2DK part6【短編小説】
前作を読んでからお読みください
16.墓参り
「ねぇ、一緒に長崎に行って文乃に逢いに行かない?」
そう言い出したのは雪乃さんからだった。
「お父さんがいるから長崎に1人で行くのが怖くて、一緒に着いてきてくれないかな?」
そう僕に言った。僕は夏季休暇中だったのでそれにのることにした。羽田空港から長崎空港までの間は短かったように感じる。文乃さんのことを思いながら思い出に浸っていたので、もっと余韻に浸りたかったのだろう。
「長かったね」
と雪乃さんは言う。きっと僕とは違う、覚悟を決めて来ているのだろう。
長崎空港からはレンタカーで雪乃さんが文乃さんのお墓まで連れていってくれた。そのお墓は落ち葉が沢山あり、失礼ながらも綺麗な状態とは言えなかった。
「お母さん、ヒステリック起こしてさ、文乃はまだ生きてるって行って、お墓参りに来ないんだ。お父さんは勿論来ないよね。こんなに荒れちゃった。文乃は死んでも綺麗にされなかったんだね。」
そう言って雪乃さんは泣いていた。自分の初恋の相手がどんな人なのか、全然分かっていなかった。きっと奈々さんのことも、全然わかっていないのだろうと、奈々さんと重ねてしまった。
雪乃さんと2人でお墓掃除をした。そして文乃さんが好きなゆりの花をお供えした。
「文乃、もう大丈夫だよ、向こうで好きなように生きてね。」そう雪乃さんが言った。僕は何も言葉が出なかった。やっぱり面と向かって墓がてきていて、本当に死んでいるのだと実感するのが辛かった。何年越しにだって話だけど。
「あいるー、元気?元気じゃなさそうじゃん!そういう時はアイス食べたらいいよ!私は大丈夫だから、心配しないでね!君は私よりもっともっと長く生きるんだぞ!」
どこからか声がしたような気がした。
「雪乃さん、何か言いましたか?」
「え、なにも?」
気の所為だろうか、それとも....。
17.逃走
長崎の待ちを雪乃さんと回っていた。
「ここ、私たちの高校だね。懐かしいな〜。役者しながら単位貰うの精一杯だった!全然行事に参加出来なかったしな、、、。」
そう雪乃さんが伸びをしながら言っいた。僕は生徒会室に籠る生活をしていたので特にこれといった高校の思い出の何かはない。強いて言えば文乃さんがいた日常だ。そう考えながら歩いている時だった。
「雪乃!お前どこいってたんだ!」
怒鳴り声が後ろから聞こえた。
「やばいどうしようお父さんだ。」
と小声で囁く雪乃さん。
「お前がいなければ誰が俺の相手をするんだ。」
考えなくてもわかる。性暴力だ。雪乃さんはお父さんに捕まってそのまま家に連れ去られようとしていた。
「あいるくん、助けて!助けて!」
必死になってお父さんに立ち向かったか、自分が跳ね返られるだけだった。どうすれば雪乃さんを取り戻せるだろうか。
「雪乃さんは、僕の彼女です。返してください。同棲もしてます。」
逆鱗に触るかもしれないが、一か八かそう言った。
「雪乃!誰かのものになったのかお前は!」
そうお父さんは怒鳴る。そういえば、高校生の頃に文乃さんは「私、彼氏作れないんだ。お父さんが怒るから。」と言っていたことを思い出す。あぁ、そういう事か。胸糞悪い。
「誰かのものと性行為をするのは嫌ですよね?自分のものでありたいんですよね?だからもう雪乃さんはあなたのものではありません。返して下さい。」そう言って強引に雪乃さんを連れて走り回った。記憶が無い。気がついたら空港まで来ていて、そこから僕の家にたどり着いていた。2人とも無言だった。話したいことは沢山あったが話せる空気でもなかった。
「うち、2DKなんで部屋2つありますよ。だからゆっくり寝ていってください。まあひとつは奈々さんのなんですけど。」
ずっと二人でいたのに何時間ぶりのことばがそれだった。
「ありがとう。連れ出してくれて。」
「いえ、とんでもないです。」
「実はさ、私事務所にいたこともバレちゃって、毎日ホテル廻って生活してたんだよね。」
「じゃあ、うちに泊まりますか?」
「え、いいの?」
「奈々さんが、退院して帰って来るまでですけど。」
「奈々ちゃんに後で伝えとかなきゃだよね!」
それから、雪乃さんと二人での生活が始まった。
18.2人の空間
雪乃さんとの暮らしは楽しかった。朝ごはんや夜ご飯は雪乃さんが作ってくれた。雪乃さんは在宅ワークを始めたらしい。僕が出勤の日には必ずシーシャバーに訪れた。もともと、タバコが好きだったらしく、今は辞めたけれどニコチンを摂取しにシーシャバーに来ているらしい。2人で帰って、ご飯を食べて、幸せだった。雪乃さんが眠っている姿を見て、これは恋なのではないかと思ってしまった。僕には奈々さんがいるのに。人間学的には一度に2人を愛することが出来るなんてよく言うけれど、このままでいいのだろうか。そう過ごしていた。
19.恋と過ち
ある日シーシャバーで勤めていると、雪乃さんがいつものようにきた。しかしいつもとは様子が違った。シーシャバーで大量にお酒を頼んでいた。正直驚く程に。何かあったのだろう。帰り道、話を聞いた。
「何かありましたか?」
「痴漢に遭ったの。」
なるほど、なんとなく察した。PTSDだ。だけど頑張って僕の勤務先まで来てくれたんだ。
「それで、お父さんのこと、思い出して、、、」
「もういいですよ、無理に話さなくて。」
雪乃さんはないていた。ハンカチを渡すことしか出来なかった。もう二度と雪乃さんが性被害で苦しまないように願いながら2人で帰っていった。酔ってるのもあるのか、雪乃さんは僕にベッタリとくっついてきた。その晩も雪乃さんは僕にくっついたままだった。
「寝ますよ?」
「嫌だ。」
「僕のベッドはこっちですから。」
「じゃあそっち行く。」
「雪乃さんには珍しくわがままですね。文乃さんみたいになってますよ。」
「だってあいるくんと寝たいの!」
そうやって好きな人にあまえられてしまったらおかしくなってしまうじゃないか。自分の身体が火照っているのを感じた。
「ねぇ、お願い。お父さんの分と痴漢された分、塗り替えて。」
そういって肌着を脱いだ雪乃さんは美しかった。2つの膨らみのまんなかにある薄紅色の宝石が、僕を誘ってくる。2人とも服を脱いでしまった。
雪乃さんの禁断の淵に自分のモノが貫通していく。欲望の粘液がとろけ出して飛んでしまいそうになる。そのときだった。
「な、、っ、、奈々さん」
やってしまった。口から出た名前は雪乃さんではなく奈々さんだった。
「そっか、あいるくんは奈々ちゃんが今も好きなんだね、ごめんね。」
そう言って雪乃さんは服を着て自分の部屋に戻った。
「今までありがとうね」
そう言われた。嫌な気配がした。それは当たった。明け方、雪乃さんは僕の家から出て行った。
僕はまた、2DKで1人になった。
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