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「旅の余韻」


旅の余韻を感じるのは、ドイツの気候のせいかもしれない。
あの夏の太陽はどこに消えたのだろう。
ほんの数日のあいだに重ね着をして、ブーツを履いて、ニット帽をかぶらないと外出できないくらい空気は冷えている。

つかのまの夏、イタリアで味わった至福の時間は夢だったのか、ローマでは夫の叔母さんが寄り添い、ナポリでは義姉のデリアが寄り添ってくれた。
夜寝る前も、朝起きた時も、出かける前も帰宅した時も、抱きしめて両頬にキスをする習慣は、お互いの距離感を縮める。他愛ない話だけれど終わらないし、笑い声が絶えない。

今日の明け方、
私はまだナポリのデリアの家にいた。夢だったのか、他愛ない会話にふと、違和感を感じて、「あ、そうだ、これは夢。デリアは、ここにはいない…」と呟いていた。

これからヨーロッパは短い秋が始まる。ハロウィンが終われば、冬が来て、クリスマスになる。クリスマスのための準備には誰も彼も余念がない。イースターと同じくらい心待ちにする。家族が集まり、一年の無事に感謝をし、翌年も元気で過ごせるようにと祈る。

ナポリでの最終日、デリアはクリスマスのための装飾品をいくつもくれた。陶器でできたオーナメント。スーツケースの洋服やタオルの間にしのばせて、壊れないように。
自分の引き出しから、手編みのマフラーや、カーディガンを出してくる。もうこれ以上、はいらないくらい一杯の荷物を詰め込んだ。

こんなに愛されたらもう、離れたくない。別れが淋しかった。
こみあげる涙を喉の奥に飲み込んで、グラッツェと言うのが精いっぱいだった。


旅の余韻は人恋しい。わびしい薄曇りの空。秋をおしえてあげようと、冷たい風が目の前を過ぎていく。




2024.09.18 in Nürnberg

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