ただの思いつきを企画に変える「文脈化」という考え方
こんにちは、発明家の高橋鴻介です。
仕事で、作品制作で、プライベートで。
アイデアを考えるタイミングはたくさんあると思いますが、
そんな瞬間ってありますよね。
私も新卒時代、広告代理店の新入社員としてアイデアを通そうと頑張っていた頃を思い出します。
その頃は、どうやったら先輩たちを納得させられるか悩んでいました。毎日のようにアイデアをプレゼンしてみるものの、先輩たちからは何の反応もなく、ほとんど提案が通らないままゴミ箱へ…というのが日常でした。
でも、アイデアの「文脈化」を意識するようになってから、企画が驚くほど通るようになり、しかも企画そのものがより膨らむようになっていきました。
今では、なんと考えたプロダクトが区役所に導入されるようになったり、商品化され、海外で売られるようになったりしています。
今回は、そんなアイデアを育てる「文脈化」という方法について書いてみようと思います。
これは、思いつきのアイデアに「どんな文脈を付け加えるか」を考え、実現可能な企画に変えていく方法です。簡単なようで奥深い、けれど強力な技術なので、ぜひ皆さんも試してみてください。
アイデアと企画はなにが違う?
まず最初に、アイデアと企画の違いについて考えていきたいと思います。
「アイデア」とは、辞書を引いてみると、
と書かれていて、ひらめきとして出てきた瞬間的な発想のことを指しているとわかります。つまりアイデアとは「思考の断片」にすぎないのです。
では「企画」はどうでしょうか。
つまり、何かしら思いついた「アイデアを実現可能な形にしたもの」のことを企画と呼んでいるということがわかると思います。
思考の破片であるアイデアをどうやって実行可能な企画にするのか?というときに効いてくるのが、今回話したい「文脈化」という方法です。
極論を言えば、自分は企画に必要なのは、「良いアイデアではなく、良い文脈なのではないか」とすら思っています。
文脈化の基本:2つの文脈を意識する
「文脈化」とは、前述の通り、思いつきのアイデアに「どんな文脈を付け加えるか」を考え、実現可能な企画に変えていく方法のことです。ここでは私が企画を考えるときに意識している2つの文脈について書きたいとおもいます。
私が特に意識しているのは「パーソナルな文脈」と「ソーシャルな文脈」の2つです。この2つの文脈をアイデアに接続することで、一貫したストーリーが生まれ、より強く、伝わりやすい企画に変わっていきます。
1. パーソナルな文脈
パーソナルな文脈とは、アイデアを「自分の感情や経験」に結びつけることです。
例えば、
など、自分のリアルな文脈からスタートします。
自分のリアルな体験から出発するアイデアというのは、やはりとても具体的で、説得力が増し、何より少なくとも1人そのアイデアを必要としている人がいるという納得感があります。そして、その文脈があるとないとでは、大きな違いが生まれます。きっとそれを語ることで、ぐっと他者から共感されやすくなるとおもいます。
また、私はこうしたパーソナルな文脈が、企画のオリジナリティーととても強く紐づいていると思っています。
自身のプロジェクトを例に挙げると、小学館さんと一緒につくった『たっちまっち』という触覚カードゲームがあります。目を閉じた状態で、同じテクスチャーのカードを探すというシンプルなゲームです。
これは盲ろう者(視覚と聴覚に障害がある人)の触覚デザイナーであるたばたはやとさんとのコラボレーションで生まれたものですが、もともとは私自身がはやとさんと仲良くなりたくてつくった遊びのプロトタイプがベースとなって生まれてきた企画です。
最終的には、はやとさんの記憶をもとに採用する触覚カードを選んでいて、僕のパーソナルな文脈と彼のパーソナルな文脈がかけ合わさったプロダクトになりました。ルールもわかりやすく、障害の有無はもちろん、言語にも依存しないので、僕もはやとさんも、色んな場所に持っていって、様々な人と一緒に楽しんでいます。
