創作童話「くるん!からすうり」
冬のしずかな林の中に、まっかなからすうりのおやこがいました。一本の長いつるに、おかあさんのからすうりと、子どものからすうりがいました。つるは、ちかくの木にからみつき、はっぱはハートの形をしています。
まわりのからすうりは、もう時期がすぎて茶色にかわっていましたが、このおやこだけは、まだあかくそまっていたのでした。
「おかあちゃん、さむいよー」
「男の子がくるまでのしんぼうだよ」
「男の子?」
「まい年、はっぱが黄色くそまるころ、男の子とおかあさんがこの神社におまいりにくるから、あかいすがたを見せてやりたいのさ」
「ふうん。ぼくとおかあちゃんみたいだね」
「その子が、あかいわたしを見つけてうれしそうにゆびをさすのさ」
その話を聞くと、ことし生まれたからすうりの子どもは、そのおやこに会えるのをたのしみにまちました。
ある風のつよい日のことです。からすうりのおやこは、ゆらゆら風にゆられながら、いつものようにおやこをまっていました。
「あったー。ぼく、見つけたよー」
男の子のはずんだ声が、林の中にひびきました。そして、あかいからすうりのおやこをゆびさして言いました。
「わー。プチトマトみたい。ぼく、たべてみたいなあ」
「からすうりの実は、にがくてたべられないのよ」
「えー。ひとくちでいいから、たべたいよう。ママ、とって、とってー」
おやこの話を聞いていたからすうりの子どもは、「どきん」としました。
男の子は、大きくせのびをして、からすうりの方に手をさし出しました。
子どものからすうりは、「はっ」といきをのんで、目をとじ、体をギューッと丸めました。
その時です。つよい風が、サワサワサワ―っと林の木々を大きくゆらしました。
そのしゅんかん、からすうりの子どもの体が大きく前後にゆれ、くるんと前にひと回りしました。
「あっ。まわった、まわったー」
男の子が、手をたたきながらジャンプしています。
「えっ? ぼく、一回てんしたの?」
からすうりのおかあさんも、ほほえんでいます。
からすうりの子どもは、なんだかたのしくなってきました。つよい風がくるたびに、風にのってくるんと一回てんしました。
「ようし。こんどは、三回てんにちょうせんするぞー」
そう言うと、つよい風がくるのをじいっとまちました。
サワサワサワー。サワサワサワ―。つよい風が来ました。
「いまだ!」
そう言うと、体をギュッーっと前に丸め、あたまを前に下げ、大きな風にのりました。くるんくるんくるーん。みごと三回てん。大せいこうです。
同じつるにいるおかあさんも、つられて、三回てんしました。とつぜんのことに、おかあさんも目を回しています。
からすうりのおやこが、何ども回てんするうちに、つるがぐるぐるまきになってしまいました。
そこで、からすうりのおかあさんは、つよい風をまって「えいっ」とあたまをうしろに下げました。くるんくるんくるーん。うしろ三回てん。大せいこう。
ぐるぐるまきだったつるが、うしろにくるんくるんくるーんと回るうちに、もとにもどりました。
目の前のあかいからすうりが、前に回ったりたり、うしろに回ったりするのを見て、男の子は、手をたたいてよろこびました。
「サーカスみたい」
「ほんとうね。いきがぴったりね」
「ぼくも、くるんくるんってまわりたくなっちゃったー」
「そうね。てつぼうのある公園に行こうか」
「やったー」
男の子は、からすうりに手をふると、おかあさんの手をぎゅっとにぎり、歩き出しました。
子どものからすうりは、
「たのしかったー。体がぽかぽかしてきたよ」
と言って、あかいほっぺたをさらにあかくしておかあさんのかおを見ました。
「たのしかったわね。またやりましょう」
おかあさんもほほえみながら、まっかになった子どものかおを見つめかえしました。