナといかついゴーグルで押さえつけるなかなか面白い人。しかも彼女だけ両側のポケットに手を突っ込みながら歩くのでガラの悪さで言えばおそらくトップ。
とりあえず失敬できるものは全部取ってこうとする図太さの持ち主で、数少ない生きている人間です。
彼女の持ち前の明るさやトンチキさもあって、このバベル号の雰囲気が暗くならないすんでいます。ナキスギの森で牙の生えたアイスクリームに襲われるという『不思議の国のアリス』ばりにシュールな出来事に巻き込まれています。
ローズクイーン号の事故の報せを受けて単身嵐の中に飛び込むのは流石に肝が座っていると言うか無鉄砲すぎるというか。父親のゴフマンを捜索するためにやってきたのですが、バベル号の人々との出会いによって彼女自身の為すべきことがしっかり固まっていくのが良かったですね。
MVPはもちろん彼女。
ゴフマン − ご機嫌な老紳士
バベル号にやってきたカン工場の社長さんです。作られている缶はその名も“ゴフカン”。最高のカン料理ってどういうことよ。(KALDIで見つけたハンバーグ缶とか好きです。)
パティオの父親ですが、故あってローズクイーン号で旧大陸を目指している途中に海難事故にあい、バベル号に降り立ちます。
小さな背丈と大きな態度で、威圧するような口笛が特徴的。そのぶっきらぼうっぷりは娘のパティオにもちょっと影響しているっぽいですね。
リアリスト寄りで冷徹な面もありますが、基本的には善人です。
親に見捨てられた(と勘違いして)少女を保護して勇気づけるなど、大概お人好しなおじいちゃんです。数奇な運命により過去の後悔、罪と向き合って清算した後、愛娘に全てを託して幕を引きます。
イベント的には料理したりオークション参加したり意外とミニゲームが多い多才なお方。
ランチー − 口八丁手八丁
すみません、このゲームのキャラクターはかなり好きなのでどんどん書きます。
誰もが認めるバベル号の料理長にして作中随一の野心家であり、嘘つきバカランチーです。
小太りメガネのバベル号側の人で、カン(特にゴフカン)を求めて奔走します。すべては新しくこのバベル号の代表となる人物に取り入るため。
彼の待機モーションには「首からぶら下げたメダルを掲げて見せびらかす」というのがあるのですが、このときの自慢げなスマイルが小憎たらしい。
物語では成り行きで同行することになったゴフマンと少女レイクを加えて食材探しの冒険へ向かいます。偏屈じいさんゴフマンとじゃりん子レイクを連れているので、胸の内でまぁまぁ悪態をつきます。
一方で保護者と離れ離れになったレイクを安心させる優しい嘘が大得意で、イヤイヤ言いながら途中まではしっかり面倒を見てくれます。そんな事もあって根っからの悪人と言い切れないのが良い味を出してます。
裏切った顛末では、プレイヤーの手によりすべての目論見がご破産になってるのでモヤモヤしてた方もスッキリするかと思います。
マンディ − ファンガール一号
青紫の髪の毛とヘッドホンが特徴的なバベル号で働く音楽好きの少女です。ジト目がナイス。
プレイヤーが操作できるタイミングは一回コッキリですが、なんとメニュー画面で選択できる4人全員の物語に絡んでくるかなりのキーパーソンです。
バベル号の人物たちは基本的に現実世界の人々の文化を知りません。亡くなった者が持ってきた遺留物によって外の世界に触れることが出来ますが、基本的にどうやって使うかわかりません。
ギターとラケットの概念がわからないレベル。
マンディはラジカセを持っていたりして音楽方面の物品に明るいのですが、それでも「弦が張ってある底が平らで細い持ち手があるもの」がギターなのかラケットなのかははっきりしていません。
最大の謎はマンディの耳の形ではないでしょうか。
ジャヴェール − そいつがブレイスだ!
