ゲーム感想|【未解決事件は終わらせないといけないから】物語にしんみりする回
物語を語りたい
(ネタバレあり)
前回は、ゲームのどこに触れたらいいのやらと悩んだ結果、テキスト自体の良いトコを上げていくような形の感想文を書きました。今回は、縛りなしでこの作品全体を語ります。
このゲームでやることはネタバレ無し編でも書いた通り、テキストを読みながら、時系列を整理して真相を知ることです。
受験の時の英語でこういうのやったな…センテンスを並び替えて意味が通る文章にしなさい、っていうタイプの問題。あれと同じことだと考えると少し楽。
さておき、この下からどんどん感想戦を始めます。
1|ゲーム画面わかりにくい問題
<しょっぱなから謎の大洪水>
ゲームスタートをすると、クラゲのお話で混乱し、その次に繰り広げられる謎の警官らしき女性とおばあさん「清崎蒼」の会話を見てさらに困惑します。
ゲームとしては、話者「清崎蒼」の記憶をたどり、いつ、誰が、何を言ったか?を整理しながら誘拐事件の真相、隠された物語を見つけるような作りになっています。
まず最初に言いたいのは記憶の中の会話ログ…とにかく代名詞と続柄と指示語だらけで、ミスリードが頻発します。もうミスリードしてくれと言わんばかりの、「あの人」、「妻」、「娘」の応酬。
そんな中でも、自分なりの推論を行い物語を読み解き進めていくのが面白い。
そこまで考えていた論理の道筋が合っていることが判明して嬉しいのは当然ですが、逆にそれまでのミスリードによって、考えがごっそりひっくり返されるときも痛快ですね。
作品の話者である「清崎蒼」は精神疾患をもっており、ミステリー用語でいうところの「信頼できない語り手」です。具体的に言うとこの語り手は、真実を話していない可能性がある、ということです。
いや本人の中では終わったこととして"正しく"処理されているんです。しかしその処理されてるはずの頭の中がぐちゃぐちゃであること、それがゲーム画面で表現されていると思いました。
本当に好き勝手な順番の会話ログが生成されるんですよね。
あっちへ飛んでこっちへ飛んで…あれ?この人の会話ログめちゃくちゃ長くなったな…でもあってるはずだし…とプレイヤーの頭もだんだん混乱してくること請け合い。
ただ「会話の中身」だけは嘘がないのが救いです。文章中に話者による嘘情報が混ざっていないので、プレイヤーは順番と発言者を整理すればよいだけ。そこは助かりました。
こういうタイプの論理パズルでよくあるのはメモや推理の仮置き、目印などの補助システム。しかしこの作品では必要最低限の色とジャンプ機能だけで、その他一切ありません。
ここら辺が操作性と合わせて不便だと感じるかもしれませんが、さにあらず。
話者「清崎蒼」は心が壊れているのです。ゲーム画面≒彼女の頭の中なので、プレイヤーがこことここの間に何か別の会話がくるな…がわかっても、その理性的な判断が「清崎蒼」にはできません。今その瞬間に並んでいる会話のログがすべて。故にプレイヤーの判断のメモや仮の推理の足跡を残せないのです。
自分の考えを整理したい時は、手元に個人のメモ帳用意するとよさげ。
2|ゲームBGM煽ってくる問題
<ミステリーの緊張感>
この作品の登場人物はそれぞれ少しずつですが隠し事が存在しています。真実しか述べていない人たちは事件に関係しない市役所や幼稚園、派遣事務所を除き、「犀華の父」「犀華の母」だけ。それぞれ自分視点で本当のことしか言っていないです。
この作品はやさしくて悲しい物語です。(最初に書くべきだったか…?)
登場する人々は嘘をついていましたが、それはそれぞれが想う人たちをかばうため。その嘘のせいでかみ合わなくなってしまった会話に翻弄されながら、その当時にあったことを探し続けます。
物語の終盤あたりで以下2つの事件があることが判明します。
事件を追っていながら同じ名前の別の子であるっていうのは薄々わかってくるんですけど、全貌がはっきりしてくると、それまでの会話を読み返したときにものすごく楽しいというか、感動すらあるというか。
ある嘘が真実になった時、BGMに別の楽器のパートが追加されて変化するのも、臨場感が煽られて良いです。中でも印象深いのは中盤に差し掛かるあたり。
「犀華の母」が亡くなっているという事実が公開された瞬間です。
そこまで考えていた推理が全部ぶち壊される瞬間です。これを見るまでおぽのはこんな感じで考えていました。
犀華ちゃんの両親は離婚している
子どもたちの面倒は槙野恵という謎の女性が見てくれている
誘拐前に一時的に犀華ちゃんは母親の家にいた(?)
母親の家にいることを父親は知らないため通報した(?)
原島公正に犀華ちゃんが誘拐された
これがほぼほぼ覆された形です。一時的に犀華ちゃんと一緒にいた「犀華の母」が余計訳が分からないことになってしまいました。
「えっ…お母さん3年前に亡くなってる…??再婚して父方の連れ子…にしては両親の間に槙野さんが間に入っているのが説明付かない…」
「…あの『犀華の母』って誰………???」
追加されたBGMのピアノパートが、謎の入り口に立ったその時の緊張感を表現しているようでした。
この作品、二つの行方不明事件ともう一つ、一組の疑似家族の物語も伏せられています。
そのお陰で、隠し事をしている人が増えていて本筋に関係のない証言が増えていたのですが、これも悪意ではなく人が人を想った結果によるものでした。
登場人物がそれぞれ胸の内に秘めた、整理がついていない、解決しきれていない想いがありました。ゲーム画面のタイムラインを整理することで、無事にそれぞれの終わりを目撃することができます。
プレイヤーは、その過去の出来事に思いをはせながら、最後の未解決事件を終わらせるために動いていたということが、エンディングに到達してよくわかります。
作者さんからのメッセージも、自身を顧みながら考えてしまいました。自分にはどんな未解決事件があるだろうかと。