隣接業務を短期間でM&A!スピード感を持って事業を強靭にする「新潟市・株式会社ヒューマンリソース」
エスイノベーションの大杉りさです。事業承継をきっかけにイノベーションを起こした企業にインタビューする「地域からはじめる事業承継」今回は、新潟市の「株式会社ヒューマンリソース」を紹介します。 短期間で複数の隣接業務をM&Aし、スピード感を持って事業を拡大する、東條取締役にインタビューを行いました。
ー ヒューマンリソースの事業について教えてください
2017年に、子ども向けのプログラミングスクール事業で創業し、現在は7つの事業を展開しています。
・子ども向けプログラミングスクール
・一般向けパソコン教室「スタディPCネット」
・パソコン修理中古パソコン販売
・放課後デイサービス事業
・障がい者グループホーム事業
・学習塾「満点塾」
・メロンパン専門店「横浜めろんど」(横浜市青葉区・横浜市港北区・さいたま市浦和区)
ー プログラミングスクールからどのように事業を多角化されたのですか?
私たちが運営しているプログラミング教室「ミラプロ」は、カリキュラムはありません。子どもたちは好きなことに取り組み、私たちは問題解決のロジックを教えるだけ。この「カタ」にはめないスタイルから、発達障がいの子どもたちも通ってくれるようになりました。集団行動は苦手だけれど、1人でコツコツ取り組む事が得意で、集中力もあります。IT技術が加速する中、発達障がいのある子どもは大きな可能性を秘めていると感じました。そこからプログラミング教室の姉妹校という形で、発達障がいの子どもたちの為の「放課後デイサービス事業」を立ち上げました。
ー 既存事業とのシナジー効果を活かした新規事業が生まれたのですね!
ヒューマンリソースの事業の主軸は「教育」と「福祉」です。その後、「放課後デイサービス」の隣接事業として、障がいがあっても自立した生活が送れる、「グループホーム」も立ち上げました。
ー 事業承継の必要性を感じたのは?
企業を成長させ黒字化するまでには、当然時間がかかります。それぞれの事業を一から作り上げていたのでは、スピードが足りない。そこで、隣接業種の買収(M&A)に着手しました。
ー 最初のM&Aについて教えてください
2022年の冬に、M&A仲介サイトを通じて、新潟市秋葉区のパソコン教室とパソコン修理部門を買収しました。IT系の教室を運営していると、「PC販売はありますか?」「修理できますか?」と聞かれることが多く。修理部門は需要があると感じました。株式譲渡ではなく、修理部門事業に関する権利と義務のみを承継する事業譲渡を行いました。
ー 承継の際、留意したことはありますか
うちのリソースで事業が再生可能かの見極めです。決算書、会社の組織図、直近の売上も確認しています。数字は嘘をつきませんし、そこから手放す理由も見えてきます。できるだけ価格は低く、むしろ赤字でも良い。実際、秋葉区の案件は赤字でしたが、パソコン教室の集客や運営は、うちの強みでもあったので、再生可能と判断しました。
ー 事業承継引き継ぎ補助金等の活用はいかがですか
助成金・補助金使うと承継のスピードが落ちますよね。そもそも、助成や補助金に頼る経営って長続きしないはずです。うちは補助金の活用はしていません。
ー 2022年に着手し、M&Aはどれくらいの期間で終えたのですか
4ヵ月くらいですね。もちろん、規模が高額になれば時間も必要ですが、1000万円以下の承継であれば、かなりのスピード感で進めることができます。
ー 次に着手した事業承継は
学習塾です。プログラミング教室に通っている小学生たちは、中学生になると学習塾に通うようになります。だったら自社で持ってた方がいいよねって発想です。学習塾の売却案件って多いんですよ。
ー どのような塾をM&Aしたのですか
新潟市内の「満点塾」です。塾は休止状態でしたので、3名の講師を新たに採用、建物やHPはそのまま引継ぎました。2024年2月に塾を再開したので、M&Aに費やした時間はわずか3ヶ月です。
ー 「満点塾」の運営はいかがですか
現在、塾生は30名を超えました。プログラミング教室、放課後デイには、約250名の子どもたちが通っています。その10%が「満点塾」にも興味を示してくれると仮定して25人。新規で5名プラスできれば黒字です。塾の運営はM&A前に、黒字化できると判断していました。プログラミングスクールと放課後デイの保護者さんからは「ミラプロの塾なら間違いないね!」と言って貰え、塾生の3分の2は関連スクールからの紹介です。
ー 事業承継!順調ですね!
