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カスタマーサクセスの指標大全:財務、オンボーディング、顧客満足度などのKPI

「カスタマーサクセスの指標やKPIをどのように設定するべきか知りたい」という声がありました。ネットで「カスタマーサクセス 指標」と検索すると、それらしき記事は無数に出てくるのですが、実際のカスタマーサクセスで指標・KPIをどう使うかを解説している記事は少ないのではないでしょうか。

こちらの記事では、実際の運用をイメージしながら、カスタマーサクセスの指標やKPIを全体的に理解できるよう解説ができればと思います。

カスタマーサクセスの全体像とステップ

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指標の前に、まずカスタマーサクセス業務の全体像について、軽く説明させてください。
カスタマーサクセスの目標は?と聞かれると、「チャーンを防ぐこと」つまり契約継続が目標ですと言われることが多いと思います。

しかし、SaaS製品の契約期間の実態として、半年契約・年間契約や、月次契約としても平均10ヶ月は契約する~といった期間であるはずです。
つまり、日々のカスタマーサクセスのアクションの効果を実感できるのは半年や1年以上後になってしまうのです。

なので、ゴールを継続契約と置きつつも、そこに至るジャーニーをステップやマイルストーンとして置き、段階的に顧客が継続契約をしたくなるような道筋を作ることが必要となります。

それは上記の図のような、「設定→利用→満足→成果→継続」といったような、SaaS製品のオンボーディングから顧客の成果につなげるまでの道です。

カスタマーサクセス5つの大指標

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「設定→利用→満足→成果→継続」を指標的に考えれば、これら5つの指標にまとめられるでしょう。

①オンボーディング指標(設定)
②利用状況指標(利用)
③顧客満足度指標(満足)
④顧客貢献指標(成果)
⑤財務指標(継続)

オンボーディングが正しくスピーディーに行えて、望ましい利用方法で日々製品が利用されて、顧客の満足度は高く、実際に顧客の担当者様が効果を上げていて、そのまま快く継続をし続ける。
これらすべてが成功すれば、言葉通り「カスタマーサクセス」したと言えるのではないでしょうか。

カスタマーサクセスの指標(KPI)構造

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実際に指標・KPIとして設計するのであれば、上記のような構造になると思います。単一の指標のみでは顧客の状況を捉えきれないため、データ分析体制が進んでいるSaaSベンダーでは、複数のデータソースから顧客理解に望んでいる企業が増えています。

例えば、私が日本国内のカスタマーサクセス先行企業としてとても参考にしているSmartHR様は、プロダクト利用・メール開封・コンテンツ利用などのデータを様々なツールから収集して、顧客の解像度を高めることに努めているのが下記の記事とスライドからわかります。

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私がスライドであげた指標を一つ一つ説明します。

カスタマーサクセス指標(KPI)1,オンボーディング指標

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オンボーディングにおいては、いろいろなベンダー様にヒアリングしている限りでは、「ある機能をここまで設定・利用していればオンボーディングが出来たとする」と機能利用データをトラッキングして、オンボーディング数値を図ることが多いです。
また私が昔所属していたメガベンチャーでは、このオンボーディングを1週間以内に終える、といった期間目標を設定することもありました。

また、理想は1社1社すべてハイタッチで導入説明が出来るのが理想ですが、リソース上難しい会社様では、契約後に参加必須の導入セミナーを設計して、その参加率を計測している取り組みをされていました。

カスタマーサクセス指標(KPI)2,利用状況指標

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利用状況としては、機能利用データをベースに作成した「ヘルススコア」をCSツールやBIツールで見ている会社様が多いです。ある機能を利用していれば1pt、機能利用有無がグラフ化される~といった方法で、お客様が継続的に利用しているかを確認します。
データ環境が整備されている企業様ですと、特定機能が使われていなければ赤模様になりSlackに通知が飛ぶ~といったこともされていました。
また機能利用まではトラッキングしていなくとも、MAUやログイン数などを計測している取り組みも見られました。

これも私が昔やっていた取り組みですが、企業単位ではなくユーザー単位で利用しているのか?を確認するために企業毎のアカウント数をモニタリングする会社もあるでしょう。

カスタマーサクセス指標(KPI)3,顧客満足度指標

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顧客満足度としてはNPSをメールやアンケートツールで取ることは多くの企業で見られました。

また昨今は「カスタマーマーケティング」の取り組みとして、カスタマーサクセスをした企業様を通じてマーケティング活動に活かせないかを挑戦している企業様が増えてきた印象です。
カスタマーマーケティングを行う場合は、事例取材の協力社数や、製品クチコミサイトにおける投稿数、Twitterにおける製品名投稿数(UGC数)といった指標を見ることも増えていくでしょう。

