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他社機とデッドヒート 第二ラウンド
前回の続き
僕らは低い高度を飛んで、他社の同型機は僕らよりかなり高い高度を飛んでいた。
前方に積乱雲がいくつも見えてきた。
その日はずっと南の太平洋上に台風があった。まだ台風までかなり距離があるけど、暖かい湿った空気が南海上から供給されて、那覇に向かう経路上にモクモクした積乱雲がいくつも立っている。
台風は反時計回りに渦を巻いている。その反時計回りの風の流れに沿って、何本も帯状の積乱雲の列がまるでカーテンのように、那覇に向かう経路に立ち塞がっている。
台風に近づくにつれ、僕らのすぐ上の高度に層になった雲が広がってきた。後ろの飛行機が一度選択して飛んだけど揺れた高度だ。風の変化するところに雲はできやすい。
僕らはその層雲の下にいるので、さらに下層の積乱雲の下の方が見える。僕らを抜きたくて上の高度にいった後ろの飛行機は層雲の雲の上にいるので、下層の積乱雲の様子は目視では分からない。
積乱雲は入ったら激揺れだ。パイロットからすると、入ることは極力避けたい雲である。特に夏の積乱雲はやばい。地上からモクモク発達した積乱雲を見ると、大抵の人は「ああ、夏だな」と思うのだろうが、パイロットからすると「あれはヤバい、入りたくない。てっぺんのところとか絶対無理」とか思ってる。
そう、特にてっぺんのモクモクしているところが一番やばい。積乱雲は発達段階にもよるが、基本的にはてっぺんのモクモクしたところが一番揺れる。発達中のてっぺんは、今まさに激しい上昇気流が起きて雲が生成されているからだ。さすがに大きい積乱雲の上部に入ったことはないが、離陸直後に小さい積乱雲のてっぺんに引っかかってしまうことがある。そういった時は小さくても「ガツン」と何かに当たったのではないかと思うくらい、固い激しい揺れがある。
積乱雲の下の方の揺れは、まだマシな方だ。積乱雲の下層は大雨である。上昇気流によって持ち上げられた大量の水分が、その重みに耐えられなくなって、滝のように下に落ちている。揺れは大きいく激しいが、まだ我慢できる揺れだ。
僕らを抜こうとして上の高度にいった飛行機は層雲の上にいるので、下の様子が分からない。積乱雲の一番入りたくないモクモクした部分が、層雲の上から頭を出しているのが見えるだけだ。
一方、層雲より下の高度を飛んでいる僕たちには下の様子がよくわかる。上の高度はモクモクしていても、下の高度では雲の薄いところがあったり、切れ間があったりする。だから、避ける計画が立てられる。
後ろの飛行機はどうするだろう?僕らを抜いていくためには積乱雲に突っ込まないといけないが、一番揺れるてっぺんの部分を見ながら、積乱雲に突っ込んでいく勇気があるのか。
程なくして
「進路260度を要求します」と彼らの声が聞こえた。
大幅に右側に進路を変えて、遠回りしてでも雲の薄いところを探すようだ。とうとう諦めたらしい。
「やっと分かりましたよ」副操縦士が口を開く。
「うん?」
「上の方が燃料少なくて済むのに、なんで最初から低い高度を選んでるのかなって思っていました。低い高度なら雲を避けやすいんですね」
「うん、そう。戦いとはいつも二手先三手先を考えて行なうものだからね」
「はあ」
シャアアズナブルの言葉である。
那覇に近づいて、そろそろ空港に向けて降下を開始しなくてはいけない。台風の雲はカーテンのように広がっている。どこかで雲に入らなきゃいけない。
次は雲との戦いだ