つまり、
といった視点からスタートすることが、企画をオリジナルなものに変え、自分が人に説明するときのストーリーを生み出し、人の心を動かす力を与えてくれるのです。
2. ソーシャルな文脈
次に、ソーシャルなコンテクスト、つまり「アイデアが社会全体とどうつながるか」を考えます。
実は順番も結構大切です。私個人の経験になりますが、最初からソーシャルな文脈を意識しながらアイデアを考えると、一般的な視点になり、あまり企画がオリジナルなものにならない気がしています。
例えば、先ほどのたっちまっちであれば、『触覚という感覚はすべての人にとって楽しいはずだ』という点で社会と接続します。より多くの人と楽しさを共有できるゲームがあれば、きっと今までよりも多くの人と仲良くなれるはずだという、ソーシャルな文脈が生まれたのです。
ここで大事なのは、自分のパーソナルな文脈を「実は、他の多くの人も感じていることなのでは?」という視野から見つめ直してみることです。
例えば、あなたが抱えている悩みが、多くの人の共通の課題ならば、その解決策は社会的な意義があるもの、つまりソーシャルな文脈があるものに変わります。
それはもちろんとても大きな社会課題である必要はありません。小さなことでいいから、他者と共感できたり、共有できる文脈を探してみましょう。
まとめると
ということになります。
文脈化から生まれるのは、「自分はこう感じた」というパーソナルな話からスタートして、「それは自分だけの話じゃなくて、きっとこういったところで社会と接続しているはずだ」という、自分の視点から社会に対して提案をするためのストーリーです。
それはある種、自分と社会を接続するための文脈を作っているということでもあると思っています。これは、社会の最小単位である自分自身が、社会とのつながりを発見するストーリーでもあるのです。
その他の文脈化の方法論
「パーソナルな文脈」と「ソーシャルな文脈」。この2つが基本ではありますが、もちろん、私が企画をつくるときに用いている「文脈化」の手法はこれだけではありません。私自身が使っている方法をいくつか紹介します。
1. 「起源」を探る
これは、企画を必要としている商品、文化、人の「起源」を考えることから文脈を探していく方法です。
アイデアを深める時に、「そもそもこれってどんな背景があって生まれたのだろう?」と問いかけてみると、そのアイデアの原始的な意味や生まれた歴史背景が見えてくることがあります。
例えば、『コジマプロダクション』という会社があります。
メタルギアソリッドシリーズや、デスストランディングなどを手掛けた名実ともに日本で最も有名なゲームプロダクションの1つです。
その会社は「私たちは、ホモ・ルーデンス」というメッセージを掲げていて、「人間は遊ぶ存在(ホモ・ルーデンス)であり、人類が育んだあらゆる文化はすべて遊びの中から生まれてきた」と主張するオランダ人歴史家のヨハン・ホイジンガの言葉を引用しています。
我々の文化はもしかしたら遊びという行為から進化したのかもしれないという説を聞くと、遊びという行為の意味が、子供じみた軽いものではなく、もっと意義のある重厚なものに見えてくるのではないでしょうか。「人間本来の」「本能の」といった起源に文脈を持つ企画はとても強く、意義深く感じられるようにおもいます。
2. 「場所性」を探る
次に紹介するのは、企画を必要としている商品、文化、人に関連する「場所」から、文脈を探していく方法です。
それはどの場所で生まれたのか。その国のどこの地域で生まれたのか。同じアイデアでも、根ざす地域や文化によって異なる価値や意味が込められるということが多いので、 その新しいアイデアがどこで1番意味を持つかということを考え始めると、より豊かなストーリーを持つ強い企画へと変わっていきます。
例えば、『AFRIKA ROSE』という会社があります。六本木ヒルズなどにも店舗がある人気のフラワーブランドです。
