【短編恋愛小説#47】さよならの続き方
真夜中のコンビニで、アイスクリームを片手に立ち尽くしていた日のことを、今でも鮮明に覚えている。
レジの前で、思わず「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた店員さんの優しさが、余計に涙を誘った夜。
あれから、四ヶ月が過ぎた。
失恋直後の私の口癖は、「大好きな人に愛されることが、私の幸せだった」。
今思えば、ずいぶんと狭い幸せの定義だったように思う。
愛することも、愛されることも、確かに素晴らしい。
でも、それだけが人生の全てじゃなかった。
気づきは、ふとした瞬間に訪れた。
夕暮れ時、帰り道の空を見上げた時のこと。
澄んだ空気の中で、雲が思い切り赤く染まっていく様子に、思わず足を止めた。「きれいだね」と誰かに言わなくても、「うん、きれい」と独り言を呟ける自分がいた。
それは、小さいけれど確かな、新しい幸せの予感だった。
生活のリズムも、少しずつ変わっていった。
朝の目覚まし時計を10分早くセットして、ゆっくりストレッチをする贅沢。
週末に見つけた古本屋で、棚の奥に隠れていた一冊との偶然の出会い。
先週から通い始めたフラワーアレンジメント教室では、意外な発見があった。
花は、一輪でも十分に美しい。
それなのに、誰かに贈るために選ぶときは、必ず束にしようとしていた自分がいた。
今は違う。一輪の花を、自分のために買う。
朝の光に照らされる花びらの透明感を眺める。そんな何気ない時間が、静かに心を癒してくれる。
失恋は、何かを失うことだと思っていた。
でも実は、自分を取り戻すきっかけだったのかもしれない。
お気に入りのカフェで読書する午後。
誰かを待つわけでも、誰かと待ち合わせるわけでもない時間が、こんなにも愛おしく感じられる。
本のページをめくる音と、コーヒーの香りが、小さな幸福を演出してくれる。
先日、久しぶりに実家に帰った。
彼と付き合い始めてから、実家に帰る回数が減っていたことに気づく。
母の作る味噌汁の味が、懐かしくて温かい。
父の趣味の話が、こんなに面白かったなんて。
当たり前にあった幸せを、改めて見つけ直している自分がいた。
クローゼットの奥で眠っていたワンピースを、先週思い切って着てみた。
彼の好みじゃないから着るのを躊躇っていた服。
着てみたら意外と似合う。
私の好みの服って、こんな感じだったのかもしれない。
今夜も月が、静かに空を照らしている。
同じ月を、誰かと見上げなくてもいい。
自分だけの月の物語を、ゆっくりと紡いでいけばいいのだ。
たくさん泣いて、でも必死に前を向こうとした日々。
そのどれもが、今の私を作ってくれた。
一生懸命に誰かを愛そうとしたこと。それは決して無駄じゃなかった。
むしろ、その経験が今の私の優しさを作ってくれている。
コンビニのレジの前で立ち尽くしていた私に、もし会えるなら伝えたい。
「泣くのは、もう少しだけでいいよ。その先には、もっと素敵な私が待っているから」
と。
今日も空は青く、新しい一日が始まる。
今度は、誰かのためじゃない。
自分のために選んだ道を、一歩ずつ歩いていこう。