「アタオカ」

週中の都内近郊
時間は午後6時を過ぎていた

ケアマネを降ろして
看護師と次の現場に

住宅街の細い路地をクネクネ
辺りは真っ暗
いきなり物凄いクラクション
ビーーーーー、ビー
どうしたの
前の車は女性
ノロノロ
仕方ないよ
スピード出すと
危険
譲りあいだから
止まった
信号は、赤 
すれ違うにもブツからないように
まだ、クラクション
物凄い

後ろの車
運転席の若い小柄な
看護師が、サイドミラーを
睨む

50歳代中ばの男性
アタオカ 
「アタオカ」
そう、アタオカ
普段はとても大人しい
振る舞いの看護師が
張りのある声で

「センセ、スマホで写して」
出来ない
振り向くのもダメ
学生時代から、
喧嘩はしない
出来ない

嫌だよ、怖い
看護師は、後ろを振り返ると
スマホを翳した
「大丈夫」
何かあれば、
アタシが守るから
戰うから
警察呼ぶから

煽り運転だ
ドキドキドキ

でも慌てない
前の女性のクルマも

まだ、鳴らしてる

センセ、ビビんないで。
来たら、わたしが対応する

窓開けないから

アタオカ

ずっーとだ
ヤクザとか
反社会とか

違う

普通の、おじさんみたい
メガネしてる

だから余計にタチが悪い
信号を、曲がって
別の方向に

アタオカと離れた
やった

なんだか
手に汗をかいた
揉め事は、いやなんだよ

でも看護師は度胸ある
喧嘩はしないが

売られたら、警察呼ぶから
戦うから
アタオカと遭遇

コンビニで
コーヒー呑んでひと息いれて
次の現場では

いつもの
柔和な笑顔の看護師に
戻ってました

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?