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【いちご通信#11】           ロック(岩)な狛犬

 今暮らしているアパートにはかれこれ12年ほど暮らしている。昭和の終わり頃に建てられた古い公営住宅だが、住めば都でいつの間にか住み慣れた我が家になっていた。地方あるあるで移動には車が必要な生活ではあるが、歩いて10分もかからずに海まで行けるし、大きな公園も近くよい散歩コースになっている。スーパーやドラッグストア、コンビニも傍にありなかなか便利な場所だと改めて思っている。

 そして、このアパートのすぐ傍にお稲荷様を祭る小さな祠があって、私はいつの間にか気持ちが向くとお参りするようになっていた。そこには狛犬さんが片側だけしかいなかった。小さな狛犬さんの胴体は真っ直ぐに正面を向いているのだが、お顔は真横を向いており姿の見えない相棒を見つめているように思えた。私は「寂しいねえ、いつか逢えたらいいねえ」などと時々話しかけたりしていた。そんなこともありこのお稲荷様のことが何となく気になったので調べてみたことがあった。この街には終戦近くの頃に飛行機工場の下請けで飛行機部品を制作していた工場があっったようだ。このお稲荷様はその敷地内で祭られていたらしい。工場の正確な位置はわからないので今祠がある場所に移されたのかもしれない。狛犬が片方しかいないのはいつ頃からなのかもわからない。この地域では大きな震災があったのでその時からなのかもしれない。

 1年前、いや、2年位前だろうか、ある日のことお参りに行くと不在だった狛犬さんの位置に小さな岩が置かれてあった。相方と同じような大きさの岩でじっと見ていると狛犬さんの形に見えるではないか!いつ?誰が?どうして?となった。この祠を管理されている方も、もしかしたら片方だけの狛犬さんのことを気にされていたのかもしれない。そしてふと見ると祠の土台はゴツゴツとした岩が幾つも重なっていることに初めて気づいたのだった。

 終戦の頃の飛行機部品工場の敷地にあったこの祠に、人々は何を祈っていたのだろうか。そもそも工場が建てられる以前からこのお稲荷様はあったのかもしれない。土地の歴史の中には人々の生きてきた歴史がある。今この小さな祠の前に立つ時、私は日々の感謝を申し上げ平和な世界を願い祈っている。そして相棒が姿を見せてくれて独りだった狛犬さんは嬉しそうに見えるのであった。

 
*使わせて頂いた写真は浅草神社の狛犬さんたちです。並んでいる狛犬さんを初めて見ました。素敵な写真をありがとうございます!

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