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元プロ野球選手の挑戦。毎日の食卓に「おかゆ」を

2025年問題として大きなテーマとなっている中小・中堅企業の事業承継ですが、課題となっている事業承継をきっかけにイノベーションに成功している企業が増えています。そんな企業に自社独自で取材を行い、次のイノベーションのきっかけとなる記事を発信しています。今回は、元プロ野球選手が「おかゆの専門メーカー」を承継した事例を紹介します!

プロフィール 中山大(たかし)1980年生まれ 出身:新潟市。新潟大学人間教育科学部卒業後、株式会社バイタルネットに入社し、社会人野球選手として4年間所属。その後、2007年独立リーグ・新潟アルビレックスBCの球団職員となる(うち2年間は選手として活動)、その後富山サンダバーズへ移籍し、9年間BCリーグに携わる。株式会社エヌエスアイ新潟市支店長・(一社)まちづくりスポーツ支援協会代表理事・株式会社マックブランド代表取締役社長・株式会社ヒカリ食品代表取締役社長

ビジネスモデルを学んだ球団時代

アルビBCでは、2年間プロ野球選手として活動しましたが、実は、球団事業のオープニングスタッフとして入社しています。球団事業の立ち上げ!これは、ビジネスモデルを学ぶ最高のチャンスだと感じました。選手生活後、コーチになってからはオフシーズンは営業もしましたし、移籍した富山では、球団代表補佐として、球団経営にも携わりました。プロ選手時代は、もちろんチームの為に全力を尽くしましたが、プロの選手として飯が食える時間は限られていますし、球団経営に関わりながら、いつかタイミングの良い所で独立し、会社を持ちたいと考えていました。

©️新潟アルビレックスBC

事業承継の転機

2015年、富山から新潟に戻り、株式会社エヌエスアイに入社(契約)しました。エヌエスアイは紙の卸をメインとした会社ですが、新規事業として任されたのが、B .LEAGUE・新潟アルビレックスBBのホームゲームイベント事業でした。

アルビBBのホームゲームを観戦して感じたのが、アリーナグルメがマンネリ化してた事ですね。ここから脱却しようと。まずは、試合ごとにアリーナグルメの出店業者を変えました。フリースローが入ったらビール一杯サービス!!!ゲーム性を持たせたブースも人気でした。他には、音、匂い、様々な仕掛けで、お客様を引き寄せる動線を考えたり!あの頃は正直楽しかったですね〜!お陰様で、担当した1年目で、B.LEAGUEアリーナグルメ1位を獲得することができました。もちろんデータや収益も大事ですが、目の前にいるお客様が何を求めているか、肌感覚を養わせてくれた球団時代には感謝しています。

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イベント事業を社団法人化

2年目には、このイベント事業を、エヌエスアイから独立させ「まちづくりスポーツ支援協会」として一般社団法人化し、僕はその代表理事になりました。でも、紙の卸業を専門とするエヌエスアイが、今後業績を伸ばす為には、独自の商品(メーカー)が必要だと感じ始めていました。

そのようなタイミングで、税理士事務所から紹介されたのが、おかゆメーカーの「ヒカリ食品」でした。

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おかゆの可能性

日本の高齢化はハイスピードで進んでいて、お粥の需要は必ず増える。さらに、お粥専門の会社が少ない。差別化をするチャンスもあるし。海外へ販路を拡大しても面白いなと思いました。何よりも、新潟出身者として、いつかは米や酒を使ったビジネスで、地域を盛り上げたいと考えていたので、早速、エヌエスアイとしてM&Aを進めようと動き出しました。

世界的な新型コロナウィルスの流行…

ちょうどその頃、新型コロナウィルスが流行し始め。事業を始めるにはリスクが高すぎるとの社長判断で「ヒカリ食品」のM&Aは白紙に戻す事になりました。でも、僕の方が諦めきれなかったんですね(笑)エヌエスアイができないのなら…。

「僕、買ってもいいですか?」「いいんじゃないの」

新型コロナウィルスが深刻化する2021年4月。社長の一言で。「独立」という目標が突如現実のものとなりました。

経営の承継

2020年4月、事業承継により、ヒカリ食品の代表取締役となりました。話し合いで、前社長からの要望は全て受け入れることに。まずは当時の社員全て(10名)を継続雇用しています。実際の所、社長も社員も不安だったと思うんですよね、自分たちが大切にしてきた会社がこれからどうなるのか。もちろん良いところが沢山あるからこそ、ヒカリ食品がこれまで継続できた訳ですから。これまでの強みを生かしながら、時代にあっていない部分は少しずつ修正していこうというスタンスにしました。

課題の引き継ぎ

まず初めにやった事は、「ヒカリ食品」全体を把握すること。「従業員から意見が出ない…」これが前社長から引き継いだ課題だったので、社員へのヒアリングを丁寧に行いました。皆、どんな個性があり、どんな思いで働いているのか。で、いざ蓋を開けてみたら、意見しかない(笑)しばらくの間、事業承継に向けて舵を取り始めていたヒカリ食品は、新しい動きがなく保守的な経営を続けていたんですね。「社長に意見しても、たぶん変えてくれませんよね…」。「うちの従業員は、何も言って来ないんだ!」思い込みのすれ違いです!