AFRIKA ROSEは、ケニアのバラ農園から愛情を込めて育てられたバラをフェアトレードで日本に直輸入しているライフスタイルブランドなのですが、「アフリカ産」という文脈がとても良く作用していて、「アフリカの大地が育んだ生命力豊かなバラ」を売りにしています。
この言葉を聞くと、みずみずしく長持ちする鮮やかな薔薇のイメージを想像しますよね。背景にある場所性が、アイデアをより強くしてくれる企画の好例です。
僕が使っている方法はこれ以外にもありますが、おそらくこの文脈の作り方には1人1人にとってオリジナルな方法があると思っています。
例えば、
アイデアに接続できる文脈は無数にあります。
なので、自分なりにこういう文脈を語ることができるというポイントを考え始めてみると、いろんな文脈を作ることができるのではないでしょうか。
文脈化のもつ、さまざまな効能
文脈化ができるようになると、アイデアを企画に変えるだけでなく、他にもいい効能がたくさんあります。
1. 企画を選びやすくなる
「よい企画は、枝葉が伸びやすい」と会社員時代の先輩に言われたことがあります。アイデアは選ぶフェーズが難しいものですが、その「枝葉」としての文脈を見ることで良い企画を選びやすくなると思っています。
とてもシンプルな例で言えば、若者向けの企画なら若い人に刺さりそうな文脈がより多く紐づいた企画を選ぶという方法が考えられます。
「決め手に欠ける」といったときには、アイデアそのものではなく、その枝葉としての文脈を考え、そこから選ぶことが、進むべき方向性を選ぶ助けになってくれるはずです。
2. 企画が広がっていくようになる
また、様々な文脈で語れるアイデアは世の中に広がっていきやすいという側面もあります。
一つの企画であっても、
といったように、様々な視点の文脈があることで、そのクラスターの人たちの言の端に上りやすくなるという利点があります。
そういったフックアップしてもらうための「フック」をたくさん生み出すという意味でも、文脈化することには重要な効果があるのです。
3. 企画を育てられるようになる
私が広告の会社にいた時、そこにはとても素敵なクリエイティブディレクター(CD)がたくさんいたのですが、中でも「これからもずっと一緒に仕事したい!」と思ったCDさんは、「文脈をたくさん見つけてくれる人」だったように思います。
思いつきのアイデアを出した時に「それ面白いね、実はこういう文脈があってね」「こういう文脈を繋げるとよりいいものになるかもしれない」というように、思いつきのアイデアにたくさんの文脈を接続し、広げてくれる人が一緒にいると、今までだったら捨てられていたアイデアも、いい企画に育つのだと気づかされました。
あなた自身が、文脈を紡ぐことができる人になることで、今までだったらアイデアが生まれなかった場所を、アイデアが生まれる場所に生まれ変わらせることも可能なはずです。
思いつきを企画に変える力が、社会を変える
文脈化という技術によって、思いつきの「アイデア」を考えるだけで終わらせるのではなく、多面的な視点で育て、実行可能な「企画」に変えることができます。
これはもちろん、全く新しい技術ではありません。
例えば音楽なら「サンプリング」という文化があり、過去の音楽の文脈を再構成して新しい曲を作るという行為に昇華していますし、時代を遡れば「連歌」と呼ばれる相手が書いた短歌の文脈から新しい短歌を紡ぐという行為も存在します。
創造的な行為をするときに、「文脈化」を頭の中においておくだけで、自分だけでは生まれてこなかったような新しいものが生まれてくると思うと、ワクワクしてきませんか?
そして、最後になりますが、私自身が1番意識してるのは、やはり「パーソナルな文脈」です。その文脈は、その人自身のオリジナリティを象徴するものだと思っています。逆に言えば、自分の文脈を探す行為自体が、自分の中にあるオリジナリティに気づくことでもあるのです。
あなた自身のオリジナルな気づきが、社会と接続する瞬間。それこそが社会をより良い場所に変える、一番の原動力になるのではないでしょうか。