コアラのマーチ
夜中、目が覚めると隣に眠っていたはずの君がいない。トイレにでも行ったかなと思い、うとうとしていても帰ってこない。心配になって探しに行く。
また、眠れないのかな……
リビングの方に行くと、真っ暗な部屋で映画を見ている君を見つけた。眠れないの?と聞くとうなずく。
寝転んでごらんと言うと聞き分けの良い女の子のように、すっと寝転がる。僕は君の足元に廻り、そっと足の裏をマッサージしていく。そうするとたいてい、すぐに寝息を立てて眠り始める。
テレビの音量をミュートにして、無声映画のように映像だけが流れていく。
映画に照らされた君の寝顔を見ながら、寂しくなるような幸せを感じる。寂しさのすぐそばに幸せがあり、幸せのすぐ隣にまた寂しさがあるような気がする。ミルフィーユのように折り重なっているよう・・・
寝息のリズムに合わせて、だんだん指の力を抜いていく。そうした方が良い眠りになるのだ。強いところから急にやめると、目が覚めてしまう。離れていく心細さを感じないような加減で少しずつ力を弱めていく。
そうすると君は朝まで熟睡できる。
僕はベッドに戻らずに君と並んで冷たい床で眠る。
見ていた映画はどうやらサスペンスものだったみたい。これでは逆に眠れないよ・・・と思わず突っ込みを入れたくなった。翌朝また、怖い夢を見た話をうれしそうに話してくれるだろう。泣いたり喚いたりするくせに。怖い夢の話をしている姿は活き活きとしているように見える。
僕は深刻そうに聞きながら、うれしくなってしまう。
夜中にマッサージした翌日には、なぜかいつもコアラのマーチを買ってきてくれる。ありがとうねとの言葉も無く、ただポンと置かれている。それはありがとうの印であるから、黙って頂くことにしている。机の引き出しには、コアラのマーチがまだ4箱ぐらいストックされている。
なんでコアラのマーチなんだろうということは謎である。君にコアラのマーチが好きだとはひと言も言ってないはずだけど……
でも、大好きである。