見出し画像

TRPGで、もっとみんなの心を豊かにしたいという夢の話

「夢をかなえる」という言葉。
僕に叶えたい夢がないと言えば嘘になる。
半ば諦めかけた夢の話でもいいなら、この際だから語ろうと思う。

「もしも夢が一つ叶えられるなら、何を叶えたい?」
そんな風にカミサマか誰かに問われたら、僕はこう答えると思う。

TRPGという舞台を通じて物語を紡ぎ、誰か一人でも多くの心を豊かにすること。それが僕の“叶えたい夢”だと。
現実的で生々しい話をするなら、シナリオを頒布したお金で生きていきたいということかもしれない。なんて伝えてしまうのだろう。

僕は昔から物語を紡ぐのが好きだった。
毎日が妄想劇場の中のようで、落書き帳いっぱいに物語の世界観を書いてみたり、魔法の設定から軍事っぽいことまで考えていた覚えがある。
ある時は自分が大好きな物語をまねてはアレンジを繰り返し、独特な世界観を産み出していた。そんな風にキャラクター達が息づく世界を夢想していた過去をいまでもありありと思い出せる。

同時に、僕はゲームも大好きだった。
特にRPG。ゲーム的な成長と、緻密に組まれた物語が融合したかのような世界が大好きで、毎日テレビにかじりついてはすぐに感動していた記憶がある。

いつか、僕にもゲームが作れたら。
誰かを感動させられるような物語が作れたら。

……なんて思って、小学生の頃は過ごしていたが、中学にあがったあたりで「創作なんてしてないで、早く就職して自立しなきゃ」と思い始めていた。
現実はそこまで甘いもんじゃないとすぐに悟っていたのだ。

というのも家はそこまで裕福ではなく、ライフラインは基本的にほとんど止まっているような生活を送っていた。

そんな訳なので、「18になったらさっさと出ていけ!」と母親に口酸っぱく言われていた。子供で甘ったれな筈なのに、社会のなんたるかを一切教えられずに蹴っ飛ばされたのである。

結果、焦りとストレスで高校にはいかず、中学卒業後からはすぐに働いた。
10~12時間労働、28連勤がごく普通になっている宿泊施設。バイトの人は来てもすぐに雲隠れするような場所。
なによりお給金は6万と5千円ちょい。案の定4ヶ月でメンタルを壊し、躁鬱と診断された。

身体は動くことを許さず、大好きだった創作すらもできない。
夢はここで、一度途切れたのだ。

診断を受けたものの、経済的な理由もあって治療は続けられなかった。自力で躁鬱と向き合いながら、仕事を転々とする日々。
出口の見えない暗闇の中で、ただ生きることだけに精一杯だった。

そんな僕を救ってくれたのは、SNSで出会った方から教えてもらった「TRPG」という存在。今流行りの「クトゥルフ神話TRPG」というシステムのシナリオだ。

はじめて遊んだゲームに、僕は大いに心を動かされていた。
制作者が考えた一つの物語を、みんなで共有しながら結末を見届けるという遊びの、なんたる楽しさ!
笑ったり、泣いたり、怒ったり。非日常を感じながら感情を揺さぶられる心地よさ! すごい! 僕もこんな風に物語を作りたい!

大いに感動し、大いに驚き、僕は途切れてしまった夢を思い出した。

自分の書いた物語でみんなを幸せな気持ちにしたい。
自分の考えた世界観で非日常に連れてって、知らない感情を揺さぶってあげたい!