いやいや、困難続きですよ。例えば、雇用を引継いだスタッフが定着しない…。これは承継前より待遇を良くしてもです。
ー なぜでしょうか…
赤字の会社って忙しくないし、ある意味居心地がいいんですよね。そこから、集客も、SNSも、お客様対応も…って事業が勢いに乗ってくると、「大変だな〜」って、キャリアアップとは真逆の発想ですね。あとは、秋葉区の事業承継には続きがあって…。なんと、パソコン教室と修理部門が入っていたビルが取り壊しになりました。
ー 撤退せざるを得ないという状況ですか
そうです。パソコン教室や修理部門は、既存のスクールや店舗に吸収しました。ただ、それでもゼロから作るよリは圧倒的にプラスです。想定内。全く懲りてないです。実際、今年(2024年)はパン屋さんも事業承継しました。
ー こちらも「教育」「福祉」の隣接業務となるのでしょうか?
もちろんです。障がい者の方に就労場所を提供する為です。弊社としてもフランチャイズとして発展できる事業を複数持っています。そのため、遠隔地でのオペレーションのノウハウもこの事業で得られるのではないかと思っていました。
ー どのような売り物件だったのでしょう?
こちらも仲介サイトの売却物件でした。10坪程度の小さなパン屋さんで。店舗は、横浜市青葉区・港北区、さいたま市浦和区の3つです。前オーナーは不動産関連の方で、前オーナーはかなりの遠隔地から経営をしていたようです。
ー 立地もよく問題はなさそうですが…
お店のパンは大変おいしいのに、店舗の情報を地域の人たちに届けるのがうまくいってなかったのがわかりました。今までの事業を育ててきた経験の中で弊社は、情報発信、集客が得意とする分野だったので、十分リカバリができるのではないかと思いました
ー 売却物件(パン屋さん)のどんな所に魅力を感じましたか?
ワンオペで、焼き上げから販売まで「自走」できるところです。障がいのある方でも、作業が簡素化されているので、十分こなせます。あとは、近さですね、新潟から新幹線で約2時間の距離ですし、月に数回は、こちらから社員を送ることもできます。年明けに地震が発生しましたが、緊急時のリスク分散として、新潟県以外の事業拠点の必要性も感じていました。
ー 障がい福祉事業の隣接業務といっても、異業種の承継に不安は?
なかったですね。A型・B型作業所に加え、しっかりと売上を上げられる店舗を持つことで、グループホームの皆さんの就労場所も安定しますし、小売業の経営ノウハウを知るという点でもヒューマンリソースにとって必要なM&Aだったと思います。
ー パン屋さんの再生は、どのようなところから着手されたのでしょう?
まずは看板を作りました(笑)次にHP作成、SNS配信。従業員(アルバイト)は、条件は変えずに雇用を引き継ぎ、新たなアルバイトの面接も始めています。オープン後は半額SALEを行い、看板商品の「メロンパン」の美味しさを多くの方に知ってもらいました。
ー 事業承継に要した時間は?
4ヶ月です。実は、児童発達支援施設の事業承継と並行して進めてました。
ー 事業承継を同時に二つ!ですか!
はい。発達障害のある未就学児を、幼稚園などと連携し、早期療育するための施設です。こちらも事業承継の手続きを終え、10月1日に新潟市中央区に「けやきのもり」としてオープンしました。
ー 東條さんが考える事業承継のメリットを改めて聞かせてください
ヒューマンリソースは社会から選ばれる会社を目指し、多くの隣接業種を展開してきましたが、M&Aは事業を拡大する一つの手段です。子供たちの成長に合わせワンストップで選んでもらえるサービスを提供するにはどうしたら良いか、スピード感を持って事業を強靭にしていく手段としてM&Aを選んだだけです。
ー 売り物件の見極めで必要な事はありますか
お手頃な物件は沢山あります。でも事業に隣接しない業種の買収は、むしろ企業の成長スピードを鈍化させます。企業とお客様にとって必要な業種を見極める事が大切です。ニーズがあれば必ず黒字化できますよ。
ー これからの新潟のM&A(事業承継)についてどうお考えですか
新潟でM&Aは、まだそれほどメジャーではありませんが、これから地域でもM&Aが活性化してくるはずです、そうなれば当然値段が上がる。条件の良い物件は、市場に出ないうちに無くなりますよね。ですから、良質な売却物件が沢山ある今がチャンスです。
ー M&Aを検討している方へアドバイスを!
経営者は、最後に必ずM&A(事業承継)をやらなければならないんです。歳も重ねるし、病気になるかもしれない。その時、誰に会社を託すのか。誰だって、自分が大事に育てた事業を、安く買い叩かれるのは嫌です。ギリギリになってから、仲介業者や銀行の言いなりなんて、これほどつまらない事はありません。M&Aのノウハウは企業のスキルの1つと言えます。社長がいなくても、社員でしっかり自走できる状態をどの経営者も望みます。それこそがイコールいつでもM&Aできる状態とも言えます。
ー ヒューマンリソースのこれからビジョンを教えてください
これからも社会から必要とされる企業を目指していきます。ものや情報が溢れ、ニーズが多様化していく現代に柔軟にこれからもしっかりアンテナを張って変化を見逃さず、M&Aも一つの手段として経営にチャレンジしていきたいと思います。