ナポリの旅⑴
「ポッツオリの月」
九月七日、ローマからナポリに着いた。
中央駅から車で約半時間走ればポッツオリ港に到着する。そこから数分、山手に行く途中の高台に義姉の家がある。
一週間お世話になる義姉に今日までの旅の話をしていた。すっかり日が暮れてしまった。
ベランダに出ると群青色の夜空に細い月が浮かんでいた。
月は慕わしい。
見ているだけで、せつない気持ちが込み上げる。絵を描くのは嫌いじゃないので、ブルーのグラデーションに浮かぶ月を描いてみたい。気分は画伯のつもり。
今宵、月は赤かった。
時に青みがかって見える夜もある。その輝きはよく変わる。
イタリア語にはルナティカ(lunatica )と言って「月のようにうつろいやすいこと」を例える言葉がある。褒め言葉でないのが、どこか憎めない"あいきょう"をふくんでいる。
去年の夏は、海沿いの遊歩道を歩いた。心地よい夜風が、水面を揺らし、月光を散らしていた。 海と空の境目はなく、それがどこまでも夜と溶けあっていた。
今年はまだ、海岸通りを歩いていない。どんな月に出会うだろう。海と月と夜風、ここでしか味わえない夢物語を思い描けば、月に恋をする詩人になれるだろうか。
最近はイタリアにいるせいで、単語は全部イタリア語が先に思いうかぶ。いつのまにかイタリア人のいうルナティカになっていくかも。飽きっぽいけれど愛嬌がある、そんなふうに。
今夜もポッツオリの月は少し膨らんだ笑みを浮かべ、柔らかな視線を送ってくるようだ。
※次回はナポリの旅⑵をアップします⤴️お楽しみに。テオ
stand.fm2024.09.10投稿
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