【短編恋愛小説#49】音楽の処方箋
失恋した夜、真っ暗な部屋で私はSpotifyを開いた。
画面の明かりが顔を照らす。
「君と聴いた音楽」というプレイリストの名前を見つめながら、バックスペースキーを押す。
文字が一つずつ消えていく様子は、どこか儚かった。
深夜のコンビニでアイスを買い込むような衝動的な失恋ソング検索は、思いがけない発見をくれた。
切ない歌詞を探していたはずなのに、選んだ曲は意外にも明るいリズムを持っていた。指が自然とリピートボタンを押している。
この曲、どこか心地いい。
通勤電車の中でも、イヤホンから流れる音が変わっていく。
「また新しい朝が来るから」という歌詞に、思わず顔を上げる。
車窓の外には、いつもと変わらない街並み。
でも、音楽のおかげで、少しだけ違って見えた。
新しいプレイリストには、意識的に明るい曲を入れ始めた。
必死に前を向こうとしているわけじゃない。
ただ、自然とそんな音が心に沁みる。悲しい曲ばかり聴いていた時期を過ぎて、今の私は少し違う音を求めている。
気づけば、プレイリストは私の心の記録みたいになっていた。
最初の方にあった失恋ソングは、いつの間にか後ろの方へ。
その代わりに、テンポの良い曲が自然と前に集まってきた。
整理したわけでもないのに、心の動きに合わせて曲順が変化している。
友達と話していて、ふと気づいた。
「この曲、最近よく聴くんだね」って言葉に、少し照れる。
再生回数を見てみると、もう100回を超えていた。
きっとそれは、今の私に必要な言葉がそこにあったから。
たまに、昔よく聴いていた曲も紛れ込んでくる。
懐かしい気持ちと少しの切なさ。
でも、それも今の私の一部。
無理に消す必要はないんだと思えるようになった。
新しい曲との出会いは、まるで見知らぬカフェに足を踏み入れるような楽しみがある。
気に入った曲を見つけると、自然と背筋が伸びる。
この感覚を、もっと大切にしていきたい。
今日見つけた曲は、どこか背中を押してくれるような歌詞だった。
そういえば、最近は前より遠くまで歩けるようになった。
音楽を聴きながらの散歩が、少しずつ楽しみに変わっている。
プレイリストのタイトルも、また変えてみようと思う。
「私という音楽」。
少しくすぐったいけど、今の私にはこれがしっくりくる。
結局のところ、音楽は誰かと比べるものじゃない。
ただ、今の私の心に寄り添ってくれるもの。それだけで、十分なんだ。
明日は、どんな音楽と出会えるだろう。 プレイリストは、まだまだ続いていく。