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新・自転車の強さを決めるものは何か

noteを始めて早3年半が経とうとしています。
開設当初は僕もここも本当に無名で、読者の方も数えるほどしかいらっしゃいませんでしたが、今や多くの方にご覧いただけるようになりました。本当にありがとうございます。

高いモチベーションで
「自分の書きたいことだけを書く」
と決めて、当初から需要もガン無視して自身の関心のある事柄に対してトコトン持論を述べてまいりましたが、その決意は、そして自転車のトレーニングへの情熱は、3年余りが経過した今でも全く揺らいでおりません。
いや、むしろ悪化したと言ってもよいでしょう。

自分の書きたいことだけ取り扱うあまり、途中で気持ちよくなって文字数が増えすぎて、言ったらコーチング依頼が減りそうなことまで書いてしまい、とても無料記事として公開できず有料化を余儀なくされたのは悔恨極まるところでございますが、自身の興味のあることを突き詰め、未熟なりに言語化しようという執拗さだけは誇り思っております。

そんな中で、2021年に書いた記事を見直していると
「今ならもっとよく書けるのにな」
と感じることが非常に多くなってまいりました。

そこで今回は書き直しシリーズ第一弾としてこちらの「自転車の強さを決めるものはなにか」について、2024年現在での知識と経験、見解で再作成したものをお届けいたします。

※注意※
気合いを入れすぎて3万文字近くになりました。
ご購入の際はご注意ください。
長すぎる、というご指摘はご遠慮ください。誰よりも痛感してます。


一応、元記事も貼っておきますが、青くて恥ずかしいのであんまり見ないでください。

多種多様な強さ


元記事で唯一、評価できる部分が“自転車の強さには様々な側面がある”という点に言及していることです。

単純なパワー、インターバル耐性といった「肉体的な強さ」
集団走行やコーナリングなどの「技術的な強さ」
辛い練習に耐え、本番でも競り負けないための「精神的な強さ」...etc

パッと思い浮かぶだけでも、単純なパワーだけでなく、実に様々な側面、様々な要素が絡み合い、自転車選手としての強さは構成されている、と感じます。

しかしながら私の専門分野、強み、そして愛するものは“インターバルトレーニング”であり、生理学的な背景がしっかり検討されたメニューを提供することで、選手達の「肉体的な強さ」を作っていくコーチです。

インターバルのような辛い練習に挑んでいく過程で精神的な強さが身につく、あるいはどのようなマインドで挑んだら良いかを助言する、ということはあるのですが、あくまでフィジカルを高める専門のコーチ、という立ち位置はここ数年間、変えておりません。

走行テクニックやポジション、ペダリングといった「技術面の強さ」に関しては私自身の浅い経験以外は特別たいした知見もなく、そっち方面はもっと詳しく、優れた指導者の方々が他にたくさんいらっしゃるでしょう。

よって、今回の記事でも「肉体的な、生理学的な強さ」に限定して解説してまいります。
ただし、前回の記事とは気合が、気合が違う点だけご承知ください。

さて、この先長いので早速肉体的な強さを左右する要素について見ていきましょう。
一部、以前の記事と重複する箇所もありますのでそちらを先にご紹介します。もちろん密度は段違いです。

VO2max(最大酸素摂取量)


このnoteでおそらく最も多用している用語であり、過去にはこれだけで一本、記事も書いているため、ここでは簡易的な解説にとどめます。
より詳しくVO2maxについて知って喜びを得たい方は下記をご参照ください。無料です。



VO2maxは一般に「1分間あたりに体内に取り込める酸素の最大量」と定義され、多くの場合は体重あたりの単位でml/min/kg,ml/kg/minなどと表されます。(例:70ml/min/kg)

人間の体は呼吸によって体内に取り入れた酸素を利用し、糖・脂質を分解することで運動に必要なエネルギーを作り出しています。
そして、取り入れて利用する酸素量が多いほどたくさんのエネルギーを産生し、長く、強く体を動かすことが出来ます。
この最大量を表すのが文字通り最大酸素摂取量(VO2max)であり、高いほど高強度運動を長時間持続出来る、ということになります

このVO2maxは自転車競技のパフォーマンスを左右する重要な要素であり、また、ロードレースで重要視される短時間の出力だけでなくVO2maxは20分・60分平均パワーにおける相関も認められています。
(20分79%,60分87%)
(表1)(1)

(表1)(1) Physiological correlations with short, medium, and long cycling time-trial performance

Fernando K Borszcz, Artur F Tramontin, Kristopher M de Souza, Lorival J Carminatti, Vitor P Costa
Research quarterly for exercise and sport 89 (1), 120-125, 2018


更にPPO(VO2max相当パワー)で見た場合、各TTパフォーマンスとの相関性はより高くなり、20分TTでは84%もの高い値を叩き出しています。
よって、VO2max(PPO)が高いほど、5-60分という幅広い時間、出力できるパワーも高くなる傾向が見られ、自転車のような有酸素性競技では有利になるであろう、と強く推測されます。

短時間だけでなくヒルクライムでも要求される数十分-1時間の平均パワーとの相関性も強く示されているのが面白い点で、FTPが重視されるシチュエーションにおいてもVO2maxが無視できない影響を及ぼしている可能性が示唆されます。

また、実際に体重あたりのVO2max(ml/kg/min)が高い方が10km,勾配2-6%の登りタイムが良く、パワーウェイトレシオ(PWR)も高い、とよりダイレクトな相関性を示している研究もあり、やはり無関係ではなさそうです。(表2,3)(2)

(表2) (2)Physiological correlates of 10-km up-hill cycling performance in competitive cyclists

Vitor Pereira Costa, Leonardo Coelho Pertence, Carl David Paton, Dihogo Gama De Matos, Jonas Almeida Neves Martins, Jorge Roberto Perrout De Lima
Journal of Exercise Physiology Online 14 (3), 26-33, 2011
(表3) (2)Physiological correlates of 10-km up-hill cycling performance in competitive cyclists

Vitor Pereira Costa, Leonardo Coelho Pertence, Carl David Paton, Dihogo Gama De Matos, Jonas Almeida Neves Martins, Jorge Roberto Perrout De Lima
Journal of Exercise Physiology Online 14 (3), 26-33, 2011

各パラメータと10km登りサイクリングとの相関性(数値が高いほど相関性も高い)
VO2max•kgとW avg.kgが0.80と高いのことがわかる

それだけでなく、通常、数分間しか踏まないインターバルトレーニングのようなメニューを行うことでもVO2maxが上昇することで、20分、60分パワーの改善を狙えるかもしれない、と仮説を立てることも出来るでしょう。

もちろん、後述する様々な要素が複雑に絡み合い、肉体的な強さを構成していくため、 VO2maxが高ければ必ずしも速く走れたり、レースで勝てる、というわけでは決してありません。

が、VO2maxが高ければ高いほど速く走れる可能性は高まる、更に、FTPもより高くなる可能性がある、というのはほぼ間違いないでしょう。

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