2DK part1【短編小説】
プロローグ.出会い
中性的な容姿をした彼女は、ズボンのスーツで入学式に現れた。事前にTwitterでやり取りをしていて、看板の隣で会う約束をしていたのだ。
「あ、Twitterでやりとりした教育学部中学理科コースのアイルくん?本物だ!宜しくね!ねぇ、アイルって本名なの?」
彼女が僕に話しかけてきた。初めての会話だった。
「あ、、、こんにちは。松下愛琉です。よろしくお願いします。えっと、奈々さんで合ってますか?」
「そう!私白河奈々!へぇ〜、愛琉っておもしろい名前!宜しくね!私実験とか凄く不安でさ、、、、、特に物理。ねぇ?物理得意?」
「まあ、、物理受験だったし得意な方ではあったよ。」
「ほんと?これから宜しくね!」
そう言って手を握ってきた彼女に、僕は魅了されてしまった。手を離し、
「じゃあ、講義でね!」
と去っていく彼女の短く麗しい髪が靡く。
一目惚れだった。これが恋心だと気づくのはまだ先の事だけど。それ以降彼女のことが忘れられなかった。
1.告白
入学式から1週間も経たずに授業は始まる。奨学金生活でバイトもまだしていない僕は部屋を借りることが出来ず、大学の宿で暮らしていた。この一週間はワクワクした気持ちでいっぱいだった。Twitterで同学校の人を探し、ある程度友達もできた。その友達とカラオケで学割を使ってははしゃいだり、大学の図書館で専門の物理の本を読んだりして直ぐに1週間は過ぎた。そして何より、あの魅力的な彼女と同じ学校生活を送ることに期待をしていた。
やっと講義が始まった。僕の学科は基本みんなが同じ単位を取るので、彼女にも会えるだろう。そう思い、胸が高まるのを感じた。うちの学科は14人だった。女4人に男10人という少ない人数。奈々さんはその中の1人だった。気が付けば奈々さんのことを目で追ってしまう。最初は自己紹介から始まった。教育学部らしいなと思った。
「学生番号18411松下愛琉です。得意科目は物理です。高校の時は生徒会をしてました。よろしくお願いします。」
面白い自己紹介が出来ぬまま、次の人に続いていった。
「学籍番号18412白河奈々です。実は高校時代は文系で、得意科目は世界史でした。浪人して理転しました!高校の頃は演劇部でよく王子様役をやってました笑。宜しくお願いします!」
奈々さんの自己紹介で、浪人していたことを初めて知った。王子様役の奈々さんはなんてお似合いなのだろうか、そう想像してしまう。
奈々さんは普段女子と一緒に行動していたので入学式以降話す機会がなかった。幸い、学籍番号が奈々さんと僕は前後であった。そのため学籍番号順に並ぶ授業では隣で受けられた。地学の授業で奈々さんは僕の裾を掴んでこう言ってきた。
「あのさ、教科書、忘れちゃった笑。一緒に見せてくれない?って、こんなの、高校生みたいだね、青春てきな??」
両性的な美貌を持つ奈々さんからこんな可愛い言葉が聞けるとは思わず、ずっとドキドキしていた。この音は奈々さんに聞こえていないだろうか?そう思いながら授業を受けていた。勿論内容は頭に入っていなかった。
その日の帰り道。みんなでご飯に行く流れになった。しかし奈々さんは直ぐに帰る様子だった。
スタスタと駅に歩いていく彼女が放っておけず、走って追いかけた。
「どうしたの?」
そう声をかけると
「私、群馬から新幹線で通ってるの。だから今日帰れなくなっちゃう。」
「え?群馬からここまで?時間かかるでしょ!大学の近くにすまないの?」
そう話すと彼女は暗い顔をした。
「ねぇ、何話しても引かない?」
どんな言葉が来るのだろうか。怖いけれども覚悟を決めて続きを聞こうと思った。
「引かないよ。聞かせて。」
きっと真剣な眼差しをしていたのだと思う。
「私ね、双極性障害なの。オーバードーズもしちゃって、腕もリスカだらけで、、、。だから実家で誰かに看護して貰わないと暮らせないの。だからこの大学から新幹線で通ってるの。」
「ごめんね、会って間もないのに急にこんな話して。でも大丈夫、君には迷惑かけないから。私は大丈夫だから。心配しないで。ほら、みんなのご飯間に合わないよ?行ってきな。」
そう言って彼女は駅の改札の中へ入っていった。
彼女を追いかけたかったのに、その勇気が今の僕にはまだなかった。
2.夢
夢を見た。高校2年生の時の出来事。生徒会書記だった僕は、夏休みの間も学校に行き、生徒会室で勉強をしていた。僕の学校は文化祭が有名で
特に3年生は演劇をメインとしている。16時になる。文化祭準備が終わる時間で、この時間になるといつもあの先輩がやってくる。
「うわーん!疲れたよー!!アイルー、生徒会室にアイスある?」
この先輩は文乃先輩。一個上で、生徒会会長をしている。
「先輩は今日もまた演技指導ですか?」
「そう!役者・脚本・監督を任されちゃったからね!私が頑張らないと!」
文乃先輩は限界を知らない。無茶ばかりする。
「私子役やってたからさ、みんな頼ってくれるんだ!私が頑張ってみんなの期待に応えないと!」
そう笑顔で文乃先輩は話していた。この人は何も知らない。SNSで自分の悪口が書かれていることを。
「今日は生徒会の仕事もう終わってますよ!帰りましょ!」
「え〜せっかくお菓子食べようと思ったのに〜」
そう言って2人で帰宅した。先輩と別れたあとの電車でTwitterを開く。恐らく文乃先輩と同じクラスの人であろう、アカウントの数々。
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まじあいつなんなの?自分が子役だったからって調子乗ってムカつく。
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アイツが居ない時に練習して、本番でアイツ困らせてやろうぜ
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いいね、それ、面白そう!学校後みんなで練習しようぜ。
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あの子なんかいない方がクラスがまとまるのに。
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所詮子役で売れなかっただけでしょ?でかい顔すんなよ
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クソ子役生徒会長死ねよ。
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永野文乃死ね