バベル号の行政機関、警察的な働きをする「水泳隊」のボスです。目の奥が見えないゴーグルをかけた(食い込ませた)猿のような顔つきで厳格そうな風貌に違わず、違反者を逮捕、処罰します。
実はバベル号には厳密なルールが存在しており、これに従わないものはしっかり逮捕して処置を施し、転生の前の祭典、ナキスギカーニバルに送り出します。
死者が持ち込んだ遺留物は必ず回収すること、転生のため記憶抽出は必ず行うことといったルールは、バベル号の副キャプテン、シルビアが指揮を取るようになって徹底されたそうです。
ローズクイーン号の魂がやってきたタイミングで、裏では水泳隊が事件を追っている状況でした。そのためジャヴェールの行っていることはバベル号側からしたら真っ当も真っ当なのです。
まあ記憶抽出の拷問とか結構ダーティ目な手段は使ってますが、も怪しげな治安維持団体「防疫隊」の介入を防ぐためにヤッキとなっていることが原因です。
ところどころで副キャプテンのシルビアを気にかけている様子が見受けられますね。「モーセと昔話ばかりするな、シルビア」?にやにやしちゃう。
モーセ − 野生のキャプテン
パティオが初めて出会うバベル号の人物で、すべての記憶を失っている状態です。メカクレにボサボサの空色ヘアが特徴。ボロボロになった上着を羽織世捨て人然とした出で立ちです。
頻繁に言われる「モーセの加護を!」って「Oh my goodness!」ぐらいの意味かと思ったらご本人が実在したんですね。
モーセはバベル号のキャプテンで間違いないのですが、「人間ウイルス」の侵食が進み、自分が現実世界の人間の魂だと思い込んでます。
「人間ウイルス」って本当のこと言ってたんだ…。
モーセと別れた後パティオはナキスギの森うっかりバベル号の人に触ってしまうのですが、その時の笑っちゃうぐらいの拒絶っぷりも怯えっぷりも、モーセの状況を見ると納得しかありません。
ほとんど描写がないため憶測も入りますが、モーセを感染させた人物とはどうやら浅からぬ仲らしいのですが、モーセのことをずっと心配している副キャプテンのことを想うと胸が痛みます。
ジャスミン − 第三の母親
魂側の登場人物の中で最も早くバベル号に着き、今回のローズクイーン号の事故までずっと暗躍していた黒幕とも言うべきピンク髪でメガネの女性です。
最初の方で、バベル号の旅を人格破壊のプロセスと記載しましたが、本当に持ち物も記憶も個性も全部失って転生するので、意識のある人はなかなか受け入れられないことのほうが多いでしょう。
ジャスミンもその一人。悲運の続く過去を経験し、ようやく得られた一人娘のことが心配でどうしても会いに行きたいため、船内で協力者を募り、密かにバベル号からの脱出を企てています。
それが「鑑賞家協会」。資金繰り、もとい脱出のためのエネルギー確保のため、「遺留物鑑賞会」と言う名のオークションを秘密裏に開催しています。
それは当然バベル号の人々にも噂されており、魂が持ってきたレア物を求めて乗員の内数名がこっそり参加しています。
バベル号に新たにやってきた人々との触れ合いを通して彼女も考えを改めます。
ブレイス − 一欠片の幸せ
サーカス団で主に雑用をやっていた幸の薄そうなヘロヘロの青年。最も波乱に満ちたバベル号の冒険を味わうことになります。
彼は故あって知人の娘、レイクを引き取っており、彼女とは親子のような関係を築いています。その知人のもとへと向かうため、レイクを連れてローズクイーン号に乗船していました。
バベル号にやってくるやいなや、レイクは救難船に拾われてると勘違いしてるわ、彼女と引き離されて記憶を抽出されるわ、反逆者とみなされて追いかけ回されるわ、怪しい集団に絡まれるわ、変装してそいつらの一員として潜入するわ、とにかく不運が続きます。(ただでさえ事故に遭ってるのに…)
彼自身が悪いとしたら間が悪いとしか言いようがありません。
事故から助かった、とはしゃぐレイクに対して、その優しすぎる性格ゆえになかなか真実を切り出せません。
そんなもどかしい思いをしながらも、レイクのことは何よりも大切に思っていることはイヤというほど伝わるので、プレイヤーとしては離れ離れになったレイクとようやく再会できただけでうるっと来てしまいます。
最後の最後でレイクに対して真実を告げるか、嘘を貫き通すかの決断を迫られます。どっちにしました?
おぽのは一方のエンディングを確認した後に、ゲーム好きの性でやり直してもう片方も選んだら泣きそうになりました。
途中でモンスター◯ールのパロアイテムを投げたり、ぬいぐるみで勝負する少女たちの邪魔をしてもう話しかけるなとまで言われたり、自分を助けに来た人にジュースをぶっかけまくったり、本人はいたって真面目なのに結構シュールなシーンが多くてポイント高いです。
レイク − こどもは風の子
ブレイスを「ブブさん」と呼び、彼を父親として慕っている天真爛漫な少女。よそ行きの服を着て緑のリボンで髪を留めているおシャマガールです。
ブレイスと再会でして喜んだのもつかの間、肝心のブレイスが知らない間に追われる身となり早々に彼とはぐれてしまいます。そこへたまたま通りかかったランチーやゴフマンが見かねて彼女を保護しともにバベル号での旅へと乗り出します。
こどもらしい年相応の純真さで、ゴフマンはもちろん、ランチーもなんだかんだで彼女を守るように動きます。モーションもちょいちょい愛くるしい。(雲あめを食べてるときのガオーって何。)
そんな彼女はローズクイーン号唯一の生き残り。死者の世界バベル号には間違えて連れてこられたのでした。
最高にして最低の真実です。
ブレイスから一緒に帰ることが出来ない真実を告げられると、レイクを操作できるようになります。「できるだけ遠くに逃げろ」?…何だこの演出…こんなの泣くでしょ…。
他に選択肢がないので本人も意図はしてないと思いますが、彼女が逃亡の末最後に頼った先は自分を一度裏切ったランチーなのです。
彼はレイクに対して何度も都合のいい嘘をついてきた男。そんな彼に、ここでブレイスとともに働かせてほしいと頼み込みます。
ランチーの答えは、“オーケー”。
見直しました。最後まで彼が嘘つきとして貫いたお陰でレイクは幸せな夢を見ながらバベル号から飛び立って行けたのです。
なんだか後半になるにつれ重めの感情が筆に載ってしまい恥ずかしい限りですが、バベル号ガイドブックの登場人物はみんないいキャラしています。トーマス兄弟とか副キャプテンのシルビアとかまだまだいますが、ひとまずここまで。
言い忘れたこととして惜しいと感じているのはところどころ機械翻訳っぽさが目立つ文章。それのおかげで泣かずに笑ってクリアまでできましたが。
謎解きゲーム故に一度味わったら二度と同じ感想を得られないのが口惜しいところですね。