人はきっとそれを「感動」なんて呼ぶ。
僕はたくさんの人の心を動かしたい。どんな形であろうと、色んな感情を想起させてあげたいんだとその時気づいたんだ。

それからは、時間の許す限りとにかく沢山シナリオを書いて公表した。
どんなシナリオがみんなの心に刺さるのか、どうしたら喜んでくれるのかを沢山研究した。

反応を見ては描写や言葉を変えてみたり、場面の転換をがらっと変えたり。
ある時はどんなシナリオが流行っているのかどうかを入念に調査した上で描きたいものを書いてみることもした。

研究してテストプレイを続けていくうちに、自分の周りの人が喜ぶような、面白い作品を産み出せるようになった。
褒められるようになった。
少しバズって、ちょっとした人には見てもらえるようになっていた。

もっと頑張んなきゃ。もっと僕の作品を伝えるために努力しなきゃ。
沢山の人にシナリオを回して、もっともっと、有名にならなきゃ。

この時の僕はまた焦っていた。
同人的に活動しているだけじゃ食っていけないから。
早く有名になって、知名度を上げて、作品だけで食っていけるようにならなきゃと必死だった。

度重なる疲労と休みのない日程。常にカンヅメ状態で家にいる毎日。
気付けば僕は再び精神を壊し、休業宣言からのアカウント消去まで踏み切っていた。

全てに疲れ切ってしまって、きっともう少しでつかめていたはずの“望んだ未来”を手放してしまったのだ。

アカウントを消して、なにもやることがなくなって。
穏やかな日々が続いたけれど、代わりに空虚な毎日が押し寄せるようにやってきていた。

何もしないこともつらい。なにもできずにいる自分が一番つらい。
僕はこの先どうしたらいいんだろう。何をしよう。

色々とぐるぐる考えながら過ごしていたけれど、自分の指は自然とシナリオを書いていた。
人の心を動かすような物語をまた書こうとしていたのだ。
我ながら、シナリオバカだなぁ……と気づいたのもこの頃だったと思う。

そして、2023年の2月28日。初めてTRPGに触れて感動した日と同じ日に、名前を変えて再始動したのだ。
名前を変えているものの、久々にシナリオを公開したとき、「ああ、またこの舞台に戻ってきたんだな」と感慨深くなってしまった。

今度はSNSをほぼやらず、自分の筆だけでどれだけの人を楽しませられるかなと、挑戦にも似た面持ちで月に一回投稿を行っている。
シナリオからイラスト、ココフォリアの制作まで一人で行い、短編はなるべく安価に、長編シナリオは本編自体無料で頒布しているので、よければ見て欲しい。

原動力は今も変わらない。

それもあの日、精神を病んでいた時に「TRPG面白いよ」と誘ってくれたように。僕のシナリオが何か誰かの日常の糧になってくれていますようにと願いながら。

ただ、正直毎日が赤字運営だ。
でも少しでもシナリオを広められるなら。
僕の夢を、願いを届けられるのであれば少しムチャでもやってしまうのだ。

ともあれ、あと一年続けてみて生活の基盤さえ整えられないような状況に陥ったときは、僕は夢を諦めざるを得ない状況に立つのだろう。

そんなのは嫌だ。
嫌だから、物語を書き続けている。
せめてもの抗いだ。悪あがきだ。

正直今の自分もだいぶ焦っているのかもしれない。
でも僕は決めたのだ。絶対に自分のシナリオを一人でも多くの人に届けて、いろんな「思い出」を作るお手伝いをしたいのだと。
仲間と作る物語の面白さをもっと広めたいのだと。

ぜんぶぜんぶひっくるめて「みんなの心を豊かにしたい」のだ。
そんな願いで僕は今、筆を握っている。

今は願いが叶いにくい場所に立っているのかもしれない。
けれど、力をつけていって、自分の作品が見られるようになったら。
有名な配信者様が僕の作品に気付いて、回してくださったら。
そうしたらきっと、僕の夢は、願いは叶うのかもしれない。

ただ、多くの人が掲げているような「人の為」になる崇高な夢ではないと十分理解している。でも、僕はこの夢を叶えたい。

人に感動を届けることこそが、僕がここにいる理由だから。

いいなと思ったら応援しよう!

Kidus(キドアス)
お高いイスを買うのに使います。