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田んぼを吹きぬける『長野県の風』を解明したい

風が冷えてきた長野県から緊急レポートである。

曇り空で風は強い。
こんな日の田んぼを吹き抜ける風は、どこか急かされるようでうっとうしい。

すると、あなたは。
私の憂鬱もおかまいなく「新米はおいしいでしょう~」と呑気にいうのだろう。

そりゃ、長野県に関係ない人だったら、私だって「ですよねぇ」とやさしく答えて、あとは「エヘヘヘ」と頭を掻いて笑っている。

しかし。
あなたという人は。
長野県に移住、あまつさえ家族で移住したいという。
しかも、米も作ってみたいし、牛も飼ってみたいという。

ホントにもう。
あなたは鳩ポッポだ。

いいですか!
農協の食い物にされるだけです!

機械を買わされ、手数料を取られるだけなんです!
ましてや家族で移住なんて狂気の沙汰!

いかん。
農協からの圧力がかかる発言だった。
移住ジャーナリスト(自称)として思慮が浅かった。

いま一度、冷静になって、現地の田んぼの状況をレポートしたい。

秋は忙しい。
まず稲刈り。

私が子供の頃の40年前は、家族全員で稲刈りをした。

そうすると。
また、あなたは。
「家族で働けて幸せでしょう?」と牛乳瓶の底メガネの小学校の先生と同じレベルの同意を求めてくる。

あのね、手伝いなんてものではない。
立派な労働力。
れっきとした児童労働。

でもイヤだとは思ってない。
ほかの家よりも、だいぶ手伝いが多いなという感覚。

で、稲刈り機がカシャーンとはじいた稲束を運んで “ ハザがけ ” をする。

“ ハザがけ ” とは、稲束を逆さに吊す作業をいう。

丸太を打ち込んで横棒を渡して稲束を逆さにかける。今は鉄パイプのセットがほとんどで、丸太を組んで “ ハザがけ ” しているのが珍しいくらい。 

集落によって名称は細かく異なっている。
ホゾかけ、ハゼかけ、ハサかけ、ハセかけ、ハデかけ、などなど。

NHKのニュースでは 『稲束を逆さに吊るす作業』とそのままいっていたから、それが標準だと思われる。

そのときに知ったのだけど、平野部では “ ハザがけ ” はやらないらしい。

なぜかというと、台風が来たら強風で稲束が舞い散ってしまうから。

ところが長野県の中山間地域では、山々によって台風の風は抑えられる。
なかなか暴風雨とまではいかない。

だから “ ハザがけ ” ができる。
それをすると米が旨くなるという。

で、 天日干しを2週間ばかりしてから、脱穀機だっこくき籾殻もみがらにする。

ところが、これがコンバインだったら。
稲刈りから脱穀まで一気にやって1日で完了する。

当時もコンバインはあったから、そっちのほうが手っ取り早いのに、なんで使わないのか父親に聞いたのを覚えている。

なんでも、コンバインだと稲穂が実って垂れる前に刈らないといけないから米の旨さが落ちる、といっていた。

しかし私は、ハザがけした米とコンバインで刈った米の旨さの違いが、ついにわからない。

そうすると。
グルメチックなあなたは。

「やっぱりさぁ~、ハザがけした米のほうが旨いに決まっているよねぇ~」などというのだろう。

うん。
ここで私がなにをいおうが、どうせ最後は食料自給率をいうのはわかっているからスルーする。

米の旨さについていえばだ。
現在は “ ハザがけ ” している田んぼのほうが少数になっている。

ということは。
米の旨さのちがいなど微々たるもので、それだったらコンバインでもいいという表れではないのか。

40年前は、すべてといってもいい田んぼが “ ハザがけ ” していたのだけど、もう数えるくらいしかやってない。コンバインであっという間に刈り取る。

さて。
写真など撮っていたら風向きが変わった。

この急に吹く西からの風。
山々にかかる雲に、湿り気を感じる風。
これは雨を降らせる風。

実家といえども、長野県に移住して丸3年が過ぎて、ようやく風がわかるようになってきた。

しかし、家族で移住をして牛を飼うというあなたには、これで話は終わらない。

稲刈りのあとの田んぼに残る稲藁を、1年分集めに行かなければならないからだ。

この頃に北風が強くなる。
冬が近づいていると急かせる風。

学校が終わった私は、2トントラックに親子3人で乗って田んぼを回って、藁を山ほど積み込んでロープをかける。

吹きっさらしの北風の中で、暗くなってもやる。
ぬかるんでいるから、タイヤが空転しないようにとトラックを押しながら田んぼを出る。

戻ってからは、大きな小屋の中に積み上げる。
1年分を積むまで何日でも続く。

そりゃ、5回か6回くらいだったら楽しいけど、ガンダムだって見れないし、20回も30回もやると嫌になる。

そんなことをしている子供は体だけは頑丈になるから、運動会の人間ピラミッドでは土台の要員として、あの牛乳瓶の底メガネは当然のように1番最初に指名してくる。

だから、家族で移住するのはともかく、田んぼや牛に手を出すなど狂気の沙汰だといっている。

