「置き配ポイント」に税金を投入すべきか?
「置き配ポイント」とは
岸田首相は、物流対策として「置き配ポイント」を含む「物流革新緊急パッケージ」を決定したそうです。
この「物流革新緊急パッケージ」については内閣官房のWEBサイトに、「物流革新緊急パッケージ」の関係閣僚決定資料が置いてあります。
いわく、
とのことで、物流の停滞が懸念される2024年問題に対する緊急の対策を打つという趣旨のようです。
その中で、「置き配ポイント」は、
と書かれており、ここでいう「ポイント還元」が「置き配ポイント」を指すようです。今回は実証事業ということで、まずは「試してみたい」というレベルの話のようです。目標としては、現在12%の再配達率を半減、つまり6%にすることを掲げています。
ポイントの予算と財源
さて、マイナポイントに引き続き、ポイントで消費者の行動変容を促したい政府ですが、今回の「置き配ポイント」にはいくら予算をつぎ込むのでしょうか?
2023年10月8日現在のところ、予算の規模や財源については判明していません。
再配達率を下げるのは行政の仕事か?
今回の「物流革新緊急パッケージ」の目的は輸送力不足を解消することにあり、ポイント事業に限って言えば再配達率を下げることにあります。
ここで考えたいのは、「再配達率を下げるのは行政の仕事か」ということです。もっと言えば、「再配達率を下げるのに税金を使うべきか」ということです。
再配達が減って利益を得るのは運送会社です。なぜなら、再配達をしなければ配送員の人件費やガソリン代などがかからないからです。その利益を出すために税金を投入することに妥当性はあるのでしょうか?
経済学では、政府の役割として「市場の失敗」への対策が挙げられます。この「市場の失敗」には5つのバリエーションがあり、これらに当てはまらない政策は市場の失敗対策としては理由がないと言えます。
公共財
外部性
情報の非対称
取引費用
不完全競争
ここではそれぞれについて説明は省きますが、「配達」というサービスは、公共財でもなければ、外部性も有しません。情報の非対称というのはサービス自体の質などに関するものであり、「何時に在宅しているか」という意味での情報のことではありません。取引費用も権利移転費用のことを指しており、配送料のことではありません。不完全競争という点は、競争環境があるかどうかという点であり、すべからく全社を対象とするポイント事業には関係がありません。
以上のことから、再配達という事象は、市場の失敗には該当しません。市場の失敗対応以外の政府の役割は、所得の再分配です。となると、「置き配ポイント」とは何かというと、物流業界と消費者への所得再分配となるわけです。
「もらえるならいいじゃない」と思う方もいらっしゃると思いますが、財源は皆さんの税金です。法人税収も多いですが、当然税も価格転嫁されてますから、不要な税は徴収すべきではありませんし、本当に必要な政策に使われるべきでしょう。
どうやって再配達率を下げればいいのか?
緊急パッケージに先立つ「物流革新に向けた政策パッケージ」において、輸送量の要因分析をしており、その中で再配達率が2ポイント削減されれば、輸送力不足を1ポイント改善されるとしています(12頁「2.施策の効果(2024年分)」に記載)。
分析としてはそれでよいとして、それを誰がやるかは一度考えたほうがよかったのではないかなと思います。政府としては「ほっておいたら変わらない」と考えたのでしょうが、輸送力不足で困るのは市場参加者ですから、市場参加者の努力に任せてもよいのではないでしょうか。
再配達率を下げる方法はいくつか考えられます。
配達の発注時(荷主の受注時)に、受取人が希望する日時を必ず指定するようにする。
指定された日時に配達した際に不在の場合は、受取人が倉庫に取りに来ることを原則とする。再配達を希望する場合は、再配達コストを受取人が負担する。
おそらくこれだけで再配達率はかなり下がるはずです。何も税金を入れなくてもいいでしょう。市場参加者の努力だけでまずは改善を図ったらいかがでしょうか。
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