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おおたさんの話 #07
宿について落ち着くと、わたしは子どもたちを連れて近くまで散歩に出ました。
ここの宿の表にも、さきほど宿のご主人から、ちょうど飾りつけを今朝からはじめたとお聞きした、七夕の笹飾りが並んでいました。温泉街を車でのぼってくるあいだも、道沿いの旅館や、ホテル、店の前などに、七夕の笹飾りが出ているのを見かけたところでした。
それに、宿からすこしくだったさきの広場には、町と温泉街で用意した、ひとまわり大きな笹飾りがあるといいます。宿にあった折り紙や、短冊は、飾りに折ったり、願いごとを書いたりして、七夕の笹飾りに、おもいおもいに飾ってもらいたいということでした。
星の形に折った星かざりや、色とりどりの吹き流し、にぎやかに輪っかをつないだ輪かざり、枝に渡したあかるい色の網かざり。そうして、──あそこに、三角の折り紙をつなげたのがあるといって、上の子がさきに見つけた三角のつづり。三人でそれから、四角い折り紙をつなげたものと、扇の形に折ってつなげたものも見つけた、ひし形のつづりと、扇のつづり。
午後もおそくなって、つよかった日差しもやわらぎ、だいぶ過ごしやすくなってきた夕方まえの時間でした。ときおり、忘れたころになってまた聞こえてくる、ひぐらしのカナカナいう鳴き声を待って、子どもたちふたりと耳を澄ませていました。そうして、わたしたちはそれから、ふと、三人でじっとなにを待っているのか忘れたころになって、遠くの方でひぐらしが鳴いているのを、下の子がさきに気づいておしえてくれました。それから、枝なりに扇のつづりが垂れているさきの、青い笹の葉のあいだに、折り鶴や、短冊が糸で結んであるのを見つけました。赤い折り紙で、上手に金魚の形に折ったものや、くす玉、貝がら、提灯の形に折った飾りも笹に吊ってありました。ほかにも、まだ見つけられていないだけで、七夕の笹飾りのどこかに、織姫と、彦星の飾りもあるのでしょう。
わたしたちも、宿でいただいた折り紙で折ってきた、黄色と橙の折り鶴を持っていました。
三角に折るのはきれいに折れても、袋に開いて折ったり、めくって折り上げたりするのは、ふたりにはまだすこし難しかったようですが、子どもたちも折り鶴を上手に折ることができました。風が吹くと、笹の葉が波うつように揺れて、七夕の飾りもさらさらと涼しげな音をたてていました。遠くの方で、ひぐらしがまた鳴きはじめるのが聞こえてきました。お腹の下の穴から息を吹き込んで、わたしはふたりの折り鶴の羽をひろげてあげました。
いそぐことはないけれど、この折り鶴を笹の葉に飾ったら、残りのお餅も食べてしまって、お父さんを迎えにいちど宿にかえろうとふたりにいいました。途中でもういちど、さっきのお店に寄って、お土産にこの温泉餅を買ってかえりましょう。
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