社長にして欲しい事って何だ!

ヒアリングによって、社員が社長に求めているものも見えてきました。方向性を導いて欲しい!未来を見せて欲しい!皆、社長に旗を振って欲しかったんです。まず月に一度ミーティングを行い、経営理念を変えました。新しさへの、拒否反応を心配ましたが、当時、目に見えて数字が上がり始めていて。「言葉」より「数字」。数字は社員に安心を与えてくれるものなんだと学びました(笑)

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残業を喜び合えるチームに

新型コロナウィルスが蔓延する中、「おかゆ」は自宅療養者の支援食品として需要が高まり。ヒカリ商品としても、工場の増産体制をとることになりました。実は会社創設依頼、夜間残業をするのは、これが初めての事だったんです。社員がどんな反応をするのか正直心配でした。なので、「これは自宅療養者の皆さんへ届ける為の時間であり。自分たちの仕事は困っている人を支える、社会的意義のある物なんだ」と伝えました。その結果、社員が残業を喜んで引き受けてくれて!あれは嬉しかったですね。普通、残業と言われたらブーイングですよね(笑)

ブランドイメージ

おかゆがどう求められているのか、できるだけリアルなバイヤーさんの声を聞きに行きました。ヒカリ食品のおかゆの旧パッケージは、おかゆの写真が全面に印刷された物で時代に合ってないなというのが正直な感想でした。「おかゆ」って、どうしても体調が悪い時に食べるイメージがありますよね。そうじゃなくて日常的に手に取ってもらい良さを知って貰いたい。他ブランドとの差別化を考え、パッケージはあえて「おかゆ」の写真を使わず、優しいイラストに変更しました。バイヤーさんからも良い反響を貰っています。また、新型コロナウィルスの自宅療養者向けセットに「おかゆ」がセットされた事で、これまでレトルトおかゆを知らなかった世帯にもアプローチする事ができました。この環境の変化は、おか市場全体が見直されるきっかけにもなっています。

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スポット商品でお粥デビュー!

定番商品の他に「七草粥」など、日本の食文化を背景にしたスポット商品を販売しています。まずは、スポット商品をきっかけに手に取って貰う!ヒカリ食品がある五泉市(新潟県)は桜名所100選に選ばれているのですが、その五泉の桜を使った「桜がゆ」も季節商品として取り入れました(売上の一部は植樹活動に寄付)。おかゆを通して、日本の食文化や、季節の慈しみを感じて貰えたら嬉しいですね。

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M&Aの判断基準

事業承継って、情報がいくらあっても不安が付き物だと思います。まずは、リスク範囲を見極める事だと思います。自分が持ってる能力を、この会社に当てはめたら、どこが強くなるか。逆に足りない部分を誰が担えるかを判断する事で、リスクは最小限に抑えられる。でも最後に責任を取るのは自分自身(社長)と覚悟を決めてます!

実は、この夏に、栃木の納豆工場(平家納豆)のM&Aが完了する予定です。災害時のリスクヘッジも考慮して、今回は新潟県内の企業を避けました。いづれもM&Aの基準としたのが財務状況です。少なくとも、1年は経営に大きく手を加えなくても黒字であること。ここが僕の見極めのポイントです。その時間を、経営課題や、社員の育成に費やしたいと考えていて。資金繰りや業績に追われて、判断を見失ってしまうことは避けたいですね。

ヒカリ食品のこれから

会社として、社員を守ること。安全安心で、社会的に意義のある質の高い商品を作ること。ISO22000を満たすシステムづくり、メーカーやブランドを増やしてのホールディングス化。日本の人口減少からも、国内で勝負し続けるのではなく、アジア市場の開拓は視野に入れていきたいですね。最終目標は、球団のM&A!日本人選手が海外で活躍する場を作るのも僕の夢です!

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エネルギッシュな中山社長。アルビBCの選手時代に、小児がん患者の子供たちを訪問する機会があり。病気と闘う子供たちから、好きな仕事をさせて貰える日常がどれだけ貴重かを教わったそうです。モットーは感謝を忘れず、後悔のないように一日を大切に過ごす!中山社長の活躍をこれからも応援しています!ヒカリ食品の皆様ありがとうございました!


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