山にもらったこと 「頂上より、その前と後に醍醐味がある!」 〜表銀座縦走編〜
ある山岳ガイドさんに「マイNO. 1 の山ってどこですか?」と聞いたら、「ちょっと意味が違うんだけど・・」と言いながら、こんな話をしてくれました。
「山を始めた人たちがある程度場数踏んでくると、誰もがまず憧れて目標にするのが、槍ヶ岳なんだよね。槍にお客さん連れて行くと、登頂後の小屋での時間が格別なんだよ。みんな達成感ではち切れそうな笑顔で乾杯して・・。槍には嫌っていうほど登ってるけど、あの顔見ると、また案内してもいいな、と思うんだ」
・・・はち切れたい。私も!
折も折、山友から「表銀座縦走で槍ヶ岳に行こうと思うんだけど・・」
神のような誘いに乗って、ある盛夏の三日間が始まりました。
北アルプス表銀座は、燕岳登山口を起点に、北アルプス三大急登「合戦尾根」を登り、その後山脈をひたすら歩いて大天井岳へ、さらに喜作新道〜東鎌尾根を経て槍ヶ岳に至る縦走コースです。
燕岳には過去2回登っているので、今回は登頂割愛。夕方までに1泊目の小屋に辿り着くために、大天井岳を目指して長い稜線歩きに突入します。
やがて、大天井岳頂上へ。
振り向けば、今歩いて来た稜線の全てが、目の中に。
これだからやめられないんです、山!
同じ思いの人々の歓声が、そこここに溢れ・・
誰もが、夕景をじっくりと噛み締め、明日を思います。
明けて、早朝。東鎌尾根の向こうに聳える槍の穂先を見据えて、喜作新道を歩き始めます。
夏山の美しさを際立たせる、勇姿に見惚れながら・・
ああ、だけどまだまだ遠い!ここに立っている時は、いつかあの尖りにたどり着けるとは、とても思えませんでした。
ようやく、東鎌尾根での7合目あたり、二泊目の小屋・大槍ヒュッテに到着。荷物をデポしてヘルメット装着すると、知らず知らずに勇足になっていく。いよいよここからです。
目の当たりにする、槍の穂先。本当にあそこに登れるの?
穂先直下からは尖りを見上げる余裕もなく、目の前の岩と手元・足元だけを
凝視してよじ登ります。
最後の垂直鉄梯子を・・
息も絶え絶え上がり切って、
・・登頂!
興奮と感動。と同時にうっすらと胸に漂う、あれ?終ちゃったんだ?という不思議な感覚・・。山頂は狭くて長居は危険なので、程なく撤退。再び鉄梯子と岩にしがみつきながら穂先から降り、宿泊先の小屋へ向かいます。
「あそこに登ったんだね」「嘘みたい」・・安息の場から眺めながら、何度も同じことを言い合い、何度も交わす乾杯。
「あー、雲かかっちゃった」「なんで槍だけ隠すのー?雲」
やり遂げた、という気持で見上げることができる充足感。飽きることなくいつまでも、見えなくなるまで見つめ続ける至福のとき。
私たちは今、あの山岳ガイドさんが見たお客さんのような、はち切れんばかりの笑顔でいるんだろうな・・。
下山の朝。
朝陽を纏う凛々しい姿に、改めて「登ったんだ」という実感と喜びをもらい。「受け入れてくれてありがとう」と感謝の気持ちを胸に、下界へと歩き始めます。
今から3年前、山に嵌り始めて4年目の夏でした。この年はたくさん山に登ったけれど、槍ヶ岳への行く道・帰る道は、間違いなく、その年のマイNO.1山行となリました。
@2019/8/3-5
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?