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「八月の太陽」

 八月の空はどこまでも青く、地面を照りつける太陽を抱えている。

ニュルンベルグ市の中央駅を上り、少し歩いた所にある広場の真ん中で足を止める。 立ち並ぶ中世以来の古めかしい建物。 どんなに高くても五〜六階建てで、空が見えなくなるような高さのものは見た事がない。暖炉を使う家には煙突もあり、屋根裏部屋の出窓は、一日中眩しい光を反射させている。

きちんと並ぶ尖った屋根越しに見える空には、今も王様がいて、この地を見守り続けているように思える。

ことの成り行きとひと口に言うけれども、人生は思い通りにすすまない。おおげさだけれど、運命の女神さまのいたずらだったのかもしれない。

偶然がかさなって欧州に住むようになったこと。それは幸運だったと思う。よくよく考えると、たくさんの人との出会いのおかげだとわかる。にしても、ハプニングの連続だった気がする。病気をしたけれども、それも忘れがたい思い出になった。

今年も夏休みが来た。 約一ヶ月ある。八月の終わりにローマに行くことにした。予定がなかなか決まらなかったせいで、陸路となった。列車が取れず、夜行バスで行くことに。真夜中に出て、半日したらローマ。着く前から耳と心にカンツォーネが聞こえている。イタリアで食べるピッツァやパスタは美味しい。気候のせいかも知れない。うまく説明出来ないけれども、程よい湿気の柔らかな空気感は、たとえ太陽が照りつける場所にいても、心地よい。 気づくとどこからか風がやって来る。その流れの中に暗黙の了解が潜んでいて、物語好きの私をわくわくさせる。

大昔、アンデルセンが、陸続きの欧州を旅しながら見聞きし、体験した事を全部物語にした。同じ様なシチュエーションを再現出来たらどんなにたのしいだろう。

八月の、まっ青な空に眩しく輝く太陽は、どんな時代も人の心を捉えて離さない。

stand.fm2024.08.31 投稿

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