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あの人はこんなこと言われてるのにクラスの為にと一生懸命頑張っている。
次の日、彼女は過呼吸を起こしながら生徒会室に来た。
「私ね、クラスのみんなに嫌われてるみたい。あはは。私以外のLINEグループが出来たんだって、笑っちゃうよね。私が悪いなぁ、、」
そう言って彼女は倒れた。彼女は双極性障害とパニック障害と診断された。それから卒業するまで彼女が学校に来ることはなかった。1年が経ち、僕が高3の夏に彼女から一通のLINEが来た。
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今までありがとう。サヨウナラ。
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彼女は鬱に耐えきれず、踏切に飛び込んでこの世から消えていったそうだ。
夢から覚める。どうして急にこんな夢を見たのか分からない。あれは、遅い僕の初恋の人だった。そして奈々さんのことを思い浮かべる。文乃さんと同じ双極性障害。きっとなにか原因で心に辛いことを抱えている。いつ消えるか分からない。だから、僕は奈々さんを守ると心に誓った。
3.誓い
次の日。大学の講義で奈々さんを見かけた時に違和感を感じた。やけに長いカーディガンで、左手を意識している感じがしたからだ。怖い妄想をした。まさかと思ってLINEをする。
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奈々さん、話したいことがあるんですけど、このあと時間いいですか?
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いいよ〜ローソンの前の前の座るところでい?
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了解です!
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「どうしたんだい?急に話したいだなんて。」
凛とした姿で現れた奈々さんは、何事もないかのような顔をしていた。しかし、左の手首を少し気にしているように見られた。
「奈々さん、左手首見せて貰ってもいいですか?」
「え、、、、」
奈々さんはびっくりしたような、少し怯えたような表情を浮かべていた。
「見せなきゃ、ダメかい?」
「見たいんです。」
そう言うと、、カーディガンを捲って左手首を見せてくれた。そこにはカッターで何回も傷つけた跡があった。
「昨日まではなかったですよね?」
黙り込む奈々さん。
「いつ、やっちゃったか、聞いてもいいですか?嫌なら答えなくても大丈夫です。」
沈黙を続けながら、奈々さんは下を向いていた。
ゆっくり、口を開こうとしていた。
「しんかんせん」
小声で話し出した
「ん?なんですか?」
「新幹線。ここから2時間半かかるの。夜1人で、揺られて、気持ち悪くなっちゃって、孤独で、不安で、気が付いたらこうしちゃってた。」
怯えながらも話してくれた奈々さんの目には涙が浮かんでいた。
「私、通学無理かもしれない。電車が怖いの。でも一人暮らしも出来なくて。もう大学ダメなのかな。せっかく浪人してこの大学に入れたのに。」
奈々さんの為に僕は何ができるだろうか、1つの案が浮かんだ。気持ち悪がられるかもしれないけど。それでも。奈々さんを守りたいから。
「僕と、一緒に暮らしませんか?」
必死に出た一言だった。でも、これしか彼女のことを守ることは出来ないと思った。彼女の面倒を見よう、一生。そう胸の中で誓った。しかし、いいよと言われるわけが無い。出会ってまもなく付き合ってもない男女で同棲なんておかしいだろう。引かれるに決まっている。何を言ってしまったんだと急に後悔の念でいっぱいになった。
「いいね、親に相談してみる!」
奈々さんの返信は驚くものだった。それから奈々さんの持ち歩くカッターナイフを預かり、彼女は帰って行った。
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親に相談したらいいって!!信用出来る相手だって話したから!これから宜しくね!
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本当ですか?じゃあ家探しからですね!どんな条件とかありますか?
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自分の部屋が欲しいから2DKがいいな!あとトイレと浴槽べつがいいな!
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他にありますか?
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うーん思いつかない!実際に見学して考えていこ!
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その後のLINEだ。彼女の両親から許可が降りたらしく、僕達は同棲することにした。次の日、なんで僕と同棲することを決めたのかきいてみようとおもった。
「奈々さん、なんで僕との同棲にすぐいいねって言ってくれたんですか?」
「だって私レズビアンだから。」
「え?」
頭が真っ白になった。
「私恋愛対象女だし、性別ないみたいなもんだし。きっとアイラとは何もないと思って。そうでしょ?」
何も言い返せなかった。
「あと私のこと凄く気にかけてくれるからお兄ちゃんみたいで。あ、年下なのにお兄ちゃんって変だよね笑。だから人とずっと一緒に暮らせられて大学から近いところに住めるならいいかなって!」
「そっ、、、そっか、、、、。」
勿論やましい気持ちがあって同棲を提案した訳じゃない。しかしここまで断言されるとは思わなかった。この時、奈々さんへの気持ちが恋だったことに気づいた。あの時の文乃さんと同じように。複雑だ。これからどうして行けばいい。
それから不動産へ行って色々な部屋を見た。その中で1番大学から近い2DKの部屋に住むことに決めた。新しい家に家具を運び、新しい生活が始まろうとしていた。
「楽しみだね!私これで鬱でもパニック起こしても何とか大学に行けそう!良かった!」
そう笑っている奈々さんを見て、複雑だった自分の気持ちに決着をつけた。自分の恋心を閉じ込めてこの人を守ろう、そう再び誓ったのだ。
続きます。
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