
知識ゼロから見に行く相馬野馬追①
■はじめに■
漫画家の卵だったG氏が亡くなったと知らされたのは2021年9月のことだった。
G氏は高校時代の友人の従兄弟にあたる。
高校時代の友人は当時、とある業界の機関誌の編集委員をつとめていた。
軽い読み物がほしいという依頼により、俺が小説を担当し、G氏が挿絵を描いた。
ざっくりいえば、そんな関係だ。
G氏は、誰もが知る巨匠のもとでアシスタントを長年つとめており、抜群に絵がうまい。
人物がうまい。背景が緻密で、動物やメカも描ける。
いや、巨匠のアシさんに対してうまいは失礼な物言いだな。
彼がデビューできなかったのはキャラクター作りに難があったから。
新人のデビューなんて受賞作でもなければ原稿落とした作家の穴埋めで16ページほど。
ストーリーはあったほうがいいけれど、それよりは魅力的な主人公が描けるか否か。
G氏に見せてもらったネームは説明調で、活きのよさが感じられなかった。
作家として世に出るために練らなければならない何かが足りないように思われた。
そんな彼がこだわりを持っていたのが相馬野馬追だった。
G氏は南相馬地区の出身で、子供の頃から野馬追には幾度となく通いつめていたという。
こだわりがあるなら、突破口になるはずだ。
ネームを起こすよう勧めたが、G氏はいろいろ難しいからと口を濁した。
そうは言っても、作品にしたいという気持ちはありありと伝わってきた。
何かアドバイスをしようにも、こちらは相馬野馬追についての知識がない。
正直に言うが、G氏に聞かされるまで存在すら知らなかった。
ならば、相馬野馬追を一緒に見に行こう。
となればよかったのだが、当時はそれができなかった。
年老いた母の介護をしていたため、時間がとれなかったのだ。
母は2020年に亡くなった。
相続手続きを済ませて身軽にはなれたが、コロナ禍で世は自粛ムード。
状況が好転したら、旅に出よう。
まずは現在住んでいる千葉県全54市町村の踏破から。
次に関東エリアの1都6県。
そして東北。南相馬市だ。
だが、時すでに遅かった。
G氏の死因は従兄弟である友人にも知らされず、ひっそりと家族葬がとり行われたという。
孤独死だろうと、友人は語っていた。
俺が南相馬市を訪れたのは2024年5月。
彼の死から2年以上が過ぎていた。