そうすると、あなたは。
「だって機械化するもんっ」と、なぜか可愛らしくいうのだろう。

あのね。
いくら可愛らしくしても、あなたみたいな人は、ひょうろく玉と呼ばせてもらおう。

暗い話で申し訳ないが、厳しい現実として、厚生労働省の統計を挙げたい。

全産業の就労者で、自殺率がトップなのは農林水産業。
理由の1位は『経済・生活』と統計されている。

機械や設備で借金だけが増えて、果てに自殺する営農者がどれほどいるのか。
全国で1日1人以上のペースで推移している。

検索をすればいくらでも公表されているので、ここでの詳細は控える。

だからといってだ。
安い機械だと人の手がかかる。

どれくらい人の手がかかるのか?

私の父親は、朝5時には牛舎にいた。
搾乳して餌やりして10時から朝食。
それから糞尿の片付けをして、ダンプで捨てにいって戻ると昼。

午後は田んぼに畑。
まあ、たまには昼寝もする。

そして夕方5時からは、また餌やりして糞尿の片付け。
搾乳が終わって、牛舎から帰るのは9時過ぎ。

それを365日休みなく20年やっていた。

その分、収入があればいい。
でも当時から「牛乳は水よりも安い」と言っていたからタカが知れている。

でも、それをいう本人は笑っていて悲壮感などない。
「休みがほしい」なんて1回も聞いたことがないし、カゼや病気で休んだのも1回もない。

しょっちゅう意味不明な鼻歌をうたって働いているという、不思議といえば不思議な人。

とてつもなく頭がわるいのは間違いない。
でも「田んぼと牛だけはやるな」と言っていた。

だから頭がいいあなたには、田んぼと牛だけには手を出すなと繰り返し言っている。

考えてもみなさい。
家族旅行もできない。

その子供は海を3回しか見ないまま大人になるから、海の近くで育ったという女性がすぐ好きになって困ったことになる…て、それは私ではないかぁ!

いかん。
個人的な体験と昭和の状況で結論してはいけない。

長野県移住ジャーナリスト(自称)としては、最新のロジカルな結論にしなければ。

調査不足と勉強不足で、レポートが至らないのは認めたい。
令和となった現在では、農業の状況は大きく変わっていると補足もしたい。

ムダに理屈好きで、ヘンなところが真面目で、むっつりスケベだけは変わらない長野県人の努力によって、農業技術も経営手法も全国トップレベルに進んでいるとも付け加えたい。

私が確実にいえる結論は、ただ1点のみ。
親が働き者だと子は怠け者になる、か。

ということで、日も落ちて暗くもなったし、長くもなってしまったし、今回の緊急レポートを終えてオフィス(掘っ立て小屋)に戻りたい。

もうちょっとだけ追記がある。

私は、さも、現在も稲作をやっているかのようにレポートしてしまった。

実はまったくやっていない。
まったく。

というのも、実家には2枚の田んぼがあるが、専業の稲作農家に貸している。
地代として、月ごとに十分なほどの精米が届けられている。

30年前に、体をわるくして酪農も稲作もできなくなった父親が貸した。

自立経営しようとする農家に対して、農協の妨害が公然とあった頃にあえて貸した。

今、そこの経営者は息子の2代目になって、手腕を発揮して田んぼの枚数も販路も大きくなっているけど、創業のときに味方してくれた恩があるからと、米の値段が上がった今年も新米を届けるという。

これが高いのか、安いのか、適正なのか。

あれだけ家族で朝から晩まで働いたのだから、このくらい当然というようでもある。

あれだけ無休で働いたのに、今になって米が不自由なく食べれるくらいでは、いかにも安いようでも。

とはいっても元々あった田んぼだし、先方の創業の辛苦と稲作の手間を考えると高いようでも。

どうも判断がつかない。

だからというわけではないが、今回のレポート代の金額の判断は皆様にお任せしたい、…というお願いをして投稿しようと思ったら。

北からの風が急に強くなってきて、窓がガタガタする。
葉っぱでも当たるのか。
ガラスの向こうがトントンいう。

うっとうしい風。
40年前と変わらない急かせる風。

どこかの誰かが、そんなわけわからん作文なんか書いてないで額に汗して働け、そんな指先だけの機械なんて頼らずに自分で力を出して働け、働かざる者食うべからずだぞ、と言ってきている気がしないでもない。

んなわけない!
仮にもジャーナリスト(自称)ではないか!
詩人の真似事をぶちかましている場合ではない!

書き忘れていたけど、タイトルにある『長野県の風』とは、ただの自然現象。
気圧の変化でおきる。
ただそれだけ。

そこに人の気持ちなど、葉っぱ一枚分だって込められているはずがない。

それにテクノロジーの発達で、額に汗して働かなくても、力を出して働かなくても、誰もが食べれる新しい時代に変わると信じたい。

なんにしてもだ。
長野県に移住するのは、私の独自調査が完了してからでも遅くはない。

レポートの続きを待たれよ。

大俵一平

レポート作成に使わせていただきます。 ありがとうござます。