著書の「僕らはSNSでモノを買う」によると、UGC数は検索エンジンの指名検索数の増加につながるというデータが出ておりますので、カスタマーサクセスによって良い口コミが増えれば増えるほど、マーケティング効果につなげることが出来るのではと考えることは可能です。

カスタマーサクセス指標(KPI)4,顧客貢献指標

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また、カスタマーサクセスの指標は自社の製品や契約状況などのデータから設計するので意識しなければ見えないのですが、「顧客自体の貢献にはどの程度繋がっているのか」を確認することはとても重要です。
自社の製品の利用スコアがいくら高かったとしても、それが顧客の期待や目標に応えているとは限らないからです。
この顧客貢献の指標は、いくら社内データをこねくり回しても出てくることはなく、カスタマーサクセス支援における顧客とのコミュニケーションを通じて、お客様個人に直接聞くしかありません。

とはいえ「あなたのMBOを教えて下さい」「あなたがいる部署の目標を教えて下さい」とは信用関係がない中で聞くことは出来ませんので、SaaS製品の導入とサポートを通ずる中で少しずつ顧客の心を開いていくような歩み寄りが必要です。

カスタマーサクセス指標(KPI)5,財務指標

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そして最後に財務指標です。カスタマーサクセスの青本にも、財務指標について説明する章がありましたね。(要約記事を共有します)

財務の指標はチャーンレートが重要だとよく言われますが、私個人の感覚としては、チャーンだと「果たしていくらの売上に繋がってるの?」というのが直感的にわかりにくいので、売上の金額でわかるLTVで指標を見るほうが好ましいと考えています。

上記の青本に関する記事でも解説しましたが、LTVは理論式は「平均月次単価」と「平均継続期間」の掛け算で計算できます。
毎月いくらの製品を、平均で何ヶ月契約されているのか~がわかればさっとLTVベースでいくらの売上につながるのかわかります。
例えば月10万円の製品を24ヶ月契約されるとすると、LTVとしては240万円です。

そこからCAC(1社の顧客獲得に使う営業マーケティングコスト)を差し引けば、いくら利益が出るのかがざっくりとわかります。
米国では、社あたりのカスタマーサクセスの運用コスト(人件費やツールコスト等)もさらに差し引いて、より正確な利益を把握しようとするベンダーもいるようですが、日本ではまだそこまでしていない印象です。

少しまとめに入るのですが、カスタマーサクセスの業務を財務的に考えれば、どのように単価を上げ、どのように契約期間を伸ばすかに尽きると思います。
そして単価や契約継続を上げるためには、オンボーディング・利用・満足・貢献と一歩一歩積み上げる必要があると考えると、日々の業務と会社の売上の繋がりがカスタマーサクセス部門でも意識できるはずです。

カスタマーサクセス指標(KPI)管理にあたってのITツール

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これまで説明した指標・KPIを計測するためには何らかのデジタルツールを導入し、データを蓄積しなければなりません。
製品名の表記は今回は控えますが、カスタマーサクセスの指標設計の実際は、上記のように複数ツールを組み合わせながらデータを取得し、BIやSFAに連携させて一元管理する~という方法が見られます。

それこそ、下記の図を作成したSmartHRの下地さんに一度聞いたことがあるのですが、とりあえず使えそうなデータはエンジニアに相談して分析基盤のBigQueryに突っ込んでいると教えていただきました。

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この図からBigQueryにデータ集約→lookerでグラフ可視化→Salesforceに貼り付け(契約情報とセットで確認)といった取り組みをされているのがわかりますが、このようなデータ分析環境を構築するにはエンジニア/データサイエンティストの工数が必要となります。
ですので、さすがにここまでは出来ていない…という企業様はプロダクト利用データやコンテンツ利用データの可視化あたりから進めるのが現実的な進め方となるでしょう。

1から始めるカスタマーサクセス指標(KPI)管理

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いきなりこれまで説明したすべての指標・KPIを設計し、ツール導入やデータ連携をしていくのは大変ですので、かんたんに出来るところからコツコツ始める方法も解説します。

まずは①の機能利用の可視化から始めるのが良いと思います。これはエンジニアに依頼してBIを導入し機能利用状況の可視化を行うか、ヘルススコアの管理ツール(HiCustomerやpottosなど)を利用することになるでしょう。

また②③はスプレッドシート管理で良いので、契約時に顧客期待を管理する・定期的にアンケートを取るといったことをして顧客の声を管理する仕組みを作ります。

④は、毎月の解約社数と、契約中の全社数から手計算で、毎月の月次解約率を計算します。例えば毎月10社解約、600社契約だと月次解約率は1.6%。単純計算で12ヶ月それが続けば年間19.2%(115社)の解約に繋がる~といった計算になります。これを出すことで毎月の解約社数をどの程度に押さえるべきかの目安を立てることが出来るでしょう。

おわりに

お読みいただきありがとうございました。
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