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その39 役割等級制度とキャリアオーナーシップ

 前回、日本で広く取り入れられている職能資格制度×行動評価(コンピテンシー評価)の組合せが、大変な労力を使う割にその評価結果がぶれる可能性についてお話をしました。職能資格制度、役割等級制度のメリット、デメリット、それと組み合わせる評価制度について、考察を加えてみましたので下表をご覧ください。 
今回のお話は複雑になりますので、その前に言葉の定義と復習です。

言葉の定義
人事制度方針:「人事制度の基本」P56.西尾太.2022.日本実業出版社より引用するとその類型は7つに分類されています。成果主義、行動主義、能力主義、職務主義などがあります。それぞれに特徴があり、経営方針や事業によって何を大切にして人事評価を行うか、評価の考え方を表しています。言い換えるとその組織に必要な能力が記述されその達成度が成長の指針になっていると言えるかもしれません。
人事統治機能の型:今回、私の思いで作った言葉です。人事制度と密接にかかわり、代名詞となり得る呼称の総称です。例えばジョブ型であれば職務等級制度が直截に接続される可能性が高くなりますので職務等級制度をジョブ型と呼称することもあります。一方で、人事統治機能の型としてメンバーシップ型は人事制度と結びついた時に「行動主義」とも「役割主義」とも接続できる可能性があります。つまり「人事統治機能の型」と「人事制度のタイプ」は2軸での組合せ(マトリックスの作成)が可能ということになります。このような思索からジョブ型、メンバーシップ型、キャリアオーナーシップ型という機能の概念を総称する必要があり、「人事統治機能の型」という言葉を作りました。
人事統治機能の型①ジョブ型(雇用):「職務等級制度(ジョブ型雇用)では仕事毎に、職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)で仕事内容を明確にする必要があります。」(ブログ21より引用)。職務と報酬がダイレクトに接続されていて、生産現場でのコスト計算的に極端な表現をするならば、A作業は○○円、B製品を100個作ると△〇円ということになります。人事制度においては、職務記述書に事細かにやるべき仕事が記述され、書かれていなければやる必要がありません。後輩が出来て仕事を教えてあげてと指示されたら職務記述書に追記して、報酬もその分だけ追加する必要があります。厳格に申し上げるならこういうことになります。
人事統治機能の型②メンバーシップ型(雇用):「雇用の無限定性を前提に企業内で社員を育成・活用できるモデルは、成長、拡大を目指す組織の意図を反映できる効率的な仕組みと表現できます。」「生産性の向上を一義とする定型化された就労スタイルや生産システム、あるいは年功序列とそれに紐づく賃金制度」(ブログ21より引用)
人事統治機能の型③キャリアオーナーシップ型:キャリアオーナーシップという言葉は人事の世界ではすでに一般的になっているようで、人材・組織開発会社などのWebサイトでも見ることが出来ます。(以下引用 パーソル・キャリアHP
「キャリアオーナーシップとは、個人が自分の『キャリア』に対して主体性を持って取り組む意識と行動(=オーナーシップ)のことをいいます。 『キャリアオーナーシップ』という言葉は日本で生まれた比較的新しい造語で、明確な定義はありません。代表的な詳しい説明として、『個人一人ひとりが『自らのキャリアはどうありたいか、如何に自己実現したいか』を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとっていくこと』(引用:経済産業省、「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」報告書)」
ジョブ型、メンバーシップ型についてはブログ「その21 雇用における3つの無限定性」「その37 雇用形態と評価制度」で詳細にかかせていただきましたのでそちらもご参照ください。 

復習です。(資料を再整理しました。)
人事統治機能の型の特徴を整理しました。それぞれの人事統治機能の型には特徴があって「人事制度方針」と同様に何を主眼にしているのか。例えば働き方なのか、成長性なのか、市場適合性なのか。1990年代までの時代と現代で採る選択肢の違いは何か、組織と私たちの価値観とを適合させる仕組み、統制機能はどれなのか選択していかなければならないと思っています。岐路に立っているのは私たちの組織であり、私たち自身なのではないかと考えています。
(表が読みにくいと思いますので添付にエクセル版を準備しました。)

職務主義と行動主義と役割主義

人事統治機能の型と人事制度方針の親和性検討  
 先述のように、「人事統治機能の型」と「人事制度方針」とは同じ軸の上にあるように見えて実は、下表のようなマトリックス状の組合せがあるのではないかと考えています。その証左として、たとえば「職務主義」との組み合わせにはジョブ型とキャリアオーナーシップ型が存在し得ると考えられます。そのほかにもいくつかの組合せは可能で、何を選択すべきかを「業務軸」「(人事)評価軸」「育成軸」で〇△×をつけてみました。

人事統治機能の型と人事制度方針の親和性検討

このように検討していくと、いくつかの事柄に気づくことが出来ます。
①    ジョブ型とメンバーシップ型とキャリアオーナーシップ型での組合せの可能性が高い人事制度方針は「行動主義」と「役割主義」であること。
②    メンバーシップ型でも「役割主義」の「役割定義書による評価」「組織の支援による自律成長」を採ることが出来ること。
③    メンバーシップ型でも「役割主義」による役割評価を採ることで、人事評価の負担が大きく減り、ある程度の客観性、公平性、妥当性が確保できる可能性があること。 (ブログ 「その38人事評価における心理面での基本的な帰属のエラー」ご参照)
 
さて、皆さんの組織は何を大切に思い、どのような選択をするでしょうか。
 
このブログに対するご意見、ご感想などは大島(ooshimatomohiro@gmail.com)までお願いします。

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