飢餓海峡巡礼、天売、焼尻。2023/6/24
北海道の鉄道は、いまは昔の深名線まで含めすべて学生時代に乗りつくしている。唯一未乗だったのがこの、函館本線山線だ。道東へ、道北へ、とにかく回りたかった幼い学生は、あえて予定を合わせて道南を回るなんてことに気が回らなかった。
蘭越―長万部間が日に4本しかない。倶知安622発の次が1235発だ。これに間に合う小樽発は1053発だから、前泊が小樽なら余裕である。
10時過ぎに宿をでて天神十字街のバス停、天満宮下へ向かう。1017発で小樽駅へ向かう。
「晩、早く寝ちゃったね。起きてればネコちゃんと遊べたのに」『きたよネコちゃん、朝。ペロ遊んだ』。ネコ好きの息子、かなりネコ宿をたのしみにしていたようだったからそれならよかった。
北海道中央バスの16番奥沢線、10時半過ぎに小樽駅へ到着した。週末のみ設定されているJR北海道「一日散歩きっぷ」を券売機で2枚買う。おおよそ札幌から一日で往復できる範囲内が乗降自由となっている当日販売の企画きっぷである。
倶知安までの便とて1時間に1本を切る状況、早めに並んで席を確保しよう。
小樽はいまでも建前、列車ごとの改札だが、Kitacaが入っているので自動改札に磁気券を通せばよいだけの話である。発車20分前から並んだ甲斐あり、席を確保した。
小樽から余市まではそれなりに近郊区間といった趣で立っている乗客も多い。ここから内陸部へ入っていく。非電化単線で分け入る山中は緑鮮やかだ。1212倶知安着。
長万部行きは1235発だが、乗りとおす人もそれなりにあるだろう。素早く発番線に移動し、列に並ぶ。
胆振線分岐やら貨物扱いやら、かつてはあっただろう構内、線路が整理されてしまい、妙にスカスカしている。
入線してきた列車の、進行方向左手の席を確保しほっとする。あとは長万部まで揺られているだけ。
小樽駅前の長崎屋で昨晩、息子が買っていた。フランクミュラーコラボのコアラのマーチ。
そもそもフランクミュラーとコラボしませんか、と、どんな企画屋がロッテに持ち掛けたのかナゾだが、コアラのマーチがちいさいころから大好物で、時計マニアの息子には、まるで自分のための企画と感じられたようだ。
蝦夷富士、羊蹄山の雄姿を前にひたすらカリカリカリカリと無心に喰っておる。
長万部、1411着。これで北海道の鉄道全線完乗となる。
長万部といえば理科大長万部キャンパスだ。徒歩30分くらいの道のりのあいだにセコマがあるのを確認し、遅い昼食に寄る。
店内がまっくらになっていて驚く。メーター取り換えのため一時的に停電しているとの由。「現金のみ、レシートも出せないのですが…」とすまなそうに店員の女性がいう。
軽食を携え、たどりついた長万部キャンパス。丘のうえに広がるそこは、レンガ張りのおしゃれな校舎だった。「おなかいたくなってきた」と息子はトイレを借りにいく。戻りが遅いのはいつものことだ。
「なんかねー、和式ばっかりだった意外に」と帰ってきて報告。
と、いいように書かれているものの、息子たちはふたりとも高校は寮生活、下の息子にいたってはそれに懲りずに恵迪寮なので、「寮」というものに愛着があるらしい。よそんちみてきて満足、といったていであった。
長万部駅は理科大と反対側、海側にしか改札がないため跨線橋で線路をまたぐ。
このあとの行程も、東京をでる前にいろいろ考えてはみたのだが、「一日散歩きっぷ」を購入したこともあり、素直に倶知安まで鉄路で折り返す。
比羅夫での停車、プラットフォームでバーベキューをしている一団と目が合う。あれか、駅の宿ひらふ。
妹夫婦が昔、新婚旅行で泊ったのだった。いまでも経営されているのか。
そうとわかっていれば今回検討したものを。いや、プランニングが6/20だったのだからもう間に合わなかったろうが。
日に5往復の乗客を目の前に呑むビールはうまかろう。うれしくなってこちらも手を振り返す。
倶知安1813着。乗り継ぐニセコバス、岩内行き最終は1855発だから充分余裕がある。
駅前のコープさっぽろ倶知安店で買い出し。
夏至の北海道、この時間帯でもまだまだ明るい。白夜と呼びたいくらい。
野球の合宿が入っているとかで満室だったワイス温泉の前を過ぎ、小沢。
JRの駅からはすこし離れているそのバス停に外国人風の男性が。前扉から乗ろうとするので、乗務員が身振りで中扉を指す。整理券という概念もわからないようで、これも乗客に「そのチケットを」と示されてようやく取ったくらいだ。乗車中もしきりに誰かと通話している。
岩内バスターミナルは終着のバス停だから間違えようがないのだが、到着のしばらく前から運転席の横に張りつき、タブレットの地図と見比べている。
日本語ほぼ通じない彼が、もう交通機関がないだろう時間にたどり着く終着ターミナル。謎は深まるばかり。
この街としては遅い時間に到着するから、と今晩の宿はターミナルそばの岩内マリンホテルに取ってあった。2階建ての商人宿だが、部屋にエアコンがついているのは、一応ホテルと名乗るだけある。
北海道の郊外はいまでもかなりな確率でエアコンなしの宿が多い。小樽の民泊、ホーム安田もそうだった。
丘の上のスーパー、ラッキー岩内店がまだ営業しているようだったので冷たい飲み物などを買い足しにあがる。
「さっきのバスのひと、脱走してきたベトナム人実習生かねぇ」息子がつぶやく。航路がなくなった、しかし港町にはそんな人も寄せられるのだろうか。
〈続〉