
暮らしに美の花を咲かせることを願った柳宗悦
NHK『先人たちの底力 知恵泉』の柳宗悦の回、本日再放送です。
上の画像は、『もっと知りたい 柳宗悦と民藝運動』(2021 東京美術)という本の目次と表紙で、右に見えている柳宗悦の写真は、私の師匠である版画家の森義利の工房に飾ってあった写真です。師匠は仕事に加えて、日本橋下町のご近所回りやパチンコ等々で忙しく、工房をあけることも多かったので、私は師匠の顔より長い時間、この柳先生のお顔を眺めて過すことになりました。18歳で入門してから27歳で師匠のところを出るまでの十年間、朝晩眺めていたおかげで、生前お会いしたこともないにもかかわらず、ご年長の親戚の方のように親しみを感じてしまいます。
この『もっと知りたい 柳宗悦と民藝運動』は、数ある民芸入門書のなかでも、わかりやすくとてもよくまとまったおすすめ本で、本日放送の『知恵泉』にも登場する日本民芸館の杉山享司学芸部長の監修です。知られる通り駒場の日本民芸館は、民家の一部を移築して増築されたもので、柳は近代の美術館は、住まいと切り離されているところに最大の問題があるとしています。「何が最も人類にとって重要な意味を持つ美しさを示す」ことをみずからの使命と考えていた柳は、真の美というものは「実生活から距離の遠い」ところには決して存在しないと説き続けていたからです。
柳が亡くなる前年の昭和35年(1960)に71歳で記した日本民芸館の「自覚」すべきことについての美しい文章があるのですが、なかでも感動的なのが「生活の上に美の花を開かしめる事の必要を想う時」というフレーズです。その言葉の持つ少年のような純情さには、読む者の胸をうたずにおかないものがあります。
生活の上に美の花を開かしめる……ことこそが、柳宗悦のいう「最も人類にとって重要な意味を持つ美しさ」であったわけですが、逆にいうならば、生活を美しくすることこそが、美術館をも超える「美の花を開かしめる」ことに通じているということになるわけです。
十年間、朝晩眺め続けていた柳先生のお顔を思い出しながら、日々、心して、もう少し仕事場をきれいにしなくてはと自戒する私ではありますが……。「実生活から距離の近い」ところに咲く美の花は、じつは美術館に咲く花よりも、咲かせることのむずかしい花なのかも知れません。いまこの時も、暮らしを美しく保っておられる方々、日々の私たちのライフラインを支えるために働いておられる方々には、ひたすら敬服と感謝あるのみです。
(番組は「多様性社会をどう築くか?」と「反発をチカラに変えよ」の二回で、13時50分と22時からの放送。NHKプラスでも視聴可能とのことです)
https://www.nhk.jp/p/chieizu/ts/R6Z2J4WP1Z/episode/te/1Z6889PR35/