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研修医日記①〜医者になって1週間が経ちまして
お偉いさんの話が長いのは古今東西同じようだったが、窓の外にざわめく巨木を眺められるのは救いだった。
4月1日、地方病院の入職式。
わたしは医者としての初日を迎えていた。
医師国家試験で合格しても、初期臨床研修という2年間の研修を行わないと一人で患者さんの診療を出来ないので、大抵の人は医学部を卒業したら初期臨床研修医として病院に就職する。
わたしがこの病院を選んだのは、忙しさ、教育体制、給与その他諸々が条件と合致したからという字数を割くバリューもない理由だったが、初日にしてここにしてよかったと思えたのは、ここが古い病院だからかもしれない。
増改築を繰り返したは昭和の建物はくすんでいて、それを囲む林の木々は太く高く、宿木と複雑に絡んでいた。長い時間色んな人や出来事を受け止めてきただろうこの病院は、こんな小僧一人がちょろちょろしていても気にしない老成さを漂わせていた。
初期研修では院内の各診療科を1ヶ月ごとに回る。
小学生の席替えさながら、折り紙で作った箱に入ったくじを引いて、わたしが最初に回る診療科が小児科に決まった。
最初から成人の診療を学べないのはかわいそうだと上の先生たちに度々憐れまれたが、わたしは嬉しかった。キッズは好きなのだ。
日々の主な業務は、朝入院患者の回診をしてカルテを書くことだった。これが終わればフリーなので、見たい検査や外来があれば見学し、なければキッズと遊ぶ。
保育園で人馴れしてるのか、意外と懐いてくれる子が多い。抱っこ中に寝落ちされると萌えるし、去る時に泣かれると申し訳なくもちょっと嬉しい。
痛い処置をするときはごめんねと思いつつも、結果的にその子の利益になることだわかっているから、泣かれても大して辛くないと知った。
小児科の先生たちは想像の3倍優しかった。質問すればなんだって教えてくれるし、質問しなくても大切そうなことは逐一説明してくださる。
わざわざ向こうから電話をくれて、暇なら俺の腕で採血の練習しなよ、などとおっしゃる。腕を薬物乱用者さながらに傷だらけにしても、センスあるよ全然痛くなかった、などと仰せになる。いとやんごとなし。
もしかしたら、小児科医から見たら初期研修医はキッズ同然なのかもしれない。だからこんなに優しい扱いなのかもしれない。
そんな風に毎日エンジョイしてるので、日中小児科にいるときは全く医者になったという感覚はないが、夜、初めて救急外来の当直をしたとき初めて医者をやっている感じがした。
何もわからないので先輩の金魚の糞をしていたら、上級医にお前も仕事するんだよと怒られ、患者さんの家族の話を聞いてこいと廊下に放り出された。
何も知らない若造がいいのだろうかと戸惑いつつも自己紹介すると、よろしくお願いしますと頭を下げられた。いくつか質問すると、一生懸命答えて下さった。一通り診療が終わって、上級医と一緒にご家族に説明に行くと、ありがとうございましたと頭を下げられた。
わたしは何もしていないけど、さっきまで大学生だったけど、患者さんたちから見たら医者に見えるようだった。
そしてわたしは今日は何もしてないけど、
直接誰かの役に立てて感謝してもらえる医者って、案外いい仕事だなと思った。
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