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カルメン・マキ『私は風』

夢も希望も無い過疎が進む田舎の中学生だった頃、音楽の先生に子供が生まれるので、代わりに若い女の先生が来た。

黄色のワンピースが印象的な勝ち気な女性で、「来たくてこんな山の中に来たわけじゃないのよ」という顔で山猿(オレたち)を見ていた。

それなりに授業は進めるものの、いつも不機嫌な顔で楽しそうには見えない。が、ある日表情を変え自分の好きな音楽の話をし始めた。

「まだ理解できないかも知れないけど、大人になったらカルメン・マキ&OZの『私は風』を聴いて欲しい。最高だから」と言っていた。

音楽はテレビで流れる歌謡曲やフォークくらいしか聴けず、ROCKには縁がないし、ましてやカルメンマキなんて初めて聞いた名前だった。

それから5年後のある日、レコード店を覗くと、「カルメン・マキ&5X」のアルバムがあった。オレは若い女の先生のことを思い出した。

「OZ」は解散して「5X」は新しいバンドらしい。カルメンマキは堂々と、圧倒的な声量で歌っていた。こんなシンガーもいるのか?

給料は手取り17万円で、ほとんどが飲み屋とラブホとガソリンに消えた…相変わらずの自分の欲求の吐口がアルコールとSEXとROCKになっていた。

高校生の頃からパンクが好きで、ハードロックやヘビィメタルは古い気がしていたけど、先生が言っていたのが少し理解できた気がした。

その後、メタルブームやバンドブームを経て90年ごろに日本のROCKはピークを迎え、2000年前後にはR&BやHIPHOPにその座を奪われてしまう。

ルースターズやボウイも88年に解散して青春も終わりを迎えた。ROCKの呪縛を逃れ、仕事を頑張ろうと思った時にはやっと大人になっていた。

先生は23〜25歳くらいだったろう。ROCKが好きで音楽の先生を目指したんだろうか。今も元気で、たまには「私は風」を聴いているだろうか。

ありがとう先生「私は風」聴いたよ。今聴いても名曲だよね?と伝えたい。

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